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 その後の 「インターフェロンベータ1bは日本人の再発寛解型MS患者において有効である:ランダム化された多施設研究」論文評価について 2009年11月12日

芦田さま from 「Xさん」

あまり時間が無いのですが、Pさんのご意見(http://www.ashida.info/blog/2009/11/_1bms_1.html#more)についてやや疑問を感じる部分について2点のみ指摘させて頂きます。

1)「再発期間」の定義:

→こちらは守備範囲外なので分かりませんが、多機関のデータを合わせた臨床研究なので、事前に専門家内での定義は為されていると推察されます。

その上で、有意差が少しでも出るような解析方法を選んだことはもちろんありえると思われますが、そのこと自体が医師や研究者の倫理観に照らして、逸脱しているとは言えないと思います。

後から振り返れば、インターフェロン投与の対象として相応しくなかったということが分かるとしても、研究の途上においては、まず期待してみた点を咎めることができるでしょうか?


2)以下の部分の解釈について:

The ratio of the annual relapse rate in the 250 µg group to that in the 50 µg group was 0.608 (–39.2%) in the OS-MS patients and 0.746 (–25.4%) in the C-MS patients, i.e., showing comparable treatment effects of IFNB-1b in patients with OS-MS and C-MS (p = 0.093 in OS-MS and p = 0.106 in C-MS, see figure 2).

私なら次のように訳します(正確さを期するために、日本語としては美しくありませんが)。

50ug投与群における年間再発率と250ug投与群における年間再発率との比は、OSMS患者で0.608(39.2%の減少)、CMS患者で0.746(25.4%の減少)であり、即ち、OSMS患者におけるIFNbeta-1b治療効果(もしあったとして)はCMS患者におけるIFNbeta-1b治療効果に匹敵することを示している(ただしOSMSでのp値=0.093、CMSでのp値=0.106:図2)。

「comparable」という単語は決して「similar」ではありません。それをどのように解釈するかだと思います。

ですので、私にはPさんの言われる「しかし、著者らは“showing comparable treatment effects”と記述しています。本当はこれを示すには、“OSMS患者群における(50ug投与群又は250ug投与群の)年間再発率”と、“CMS患者群における(50ug投与群又は250ug投与群の)年間再発率”に“差がないこと”を統計解析によって明示しなければなりません」「解析されているのは、OSMS患者群内部、又はCMS患者群内部、それぞれ別に行われており、OSMSとCMSの年間再発率を直接比較したデータは示されていません」という部分が理解できません。→「にほんブログ村」

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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感想欄

Xさんの以下のコメントについて、追加コメントをします。

「有意差が少しでも出るような解析方法を選んだことはもちろんありえると思われますが、そのこと自体が医師や研究者の倫理観に照らして、逸脱しているとは言えないと思います」

このコメントは非常に重要な指摘です。この研究に存在するかもしれない最大の問題点に関連しています。Xさんのこのままの文章だと、その問題点が明らかになりにくいので、少し文言をつけくわえてみます(括弧内)。

「(研究の結果を見た上で)有意差が少しでも出るような解析方法を(有意差が出るからという理由で意図的に)選んだことはもちろんありえると思われますが、そのこと自体が医師や研究者の倫理観に照らして、逸脱しているとは言えないと思います」

Xさん、どうでしょうか? 結果を見た上で、有意差が出やすい解析方法を選ぶことも「逸脱」していませんか?

この研究での最大の問題点の一つは、「著者たちがデータがそろったあとに、いろいろと解析を試してみて、有意差がでた比較を選択的に採用・報告しているかもしれない」という疑いです。

データを解析しながら結果を見て有意差のでる解析方法を選ぶことは、臨床医学研究ではやってはいけないことです。そして、こういうやってはいけないことをやっている研究が実際に多くあり、大きな問題になっています。

データがそろってから解析方法を選ぶというこのきわめて重大な倫理違反を防ぐために、この研究のような臨床研究には、研究を実際に開始する前に(患者さんを集める前に)、計画書を登録する国際的な制度があります。また、研究計画書そのものが、研究結果が出る前に、査読制度のある医学雑誌に掲載されることもあります。臨床研究の評価法のチェックポイントの一つに、用いられた評価項目や解析方法が、あらかじめ定められたものであったか、というものもありますし、計画書が出版されていれば、計画書に記載された解析方法と、結果を報告した論文に記載してある解析方法とに異同がないかを確認することになっています。

文献検索サイトでselective reportingと検索すれば、関連する論文がたくさん出てきます。ぜひお読みになることをおすすめします。

私は基礎研究のことはよく知りません。基礎研究では、研究の目的によっては、許されることなのかもしれませんね(????)。しかし本当にそうなら、基礎研究の常識と臨床研究の常識とはずいぶん違いますね。

しかし臨床医学研究では、最大の倫理違反の一つです。

もちろん、Xさんは、研究を始める前に(データがそろう前に)、有意差が出やすいような解析方法を選択する、ということについて、倫理観を逸脱しているとは言えないとおっしゃっているのかもしれません。ですから、以上の記述はXさんのコメントに対するコメントと言うよりも、この研究の問題点を再度指摘したということなのかもしれません。問題は「この研究が、データがそろった後に有意差の出やすい解析方法を選ぶという重大な倫理違反を犯している可能性」なのです。

投稿者 大森 : 2009年11月12日 20:18
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