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 大学の「教育の質保証(Quality Assurance in Education)」について ― 全国の大学のどこにもない三つの取り組みについて 2025年05月06日

【はじめに】

授業の質向上への取り組みについて ― 授業情報をいかに共有するか

大学における「教育の質保証」ということについて、私たちは、「授業の質」向上を中核の課題として取り組みました。毎日通う教室の授業が理解できて、それが楽しくなければ、どんなにキャンパスライフが〝充実〟していても意味がないと考えたからです。

日本の大学生は入学時の学力(受験勉強で培った学力)がピークで、高い学費を払って学ぶ入学後の4年間の成長が見えないとよく言われますが、私たちは、この四年間での学習成果が見える大学教育を目指しました。

大学の授業には、参考書も塾も、家庭教師も予備校も存在していません。最高学府の大学には、高校までのような教科書もない。もちろん文科省による指導要領も存在していない。「教員資格免許」を持っているわけでもない。それもあって、同じ科目名であっても、大学の授業は、先生によって全然異なる内容の授業になったりもします。

そのため、大学には、各科目担当の先生の一人ひとりがその〝科目概要〟を書き記しています。通常の大学では、その概要書を〈シラバス〉と呼んでいます。

が、現代の日本の大学では、15回(週に一回90分×15週=2単位)の授業の場合、15回全体の授業概要書(シラバス)は1,000字程度しかありません。90分一回分の授業概要は70字程度、一~二行しかない※。一回90分の授業において先生の話す文字数は2万字以上になりますが、それを二行足らずの〝概要〟とするのは、あまりにまとめすぎ。何を学ぶべきなのか、さっぱりわからない。
※全国の大学のシラバス文字数を数えた研究(論文)は、それほど多くはないのですが、2014年『大学評価研究第13号』(大学基準協会)では、とある大学(「4学部7学科26コースからなる総合大学、学生数は学部と大学院を合わせて約1万人」の大規模有名大学)一科目(90分×15回)あたりのシラバス平均総文字数は711字と報告されています。これで言えば、一回の授業での〝概要〟は50字から多くても70字もないことになります。生成AI(ChatGPT)がWebの公開情報から拾ったシラバス文字数の最新の平均は、「1500~3000字」となりますが(2025年4月現在)、これは、科目内容(「授業計画」)だけではなく、「成績評価方法」「参考文献」「事前・事後学習」「備考・その他」などを含めた総文字数であり、科目内容だけの文字数では、最新のデータでも「750~1500字」(15回分全体)にとどまっています。

私たちの「授業の質」向上への取り組みは、

1.一回90分の授業毎に、教員が学生に「何を」教授するのかを明確化したこと
2.一回90分の授業毎に、「何を」教授するのかだけではなく、そのプロセスや方法を明確化したこと
3.一回90分の授業毎に、単位認定期末試験にかかわる関連を明確化したこと

この三つを明確にすることが、私たちの教育の質保証=授業の質保証でした。特に力を入れたのが、「一回90分の授業毎」ということです。

「一回90分の授業毎」に授業内容が明確にされ、何を・どのように・どこまで教えるのか、学べるのかを明確化すること、またその一回が期末試験とどう関係しているのかを明確化することが、私たちの出発点でした。

前期・後期制を採用する本学では、各15週間の前期、後期制となるのですが、週に一回の授業科目の場合には、15回に渡るシラバスが、それぞれの期首に発表されます。一般的に全国の大学のシラバスは一科目15回分全部で1,000字前後です。一回90分×15回の内容が1,000字だとすると、一回90分の内容は70字足らずとなります。あっても一、二行程度の授業概要です。

重要なことは、科目全体で1,000字ということではなく、一回90分の授業でどれだけの授業情報が開示されているかです。学生は、毎回の授業に準備するのであって、その毎回の授業の基盤となる情報がなくては予習も復習もできないからです。

これと言った教科書もない、参考書もない、家庭教師もいない、塾も予備校もない大学の授業において、二行程度のシラバスで何がわかるのでしょうか。学生がわからないだけではなく、教員も、一二行しか書いていないとすれば、計画的に授業を組み立てているわけではないということです。思いつきのパワポ(PowerPoint)などを用いて、授業をやっているだけです。パワポもまた教員が授業で話す内容のテーマ(それ「について」話される開始点)だけを個条書きにしたものにとどまっており、肝心な内容はそれについて教員が話すトークに流れ去ってしまいます。ノートをこまめに取らない限り、授業の中身はどこにも残らないことになります。

授業の90分の前後であっても授業内容の全体が見える、予習・復習が充分にできる体制を取らないかぎり、大学「教育の質保証」は一歩も進まないと私たちは考えたのです。


【第一のポイント】 〈コマシラバス〉の導入 ― シラバスは一回90分毎のシラバスでないと意味がない

本学では、一回90分ごとに2,000字以上のシラバスを用意しています。この一回の授業コマ毎のシラバスを、私たちは〈コマシラバス〉と呼んでいます。

この〈コマシラバス〉の主要な核は、以下の三つの観点から構成されています。
(1)授業のテーマ
(2)細目 ― そのテーマをいくつの細目(観点)から論じるか
(3)細目レベル ― その細目についてどの程度まで学べばいいのか
(4)履修判定指標

たとえば「日本史入門」という科目の、一回90分のシラバスを考えた場合、以下のようになります。
(1)授業のテーマ「江戸時代について」
(2)細目(①政治と統治体制の変遷 ②経済と都市文化の発展 ③社会構造と生活世界 )
(3)細目レベル ― どこまで理解すれば、細目の理解は済んだことになるのか(理解の終わりend)を示したもの

この場合、細目レベルは以下のようになります。一細目に付き300字以上という記入ルールがありますが、ここでは紙幅の関係上省略して記載しています。

①政治と統治体制の変遷 ※目的endは「政治制度がどのように社会秩序を維持しようとしたか」を理解すること。 
• 知識の習得:徳川家康による幕府創設、三代将軍家光による統治体制の確立、参勤交代・武家諸法度の基本事項まで。
• 理解の深化:幕府と藩の関係性、幕府がいかにして中央集権的な権力を維持したかを制度面から分析することまで。
• 考察の例:改革(享保・寛政・天保)がどのように社会に影響を与え、またなぜ十分な成果を挙げられなかったのかを論じることまで。

②経済と都市文化の発展 ※目的endは「経済の発展が庶民文化にどのような影響を与えたか」の把握。
• 知識の習得:江戸・大坂・京都などの都市構造、金銀銭の貨幣制度、問屋制度、三都文化の基礎知識まで。
• 理解の深化:経済活動がどのように都市文化を支え、町人層の自立や文化的表現(浮世絵・戯作)を可能にしたかまで。
• 考察の例:「贅沢禁止令」など幕府の文化規制と町人文化の反発的発展の関係まで。

③社会構造と生活世界 ※目的endは「江戸時代の社会がどのように人々の生を規定していたか」をより広い観点から捉えること。
• 知識の習得:士農工商の制度的役割、村落共同体、寺請制度などの基礎理解まで。
• 理解の深化:名目上の身分制度と実態とのズレ、農民一揆や百姓訴訟の背景まで。
• 批判的考察:現代の視点から見た江戸時代の身分制やジェンダー観の再考まで。

このシラバスの特徴は、「細目レベル」にあります。文末を「まで」というふうに閉じているのは、言及ネタの提示(始点)にとどまらず、理解の終点(end)を示すこと、「今日のところはここまで理解すればいい」という終点を示すことが学生の学習には重要と考えたからです。授業のテーマ(話題の始点)の提示だけでは、どの程度予習・復習すればそれで済むのかわからないため、取り付く島のないシラバスになるからです。

そして、それぞれの細目に該当する参考教材、参考文献、予習・復習課題の提示などが加わって、一回の授業全体で2,000字以上、一科目全体のシラバスとして30,000字以上の授業情報を、私たちは〈コマシラバス〉として、すべての科目において提示しています。

さらに重要なのは(4)履修判定指標です。これは、単位を認定する基準としての期末試験内容の指標を記しています。本学はシラバスを学生に提示すると同時に、この履修判定指標を公開し、毎回の授業コマの内容が、期末試験の単位認定条件とどう関係しているのかを明確に示しています。

授業はうまくいったとしても、肝心の試験において、シラバスに書かれていた内容が、どのように、どのような難易度において反映させるのかが示されていなければ、シラバスも試験も存在する意味がなくなります。シラバスの文字数も少ない、教材もパワポどまりの授業の多い大学では、試験内容と授業との関係がまったく不明な大学もたくさんあります。

大学の授業は各科目に「単位credit」というものが、履修判定と共に付与され、それが積み上がって卒業資格が得られますが、「単位」は、シラバスに従って勉強したであろう、シラバスに従って履修判定を受けたであろうという「信用credit」です。「信用」に足る「単位」を与えるという原則がこの履修判定指標の意味です。

先の「江戸時代について」一コマ90分の授業で履修判定指標に盛り込まれるものは、以下の指標になります(紙幅の関係で半分以下の列挙に留めています)。

①政治と統治体制の変遷(「政治制度がどのように社会秩序を維持しようとしたか」を理解しているかを問う)
三代将軍・家光成立の統治体制(参勤交代・武家諸法度)について、参勤交代制度の目的、武家諸法度による大名統制策のうち、幕府の中央集権化に直結するものなど。

② 経済と都市文化の発展(「経済の発展が庶民文化にどのような影響を与えたか」を把握しているかを問う)
江戸・大坂・京都の三都における問屋制度の役割、金・銀・銭の貨幣の主な流通用途、経済活動が町人層の自立を促したメカニズム(信用取引・株仲間など)についてなど。

③ 社会構造と生活世界(「江戸時代の社会がどのように人々の生を規定していたか」を捉えているかを問う)
寺請制度の目的・機能について、名目身分と実態のズレ(武士の内職、農民の兼業など)について、農民一揆や百姓訴訟の背景としての年貢負担・領主統治の問題点についてなど。

シラバスを充実させると共に、履修判定指標もしっかり学内外に提示することが、私たちの、「授業を大切にする」骨格の考え方でした。


【第二のポイント】 生成AIの教育導入への取り組み ―「テストワーク」による知識の定着について

2025年4月私たちは、全国で初めて学士課程、大学院の教員・学生全員に生成AI(ChatGPT Education)アカウントを付与しました。入学者が卒業する頃には、生成AIの利活用を前提としたOUTPUTが求められるようになるからです。求められる質量と共に仕事のスピードも一気に上がっていくだろうと考えました。

しかし、生成AIに私たちが着目したのは、社会的な要請以前に、教育活動、授業活動の中核にそれが使えると考えたからです。

その眼目は、〈知識の定着〉ということでした。いくらシラバスや履修判定指標を具体的に充実させても、それらが日々の授業の中でどれだけ定着していくのか、大学の豊かな知が、学生自身の血となり肉となるのか、が課題だったわけです。

一回切りの期末試験に向けて勉強が集中するだけでは、またすぐ忘れてしまう。そもそも教員の作る〈試験〉を〝待つ〟だけでは、点数さえ、合格するかさえ予測するのが難しい。シラバス、パワポ、教材、履修判定指標などの授業資料が豊富にあっても、先生によって何が問われるのか、先生が何を解いて欲しいのかという観点なしには、それらの授業資料を読み解く手がかりは具体的には見えてこない。

ところが、これらの授業資料をすべて生成AIに読み込ませれば、無限に多様に模擬試験生成されます。たとえば、「(先に事例として挙げた)江戸時代についてのシラバスと履修判定指標を読み込んで試験問題を3問作ってください」と生成AIに要請すると数秒で以下の模擬試験を作ります。「解答・解説付きで」と続けて指示したものの全体は以下の通り。

【政治と統治体制の変遷】
問1:武家諸法度(寛永令)において、幕府の中央集権化に直接寄与した規定を1つ挙げなさい。
解答:無断での婚姻禁止。解説:大名同士の婚姻は同盟を意味するため、無断での婚姻を禁じることで幕府が大名間の結束を防ぎ、中央集権を維持しようとした。

【経済と都市文化の発展】
問2:江戸、大坂、京都の三都において、流通と経済を管理する役割を果たした制度は何か。
解答:問屋制度。解説:問屋は物流を支配し、各地からの物資を都市内で分配する重要な役割を担った。都市経済の発展に欠かせない存在だった。

【社会構造と生活世界】
問3:士農工商の制度において、農民が果たしていた社会的役割を答えなさい。
解答:年貢を納めて幕府や藩の財政を支えた。解説:農民は収穫した米を年貢として納め、それが幕府・藩の財政基盤を成していたため、農民支配は江戸時代の社会秩序維持に不可欠だった。

これらは、紙幅の関係で最少の提示になっていますが、10問でも100問でも、また難易度別にでも、無限に多様に生成することができます。また問題だけではなく、解答解説の詳細度も自由に変えながら生成させることができます。

大学教育に不足しているのは、実は、この試験(模擬試験)なのです。高校までの教育なら、参考書・問題集、塾や予備校での模擬試験、業者の模擬試験など様々な仕方で、自分の実力(知識の定着)を測る仕組みが存在していますが、大学で学ぶ科目には、そのような試験の仕組みがありません。

その意味で、大学の授業は、単位認定基準の曖昧さも含めて、基本的にやりっ放しなのです。研究者でもある大学教員にとって、教材を作ること以上に小テストも含めた試験作成は実際、大変手間のかかる作業になります。レポート試験が多いのもその現れです。大学入学後の成長の可視化という課題に具体的に取り組めない大学改革の停滞は、知識の定着を測る試験の、多種多様な提供が難しいということにもその理由がありました。

生成AIの登場は、この問題を一気に解決することになったのです。学生は、一教員の授業進行ペースに応じてではなく、自分のペースで学修することができます。解答解説も「これではわからない」と生成AIに〝苦情〟を言えば、わかるまで教えてくれます。

一回毎の授業情報が、たった一行か二行にとどまるシラバス(他大学のシラバス)では、授業実態と対応したこれほどの模擬試験と解答解説は作れませんが、私たちの、一回一コマ90分で2,000字~3,000字に及ぶ授業情報があれば、実際の期末試験とほぼ同等、場合によってはそれ以上に精緻な問題を作り出すことができます。しかも詳細な解答解説付きで。生成AIのおかげで、模擬試験という形をとった、個別最適な予習・復習・補習学修が可能になりました。

これを私たちは学生自身による「テストワーク」と呼んでいます。授業で積極的に活用するよう教員が日々指導しています。授業内でもこの「テストワーク」の一部を取り込んでおり、すべての〈講義〉は〈演習〉にもなっています。

学生にとっては、単に点数を取ることが目的ではなく、「このシラバスを書いた先生は、こういうことを問い確かめたかったのか」と、様々な仕方でシラバステキストの縦糸、横糸を見出すことにもなり、シャドウ授業とも言える教育を可能にしています。期末試験で誰も落伍しない、知識の定着を確実にする体制です。

また学外の資格検定試験対策としても、その日のその回の授業内容(シラバス)を生成AIに読み込ませて、「関連国家試験の過去問を10問作れ」と指示すれば、数秒で、関連過去問(と解答、解答解説)を〝生成〟させることもできます。その日の授業のどういう要素が、学外資格試験と結び付いているのかの紐付けを生成AIが無限に多様に作り出してくれるため、この種の「テストワーク」もきわめて実践的な意味をもつことになります。またそのことが、授業の意義を再賦活することにもなります。

【第三のポイント】 学生による授業評価をどのように形成するか ― 学生アンケートだけでは授業改善につながらない

(1) 二種類の学生アンケートの意味 ― 期末試験自体を学生に評価させる意味について

シラバスの充実と、それに基づく「テストワーク」の体制だけではなく、私たちには、他大学にはない独特の学生アンケート体制が存在しています。

私たちの学生アンケートは2種類。
①「授業アンケート」、②「シラバスアンケート」です。二つとも科目毎に授業時間中(最後の5分で)取ります。前者の「授業アンケート」は、前期(5月下旬~6月上旬)・後期(10月下旬)の期中に取ります。

①期中アンケート(=「授業アンケート」)を取るのは、他大学にはない本学の特徴です。というのも、授業が全部終わって、「この授業、よくわかりましたか?」と聞いても、後の祭りだからです。期中で改善できるところは改善しておかないと、わからない授業が4ヶ月間近く続くことになります。これは学生にとっては苦痛そのもの。集計は授業直後にただちになされ、教員は次週の授業から学生の指摘をフィードバックできます。

②期末アンケート(=「シラバスアンケート」)は、代表的な2単位科目(週一回×15週)の場合、15回目の最後で取る大学がほとんどだと思いますが、本学は、16週目の試験週間のとき、つまりその科目の試験が終わった最後の5分間でこのアンケートを取ります。期末中の期末である試験終了時に取る意味は、試験評価を学生にさせるためです。このシラバスアンケートは、以下の三つの〝一致〟を問うものです。

①期末試験内容とシラバスとの一致
②期末試験内容と実際の授業との一致
③期末試験内容と履修判定指標との一致

授業の〝満足度〟がいくら高くても、肝心の期末試験に対する学生の〝満足度〟が高くなくては、意味がないと私たちは考えました。この場合の期末試験の〝一致の満足度〟とは、15回の、先生の教授への取り組みと学生自身の学修への取り組みとがきちんと試験点数に反映するようなものであったのかどうかということです。簡単すぎても優しすぎても、頑張った学生の努力は報われません。

全国ほとんどの大学では、期末試験の点数は、単位を認定する履修判定に際して、50%以下の意味しか持たない大学がたくさんあります。期末試験が20点か30点でも、期中の様々な〝態度(関心・意欲・態度)〟が評価されて単位認定される場合がほとんど。その中には、小テストのようなものも含まれていますが、期中の小テストを履修判定に加点すればするほど、期末試験の重みは軽くなっていきます。60点未満でも合格する場合が出てくる。

〈単位〉とは、授業全体(15回分全体)の時間の重みに応えてこそ単位であるという思想が、そこでは忘れられています。15回全体の授業を受けてこそ、初盤の授業、中盤の授業、終盤の授業のそれぞれの意味がわかるようにシラバスは構成されています。大学教員であれば、誰であってもそういうふうにシラバスを書いているはず。従って、〝期末〟試験以外に、2単位授業(15回授業の場合)の単位を与える理由はないのです。

私たちの大学が、履修判定指標も含めた詳細なコマシラバスを学生に提供し、生成AI(ChatGPT)の、学生自身による模擬試験作成(=「テストワーク」)を指導するのも、この期末試験の学生満足度を上げるためのものです。ここ数年間のデータでも、この〝三つの一致〟アンケート項目は、全学平均で85点以上の満足度になっています(①完全に一致100点、②ほとんど一致70点、③まあまあ一致40点、④全然一致していない0点の四択ですべて定量化して集計)。


(2)LMS(Learning Management System)による小テスト体制 ― 即時集計、即時フィードバック

しかし、学生による授業評価、試験評価は、たとえ、「満足した」、「よく理解できた」「授業と試験はシラバスに一致していた」と反応があったとしても、あくまでも学生の印象的で心理的な判断にとどまっています。本来の学生による評価は、試験点数でしかない。教員が学んで欲しいことを学べたかという観点なしには、本来の授業評価は存在しない。厳粛、厳密に行われた期末試験とその点数分布は、教員と学生の〝本心〟が見える場処です。ただし、最後に本心が見えてもやはり〝後の祭り〟。学生にとっても教員にとってももう手遅れです。

授業の最前列に座ってノートも熱心に取り、うなずきながら聴講する学生がいても、試験をしたらさっぱり点数が取れないということはいくらでもあります。学生アンケートの満点が、取り逃がすのは、この落差です。授業の理解度の水準を設計しているのは、教員自身であるわけですから、熱心に聴いている学生の点数が期待通りでないとしたら、どこかで授業のやり方が間違っているわけです。

これを修正するには、期中の毎回毎回の終了時に小テストをするしかないと私たちは考えました。ほとんどの教員が自分の教授したいことの、学生への浸透度を測り損ねているからです。学生の授業満足度とはいっさい関係ないところで。

私たちの授業では、すべての授業で小テスト(10問5択試験)を実施しています。10問中の問題毎の解答率も瞬時に出るようになっているため、コマシラバスに込めた思惑(テーマの細目、細目レベルと小テスト項目と関係などの)授業の実際との知的で専門的なズレが手に取るようにわかるようになっています。すべての授業で、前回の復習から始めることができるのも、この各問毎の解答率を参考にできるからです。二コマ連続授業などでは、一コマ目の失敗を即座にフィードバックしながら授業が進みます。

したがって、この小テストは、学生を評価するためのものではなく、教員の授業デザインを評価・分析するためのものです。履修判定(単位認定)には一切用いません。期中評価を加えることは、先述したとおり、〈単位〉認定評価にノイズを与えるものだからです。

小テストは、LMS上(=パソコン上か、スマートフォン上)で、授業終了時行われ、回毎の受講人数中の順位、偏差値、最高点数と最低点数、平均点、標準偏差のすべてが瞬時に学生の手許でわかるようになっています(図参照のこと)。学生は回を重ねる度にそれらの履歴を通覧し、期末試験に向かっての学習の仕方を、「テストワーク」と共に色々な仕方で軌道修正することができます。

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全学の小テスト基準としては、平均点80点前後、標準偏差11~13という目標を教員に課しています。平均点がこれ以上高くて、標準偏差が一桁になってしまうと、上位学生と下位学生との点数が開かず、上位学生がやる気をなくしてしまう。標準偏差が大きくなると、クラス内で二極化が起こっており、教員が下位学生に見向きもせずに授業をやり続けているということになります。平均点80点前後、標準偏差11~13で小テストの点数と点数分布が期末まで維持できれば、本試験では、①60点未満の不合格者はほぼない状態 ②上位者も満足する難易度レベルを維持できている状態ということになります。

こうして15回(2単位授業の場合)、教員と学生とは試行錯誤を重ねながら、期末試験に向かっていきます。学部・学科内では、これらのデータを教員同士で吟味しながら、心理的な満足度だけではなく、本来の教育目標と実際の授業との関係にたえず目をやって組織的な授業改善ができる体制を整えています。


【まとめに代えて】

大学の「教育の質保証」というものの究極の形は、〈単位credit〉の実質化だと、私たちは考えました。それは、具体的には、履修判定の可視化です。学生が身につけた知識・スキルの何をもって、単位が付与されたのか、どのような形でそれは〝試験〟されたのか、それを明確化することが、〈単位〉の実質化の意味です。

そのためには、シラバスのコマ単位の詳細化、履修判定指標の詳細化は必須の課題でした。期中の、授業改善をフィードバックするアンケート、試験後の、学生による試験評価も含めた期末アンケート、また毎回の小テスト、この、他大学にはない二つのアンケートと毎回の小テストが、試験の点数結果だけではない学生による評価も含めた総合的な授業評価、計画と実質との総合的な授業評価を支えています。

これが、私たちの「教育の質保証(Quality Assurance in Education)」に対する回答です。15年以上の年月と、教職員の継続的な努力なしには、ここまでの体制を作ることはできませんでした。とはいえ、〈教育〉という〝人間の成長〟に関わる仕事には、終点がありません。人間環境大学は、衰退しつつある今日の大学教育の社会的な信頼回復に向けて、今後ともさらなる改善に向けて邁進する所存です。

投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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