芦田の公式WEBサイト 「芦田の毎日」について 私の推薦商品 今日のニュース 写真ブログ 芦田へメールする

 多発性硬化症(CMS/OSMS/NMO)とは何か ― 何がその治療に最適なのか(ベータフェロン治療はどこまで有害か)   2008年03月14日

2008年2月11日の私の記事に端を発して、2008年3月8日にとりあえずの“終わり”(まだまだ終わっていませんが)を迎えたPさんとのやりとりを全て纏めてみました。全部で10万文字にもわたるちょっとした長編ですが(400字詰め原稿用紙で250枚になり、A4版で印刷すると100枚になります)、私にはあっという間の出来事でした。

このやりとりは、多発性硬化症の専門医(あるいは先端研究者)には滅多に診てもらえない多くの多発性硬化症(CMS/OSMS/NMO)患者にとっても極めて有意義なものだと思います(私も数々の勉強が出来ました)。理論的な(研究に留まる)話しのようにも見えますが、治療薬の選択、将来の治療展望も含めて実践的な指針も随所に示されています。ぜひじっくりと(この週末にでも)読んでみてください。下手な小説を読むよりも刺激に満ちています(不謹慎かな)。

※なお、文中盛んに繰り返される CMS/OSMS/NMO について最初に説明しておきます。

●CMS(=Classical MS 従来型MS):大脳・小脳に主病巣を有し、欧米に多いMS(とされている)
●OSMS(=optical-spinal MS 視神経脊髄型MS):視神経、脊髄に主病巣を有し、日本、アジアに多い(とされている)
●NMO(=neuromyelitis optica,Devic's disease 視神経脊髄炎):症状はOSMSと似ているが、抗aquaporin 4抗体が陽性の場合は、OSMSではなくNMOではないか(と疑われている)

ただし、Pさんとのやりとりの議論は、これらの3現象の区別と連関を問い直しているため、あくまでも暫定的な記号とお考え下さい。Pさん自身はいつも「NMO/MS」という表記を終始一貫堅持されている。この場合「/」の意味が重要(と私には思える)。

●家内の症状報告(90):未だに「多発性硬化症」と「NMO」との初期判断を優先させない病院がある ― なぜNMO抗体検査を受けさせないのか? 2008年02月11日

未だに「多発性硬化症 」と「NMO」との初期診断を優先させない病院があります。まずは、NMO抗体検査を受けさせるべきなのに。私が、家内の症状に付き合いながらNMO論をまとめて発表したのが、昨年の2月19日(http://www.ashida.info/blog/2007/02/msnmo.html)。にもかかわらず、それ以前の古い検査や治療を未だにくり返している病院や医師が存在している。こんな聞き捨てられないメールを今日先ほど頂きました。同様の悩みを抱えて苦しんでいる方もまだまだ多いと判断し、個人が特定できないよう一部修正しながらメールの内容を公開します。

いつもブログを拝見させて頂いております。

突然のメールで申し訳ございません。

お手すきの時に読んで頂ければ、幸いに思います。

奥様の病状は、いかがですか 。

私は、○○県に住む○○○と言います。

21歳の娘がいますが、昨年の1月に突然脱力し、歩けずに入院いたしました。

近くの総合病院に入院致しましたが、直ぐに「多発性硬化症の疑い」があると診断されました。

しかし、どの検査も異常なしで、1週間で退院いたしました。

その後、左の手の痺れ、握力がない、目の奥の痛み、頭痛、左足のつっぱりなど症状が改善しなかった為、T医大に行きました。

その病院の○○担当医に、「100パーセント、重い病気じゃないから、心療内科に行きなさい」と言われました。

でも、その後も歩けなかったり、辛い日々を過ごし、今度は、T医大の地元分室の○○先生の所に行きました。

「最初の担当医の見解と一緒です。心療内科に行きなさい」とまた言われ、娘も私も途方にくれてしまいました。

6月になり、またひどく脱力したので、今度は○○のJ医大へ行きました。すると「多発性硬化症の疑い」と言われ、直ぐにパルス療法を受けました。

しかし入院して検査しましたが、どの検査でも大きな問題が見つかりませんでした。娘も私も、T医大でも、総合病院でも、何の治療もして頂けなかったので、パルスだけでも、とてもありがたく、感謝の気持ちで一杯でした。

パルスのお陰で、少しずつ回復しましたが、また、直ぐに悪化しました。そんなことの繰り返しで、気付いてみると一年が経過し、少しずつ戻りが悪くなっていました。

そんな折、先月の末に担当医の先生から、「たぶんNMOだ」と言われました。目にみえて進行しているからでしょうか。それで、今月もう一度、MRIの検査と、髄液検査をやります。

私は、担当医の先生に初めて不信感を持ちました。

娘は、最初からとても目が痛いこと、かなりな頭痛があること、などを伝えていたのに、 なぜNMOの検査について、7ヶ月も経過してから気付くのだろうと。
 
確かにハートは温かい優しい先生ですが、経験と知識に疑問を持ちました。専門医の病院に変えた方が、進行の度合いを遅らせられるのではないかと悩んでいます。

しかし、紹介状もなく行けば、またT医大のように、一番若い先生にあたるとまた不安ですし。

現在の娘の様子といえば、眼痛がひどく、頭痛、脱力、特にウートフの症状が強く、おばあさんになったように、毎日パジャマで過ごし、起きている時間が激減しました。痛い時には、目に隈が出来る程、耐えています。

私は、そんな娘の姿にどんなことをしてでも、今の状態より辛くないようにしてあげたいと、考えています。

私は、輸入業をしていまして、自宅店舗で仕事しています。その仕事を、娘にも手伝ってもらっていました。でも最近は、それも出来ない体調です。はっぱをかけてでも、やらせた方がいいのか、それも悩んでいます。

できれば、毎日決まった時間に起床して欲しいですし、1時間でも仕事して欲しい。どんどん娘の自由がなくなっていくのが、辛いですね。

すみません、止め処もなく私の辛いことばかり書いてしまいまして。本当は、お話したいことがいっぱいありすぎてまとまりません。

読んで頂いただけでも、幸いです。ありがとうございました(2008/2/10 21:48)。

以上がメールの全文。後は住所とお母様の携帯電話番号まで記載されていました(見ず知らずの私に住所と電話番号まで告知されるのだからよほど深刻なのでしょう)。私はお医者様ならいつでも紹介することと多発性硬化症とNMOとは治療法が若干(あるいはかなり)異なるだろうから、早くNMO抗体検査を受けるようにと、返信しました。このコミュニティの最近の記事(最近発症した人の記事)を見ても、未だに抗体検査を受けていない人がいるようですが、「多発性硬化症」と診断を受けた場合でもまずはNMO抗体検査を受けるべきだと思います。

なお、この文中で言う「心療内科」とはご承知のように「精神内科」のことです。多発性硬化症やNMOにまともな知見のない病院や医師は大概の場合、これらの病気の痛みの意味をわからないままに精神病扱いします(そういう場合もあることにはありますが)。特に若い人は痛みの経験が浅いため、神経症的な痛みに耐えるだけでも目にクマができるほど悲惨な症状を体験します。それを放置した大学病院もひどいものです。


>返信して30分も経たないうちに、早速、以下のような返事を頂きました。

芦田様

お忙しい中、早々のお返事、ありがとうございました。とても感謝の気持ちでいっぱいです。

奥様も、やはり病気と闘い続けているんですね。今でも沢山の自由を奪われているのに、更にとは、考えたくもないことです。私もささやかながら、奥様の再発が起きないことを、お祈りしております。

先月の31日に、「NMOかもしれない」と言われてから、私も私なりに勉強してみました。 芦田様のブログもよく読み直し、なぜ主治医は、NMO抗体検査をしてくれないんだろうと、疑問です。

血液検査は、今月の予定に入っていません。しかも新潟大学などに検査依頼を出すので、結果までに時間がかかりますよね。なおさら、その検査が一番先のような気がします。

12日が、今月2回目のMRI検査の予定なので、その時に先生に訊いてみようと思います。 今月は、どんなに痛くても検査に出なくなってしまうからとプレドニンは処方されていません。でも、娘は眼痛が限界だといい、12日には先生に処方して欲しいと言うそうです。

お忙しい中、大変恐縮ですが、お電話で相談にのって頂けませんでしょうか。この先どうこの病気と付き合っていったらいいのか、アドバイスして頂けませんか。

主治医の先生の説明よりも、芦田様のブログの方が、どんなにか解りやすい。本当に、心救われました。私達親子の様に、たくさんの方がきっと芦田様のブログに励まされ、勇気をもらったことでしょう。本当に素晴らしい。ありがとうございます。(2008/2/10 23:43)


私は夜中だったがすぐに記載のあった携帯電話に電話をし、今、家内が話し続けています(現在の時間は11日の深夜0:30)。もちろんベッドの中で寝たままですが。家内も「ひどいわねぇ」と憤慨していますが、他人様のことを考えている場合でもないような気がします(笑)。でもこの女性の場合はまだ21歳(内の息子よりも若い)。お母さんもたまらないでしょう。これも何かの縁。私も微力ながら精一杯ヘルプしたいと思います。


私たちが、その電話でアドバイスをしたのは、以下の諸点。どれもこれもこの病気の常識だが、どれもこれもはじめて聞いたものだったらしい。

1)まず毎日1.5~2リットル以上の水を取ること。そうやって血流をよくすることが大切。(ただしこれには正反対の異論もあるらしい。私の経験上の話しと思って下さい)。

2)深呼吸をどんな場合にでもくり返すこと。これも血流を良くすることの秘訣。血流を良くすることは深い眠りを得るためにも必要。

3)MS患者、NMO患者にとっては、睡眠はそれ自体最高の治療。特に神経を安定させ、炎症を鎮める機能がある。決して怠惰なのではない。

4)股関節を回すように生活の中で注意すること。股関節が脚部機能の鍵を握っている。

5)外で出るときは帽子を必ずつけること。直射日光は炎症を起こしやすい。これはこの病気の常識中の常識。

6)膀胱障害がたぶん起こっている。水分をたくさん摂取して尿意を意識的に起こすような処置を取ること。恥ずかしくて、医師にも家族にも隠している場合もあるから娘さんのトイレの回数に注意すること。

7)MRIでは、この段階で炎症を発見するのは難しい。すぐにでもプレドニンを服用して炎症を鎮めることが重要(でも先生に良く相談してね)。検査のための検査を優先させない。再発は絶対に避けなくてはいけない。

8)NMO抗体検査については、「MS」判定さえ出来ない(特定疾患認定が下りない)患者のNMO判定のために真っ先に抗体検査を行うことを病院や医師は嫌がる。それでなくても面倒くさいこの抗体検査を、新潟大学、九州大学、東北大学の研究者集団に(無料で)依頼するのは、なかなか気が引けることなのだ。この段階では粘り強く抗体検査を願い出るしかない。


●家内の症状報告(91) ― 「MS/NMOの専門家」は一体日本に何人いるというのか? 2008年02月13日

先の記事、家内の症状報告(90) に、おそらくは医療関係者と思われる方からご丁寧なコメントを頂きました。滅多にない勉強の機会ですので、公開したいと思います。家内の症状報告(90)のコメントを頂いたのがきっかけです。もともとはミクシィ(MIXI)の「多発性硬化症」のコミュニティでのやりとりになります。

ミクシィ(MIXI)日記よりの転載

>Pさん

横からすみません。

NMO抗体検査(現在日本で行われているのは厳密には抗AQP4抗体検査です)は保険適用を研究班が強く働きかけている最中ですが、現在は一切保険適用がありません。また検査手法そのものが標準化されておらず、商業ベースでの検査をしてくれる検査機関もまだありません。現在は、多忙極まる特定の大学病院(全国に3か所)の医師が、それぞれの研究機関の研究費を持ち出して、空いた時間を使って調べてくれているのみです。よって、特定疾患の認定や公費助成とは無関係に、検査そのものは全くの無償で行われています。「病名特定以前にその特定のために抗体検査を行うことを病院や医師は嫌がる」というのは誤解だと思います。そもそも診断の際に行う検査であり、病名特定された場合は検査をする必要が薄れます(ただ、将来的に抗体価が定量化できれば、発症後の病勢をしらべるマーカーになってくるかも知れません)。

例え神経内科専門医でもNMO/MSの専門家でないと、国内のどの大学のどの先生に検査を依頼してよいか分からないのではないかと思います。また現在はNMOの診断基準の補助項目のうちの1個になっているに過ぎず、必ずしも診断に必要なものではなく、よほど疑わないと他大学の先生に手間のかかる検査(現在汎用されている抗AQP4抗体検査は特殊な細胞を培養して遺伝子を導入してAQP4を発現させ、それと反応する抗体を血清から探すという、かなり手間のかかる検査です)をお願いするのはとても気が引けることなのは理解できなくもありません。ただ、NMO/MSの専門家であれば、検査をしてくれる先生と顔なじみだったりして頼みやすいということはあると思います。

いずれ保険適用が成され商業ベースで検査ができるようになればどこでも検査をしてくれると思いますが、それまでは神経内科専門医ではなく、NMO/MSの専門家の外来を受診することを強くお勧めします。


>私(芦田)の返信

私(芦田)が言いたかったのは、そうではなくて、「お願いするのはとても気が引けることなのは理解できなくもありません」という状況下で、MSかNMOかなんだかわからないままの診断状況が重なって、その上でNMO抗体検査(=抗AQP4抗体検査)を御願いすることは、なおさら難しいということです。依然として、 NMO抗体検査は患者に開かれていないということですよね。

あなたの言われるとおり助成も何もないとすれば、そしてその意味で新潟大学、東北大学、九州大学の研究者達の善意(この善意も研究費という助成にのっかった善意であるわけですが)に頼っているとすれば、NMOかもしれない日本国内の「MS患者」の決して少なくはない人たちはどうすればいいのか(私の家内の病院でもMS患者全被験者50名の内、7名が「陽性」と出ました)。一説には日本型MSの30%前後がNMOではないかとも言われている。NMO治療にとってはこれは絶望的な状況だということですよね。

あなたの言う「よほど疑わないと」というのは、どんな感じなのでしょうか。

① 女性に多いか、年齢が比較的高齢
② 脳内炎症がほとんど見られない人(視神経か脊髄に炎症が比較的集中する人)
③ 一回の再発炎症の規模が大きい人
④ ベータフェロンの効果が見られない人(むしろ悪化する場合がある人)

この4つのすべてを充たすということでしょうか。私の家内の場合、このすべてを何年にも渡って充たしていましたが、それでもNMOと診察されたのは、抗体検査後のことです。

実際NMO抗体検査を受けたいと申し出ても、「そんな検査必要ないですよ」と根拠もなく突き返される場合がほとんどらしい。その理由はほとんどの場合(薬剤会社の絡まない善意の反応の場合)「お願いするのはとても気が引けることなのは理解できなくもありません」というものでしょう。でもこれは医学的な問題ではない。

一方で、九州大学や宇多野病院など公開的にNMO抗体検査を受け付けるところも昨年来出てきている。こういった情報を「お願いするのはとても気が引けることなのは理解できなくもありません」などと医師達の内輪話のように「横から」口出すのではなくて、もっともっと広めていくべきです。

厚労省の免疫調査班の報告でさえ、すでに昨年の4月16日に以下のような重要な警告を発しています。これはNMO抗体検査(「抗AQP4抗体の測定」)を受けなさいというものです。しかも「よほど疑わないと」ではなくて、インターフェロンベータを「使用していても再発回数の減少がみられない場合」という極めて広範な現象をカバーする事例に対して抗体検査をすすめています。大概の「MS」患者はベータフェロン治療を受けているのですから、先の私(芦田)の4兆候よりもはるかに緩やかな、それゆえ広範なMS患者に対する指導です。

「したがって、抗AQP4抗体陽性例とnon-responderの関連を考慮すると、LESCLを有する例や膠原病を合併する例で新規にインターフェロンベータを開始する場合や、これまで使用していても再発回数の減少がみられない場合は、抗AQP4抗体の測定が望ましいと考えられます.もし陽性である場合は、抗AQP4抗体の意義が明らかになるまでは、新規例についてはインターフェロンベータの開始は慎重に検討する (あるいは見合わせる)、これまで使用して再発回数の減少がみられない例については継続を再検討するなどが必要と思われます」(http://nimmunol.umin.jp/official/med/20070416a.html )。

「よほど疑わないと」というのは、この厚労省の免疫調査班以前の判断です。そういった判断がこの21才の若い患者さんに対する治療法の選択を遅らせているのだと私(芦田)は思います。


>Pさんの再コメント

>8)NMO抗体検査については、特定疾患認定が下りないと公費助成がないため、病名特定以前にその特定のために抗体検査を行うことを病院や医師は嫌がる。この段階では粘り強く抗体検査を願い出るしかない。

私のコメントはこの点についての芦田さんの誤解を解くべく書いたものです。「公費助成がないから病名特定以前に検査を行うことを病院は医師は嫌がる」のではないし、逆に「病名がMS(NMO)と特定されて(特定疾患の)公費助成が出たから(有料の)抗体検査をやってくれる」のでもないです。現時点で検査は無償であり、患者本人が特定疾患に認定されているかどうかは関係のないことです。

そして、私の書き方が分かりにくかったのだと思いますが、「よほど疑わないと」というのは、その前文にある、”NMO/MSの専門家でない神経内科専門医”においてです。

NMO/MS専門家の中では抗AQP4抗体検査についてはもはや常識です。診断確定時には当然として、ベタフェロンの新規開始時や使っていて再発した例においてはまずチェックするでしょうし、或いは「ステロイドを減らしていくと再発するMS」例においても大概チェックするでしょうし、たとえベタフェロンが再発を抑えているように見えている症例でも、LESCLが経過中にあったのならば、今後のことを考えて大概チェックするでしょう。或いは脊髄炎と視神経炎のどちらかしかない患者や、いずれにも病変がなくても第三脳室付近に原因不明の脳炎を生じている患者についても、調べるかも知れません。

しかしながら、神経内科専門医の中でNMO/MSの専門家は少ないのが現状です。専門として多いのは、アルツハイマー、パーキンソン、頭痛、脳血管障害です。残念ながら1万人超のNMO/MS患者は神経内科の抱える患者全体からすれば少なく、その専門家もまた少ないのです。

このNMO/MSの専門家以外の神経内科専門医には、OSMS(視神経脊髄型MS)とCMS(古典的MS)とNMO(視神経脊髄炎)についての相互関係を知らない医師もかなり居ます(初診医でこれらの情報を正確に知っている先生は珍しいのでは?)。そんな医師に抗AQP4抗体検査をして欲しいと言ってやってくれるでしょうか。やってくれるとすれば、悩んだ挙句に身体所見としてはNMOの診断基準を満たさないが、抗体価が陽性なら満たすかも、と「よほど疑った」場合で、それとて、特定の大学に依頼する検査ですから、どうやって依頼するか分かりにくく(全血・血清・脳脊髄液?(ちなみに脳脊髄液検査だと思っている医師も多い)、量?、冷蔵・冷凍?、)、誰先生?等)。商業ベースに乗っているなら、そこの会社の担当者を呼びつけて、検査しといてね、と言って後は採血室に指示をしておけば、勝手にやってくれるようですが。

あと、診断は診断基準によります。現時点では抗AQP4抗体が陽性でも他を満たさないとNMOとは診断できません。何ら神経学的・画像的証左がなく、自覚症状のみであれば検査依頼は常識的に無理でしょう。陽性でも診断付かないのですから。

小生の文面を誤解されたように思えた部分に対する補足は以上です。

ちなみに、芦田さんの仰るとおり、

>実際NMO抗体検査を受けたいと申し出ても、「そんな検査必要ないですよ」と根拠もなく突き返される場合がほとんどらしい。

が現実だと思います。

>その理由はほとんどの場合(薬剤会社の絡まない善意の反応の場合)「お願いするのはとても気が引けることなのは理解できなくもありません」というものでしょう。でもこれは医学的な問題ではない。

これは違うと思います。その医師がNMO/MSの専門家でなくそこまで検査の意義を知らないからでは?バイエルシェーリングも抗体検査をするように宣伝してるようですよ。損害賠償請求が怖い?からですかね。

>そういった判断がこの21才の若い患者さんに対する治療法の選択を遅らせているのだと私は思います。

もしNMOを疑う根拠が事実あるならば全くそうだと思います。パルスをやったということは画像的根拠があったのかも知れません。抗AQP4抗体陽性であればhigh-risk syndrome of NMOと考え、パルス後にプレドニンand/orアザチオプリンを使うのでしょうが。

なんで芦田さんが知っているようなことを、神経内科専門医が知らないのだ、おかしい、と思われるかも知れませんが、一般の神経内科専門医にとってはNMO/MSは日本の神経内科で遭遇する機会は少なく、寝る時間が足りないほど忙殺されている彼らにとっては、NMOの知識よりも脳梗塞に対する tPAを勉強するほうが優先されるでしょう。

よって、現時点の現実的な対応としては、NMO/MS専門家を受診するしかない、と思われるのです。

一応、NMOの改訂診断基準(2006年)を書いておきます。

1) 視神経炎があること
2)急性脊髄炎があること
3)次の3つの支持項目のうち最低2つを満たすもの
   ①MRI上、3椎体長以上に及ぶ脊髄の連続病変がある
   ②MRI上、MSの診断基準に合致しない脳病変がある
   ③血清中NMO-IgGが陽性

この3つ【全て】を満たすものがNMOと診断されます。
当然ですが、1)2)も自覚症状ではなく他覚的検査所見で示すことになります。

ちなみに、東北大は【あくまで研究論文の中で】ですが、NMO疑いとも言うべき、high-risk syndrome of NMOを提示しています。

1) 脳病変を欠く、再発性の視神経炎
2) 3椎体長以上に及ぶ脊髄の連続病変(脳病変の有無は問わない)
3) 視神経炎 and/or 3椎体以下の脊髄病変があり、NMOに矛盾しない脳病変(左右対称性の瀰漫性白質病変・左右対称性の間脳病変・左右対称性の脳室周囲病変)があるもの

この何れかに該当するとhigh-risk syndrome of NMO、としていますが、国際的な評価は得られていません(high-risk syndrome of NMOが実際にNMOになる確率はどの程度かは不明)。

但し、NMO-IgGの火付け役であるMayoからの小数例の追跡報告では、3椎体長以上に及ぶ横断性脊髄炎で原因不明のものにおいて、NMO- IgGが陽性であれば、その後1年のフォローアップで約44%が横断性脊髄炎を再発し、約11%が視神経炎を発症する(ここでNMO診断とされますね)と指摘されています。大規模数での確認が待たれるところです。

小生の勝手な妄想として、high-risk syndrome of NMOでNMO-IgG(抗AQP4抗体)陽性であれば、再発予防治療の開始に踏み込んでもいいのではないかと感じます。患者本人が、実はNMOではないという誤診リスクと投薬による副作用リスクを納得できれば、ですが。やることは免疫抑制ですから、実は病変が感染症や腫瘍であった、という場合にはかなりリスクを負うことになるかも知れません。


>Pさんへの芦田の再質問

この、多発性硬化症とNMOとの関係について、詳細で多少とも本格的な議論が出来ることを私(芦田)は大変喜んでおります。そのことを私のお話の最初の前提にしたいと思っております。

そこで私(芦田)も誤解を解いておきたいと思います。

>8)NMO抗体検査については、特定疾患認定が下りないと公費助成がないため、病名特定以前にその特定のために抗体検査を行うことを病院や医師は嫌がる。この段階では粘り強く抗体検査を願い出るしかない。

>私(P)のコメントはこの点についての誤解を解くべく書いたものです。「公費助成がないから病名特定以前に検査を行うことを病院は医師は嫌がる」のではないし、逆に「病名がMS(NMO)と特定されて(特定疾患の)公費助成が出たから(有料の)抗体検査をやってくれる」のでもないです。現時点で検査は無償であり、患者本人が特定疾患に認定されているかどうかは関係のないことです。

(芦田)この説明はよくわかります。私(芦田)も誤解していたと思います。あなたのコメントの直後に東北大学のNMO専門医に問い合わせたところ、「無償のはず」という返答が返ってきました。狭い意味での「公費助成」の有無は問題ではないとしても、あなたも正直に指摘されているように抗体検査は病院や医師によって敷居が高いものであることは確かだと思います。

東北大学とのやりとり、そして何よりあなたとのやりとりから学んで、私(芦田)はブログの方では私の趣旨がストレートに生きるように以下のように第8項を書き換えました。

「8)NMO抗体検査については、「MS」判定さえ出来ない(特定疾患認定が下りない)患者のNMO判定のために真っ先に抗体検査を行うことを病院や医師は嫌がる。それでなくても面倒くさいこの抗体検査を、新潟大学、九州大学、東北大学の研究者集団に(無料で)依頼するのは、なかなか気が引けることなのだ。この段階では粘り強く抗体検査を願い出るしかない」。

そうしたら、さきほどあなたから次のような心あるコメントをブログ上に頂きました。

「mixiのリンクから来ました(粘着質ですみません)。Ver.4.0のブログを拝見していますが、議論させて頂いた(8)について、なるほどそういうことなら確かに、と感じております。小生の勘違いというか早合点でした。リンクがあるのであればきちんと読んでからコメントすれば良かったのですが、失礼の段をどうぞお許し下さい」。

私(芦田)こそ、不正確な情報を流したことについてお詫びします。

この箇所のこのやりとりに拘泥することは、せっかく見つけた信頼に足るNMO治療の会話のきっかけを殺ぐことになるでしょうから、もうやめましょう。

誠意あるあなたにいくつか質問があります。

1) あなたの言う「MS/NMOの専門家」というのは、全国にどれくらいいると思いますか。たぶんほとんどのMS/NMO患者は、あなたの言う「MS/NMOの専門家」にかかってはいないと思うのですが。

2) さらに「MS/NMOの専門家」であっても、抗体検査を優先させない場合はいくらでもあります。

まず今回のメールにあった21才の女性の場合、検査をせず、「心療内科」を薦めたのはあなたの言う「MS/NMOの専門家」です。

また私の家内の場合、抗体検査を受けたのは2007年の1月22日。結果は翌月の2月16日。陽性でした。

私の家内の症状は、あなたの言われるNMOの兆候をすべて(完全に)充たしているにもかかわらず、しかもベータフェロンによる体調悪化が明白であったにもかかわらず、そんな状況でした(2年間で10回以上の再発をくり返していました)。

検査を受けて「陽性」結果が出たと時に(昨年の2月に)はじめて「NMO」「デビック病」(の疑い)という言葉を聞かされました。この担当医も MSキャビン推奨の「MS/NMOの専門家」です(最初に断っておきますが、私は病院や担当医師を個別に批判する気は全くありません。今でもお付き合いと指示を貴重なものだと思っております)。

この専門医にかかる前にお世話になっていたのは、広尾の日赤病院ですが(担当医は武田克彦神経内科部長)、この担当医はベータフェロンは一切使いませんでした。むしろMSと判定しておきながら、炎症箇所が同じであることや炎症が長大であることについて疑いをもたれており、MSとは違う、血管の何らかの異常が脊髄を圧迫している病気ではないか(ヘルニアか)、と私に提案されました。

「造影剤を入れた検査をしたい」ということでしたが、それには「家族の了承がいる」とのことで、私も2、3日悩みましたが、申し出は断りました。手術の動機の傍証が弱いと判断したからです。2003年9月の話しです。※その間の経緯はこちら(http://www.ashida.info/blog/2003/09/hamaenco_3_94.html )に詳しい。

家内の発症は、2003年3月。日赤には12月まで入退院をくり返していましたが、「ここは救急病院だから」と最後には言われて追い出されてしまいました。

2003年と言えば、アメリカのLennonたち(メイヨー・クリニック)によって、視神経脊髄型MS(アメリカではDEVIC病)の患者の73%の血清中に抗AQP4抗体(=NMO-IgG)が陽性であることが発見されたのが、2004年後半ですから、「MS/NMOの専門家」でもない武田先生がその疑いを持つのは、難しい状況だったのでしょう。

私のような素人レベルで、日本人の研究者の、Lennonの研究に言及した記事にたどり着いた最初期の日付は2006年4月です。その記事では、2006年初頭San Diegoで開催された米国神経学会(AAN)におけるLennonの発表を活き活きとした筆致で以下のように報告しています。

「今年の米国神経学会(AAN)は、San Diegoで開催された.個人的にこの学会は大好きで、夕方になり、会場で振舞われるワインを飲みながら、ポスターの内容をdiscussionするのは何とも楽しい。新しい知見や治療薬の話を聞くととってもワクワクする(同時に日本とのギャップを感じ、気分的に落ち込む学会でもある)。

今年の演題の内容 はNeurology誌のsupplementで確認することができるので入手可能ならご覧いただきたいが、今回は個人的に注目した演題として、NMO- IgGの標的抗原が発見されたことを紹介したい。

NMO-IgGは多発性硬化症の亜型と考えられてきたNeuromyelitis optica(NMO;いわゆるDevic病)、および本邦に多い視神経脊髄型MS(OS-MS)において高率に認められる自己抗体である(Lancet 364; 2106-2112、 2004;2004年12月17日の記事参照)。

NMO-IgG陽性例では、①classical MSは否定できること、② IFNのような免疫調節作用のある薬ではなく、免疫抑制剤(アザチオプリン、ステロイド)を治療に用いる必要があるという意味で、診断的にも治療的にも抗体測定の意義は大きい。

ではNMO-IgGは、NMOの病態にどう関与しているのだろうか? もしNMO-IgGが認識する「標的抗原」が判明すれば、病態解明に向けての大きなヒントとなる。

今回、Mayo clinicの神経免疫学教授Vanda Lennonは、AAN plenary sessionのなかで、NMO-IgGの「標的抗原」がアクアポリン4(AQP4)であることを講演した。

アクアポリンは水チャネルを構成する蛋白で、1988年、Peter Agreにより発見され、1992年に分子式が同定された(Agre は2003年ノーベル化学賞を受賞)。最初のアクアポリンは赤血球膜で明らかにされたが、その後、遺伝子ファミリーを形成していることが明らかになり、現在、少なくとも13 の遺伝子とそのタンパクが知られ、全身に分布している。

細胞間の水移動には欠かせない分子であるため、さまざまな病気と関係すると推測されているが、現在 までに3つの疾患への関与が報告されていた(AQP2→腎性尿崩症、AQP0→先天性白内障、AQP5→シェーグレン症候群に伴うドライアイ)。

中枢神経においてはAQP4が存在する。AQP4ノックアウトマウスでは脳虚血後の脳浮腫がおこりにくく、脳虚血後の脳浮腫にAQP4が関与している可能 性が示唆されている。脳浮腫の治療に用いられるステロイドホルモンがAQP4の発現をおさえることも報告されていて興味深い。

そのAQP4がNMO-IgGの標的抗原であったことは2つの意味でインパクトがある。ひとつは「水チャネルに対する自己抗体により発症する疾患がある」 というインパクトである。これまで水チャネルに対する自己抗体により発症する疾患は報告されておらず、今後、同様の疾患(autoimmune water channelopathy)が報告される可能性もあり興味深い。

もうひとつのインパクトは、NMO-IgGの標的がミエリンやオリゴデンドロサイト由来の蛋白ではなかったことである。AQP4は、アストロサイ トのfoot process膜に豊富に存在し、BBBにおける水のやりとりに重要な役目を果たしている。

すなわち、アストロサイトを主座とした免疫異常が、中枢神経脱髄性疾患を引き起こす可能性があるわけで、今後の研究に従来とは全く異なる視点が必要であることを示唆する。今回の発見は脱髄性疾患の病態機序の解明に大きく寄与する可能性があるように思われた」(2006/4/11)

― 以上引用終わり

私は、この研究者の報告を読んだときに、同じように興奮しました。2006年4月にすでにこのような立派な報告があるではないか、と。

この報告と前後して、Lennonの研究は、厚労省の免疫調査班の研究報告書でも、2006年版から大々的に取り上げられています(http://nimmunol.umin.jp/official/2006/report2006.html )。

2003年の段階で、NMOの疑いを一般的に推測するのは難しかったでしょうが、それでも、MSの通常タイプとは異なる(“日本型MS”でもない)という程度には私の家内の症状が疑われていたのは確かです。

しかしその後、今の病院に変わって「MS/NMOの専門家」によって、日赤段階の嫌疑はいつの間にか晴れて、ベータフェロン投与が始まります。この投与が完全に止まったのは、2006年の8月。これもNMOの疑いあり、ではなくて、家内がベータフェロンの継続投与に耐えられなくなったのが理由です。

私(芦田)がここで疑問に思うのは、ベータフェロン投与は、NMO検査なしには中断できなかったものなのかどうかということです。

そもそも、私(芦田)がNMOやデビック病のことを調べるようになったのは、2007年の2月、家内の「陽性」結果が出て以来のことです。先ほどあげた2006年の4月の記事も、2007年2月以降に知った記事の内容です。

素人の私でも30分もしないうちにインターネットでアプローチできる知見に、「MS/NMOの専門家」が近づけないはずがありません。私も「寝る時間が足りないほど忙殺されている彼ら」と同様毎日忙しくしていますが、それでもあの記事に至り付くのは簡単なことです。

先端の知見があるであろう「MS/NMOの専門家」であっても、2004年のアメリカの初見から2006年代の日本では、やはり落差が大きかったと言えるのではないでしょうか。

何が言いたいのか。

結局、ベータフェロン全盛とも言える2004年~2006年の間でも多様な診断と治療の選択肢があったにもかかわらず、NMO抗体検査を待つまではベータフェロンを完全にはあきらめきれなかった医師や病院が、あなたの言う「MS/NMOの専門家」の中にも少なからずいたということです。

この点が「NMO/MS専門家の中では抗AQP4抗体検査についてはもはや常識です」という今さらながらのあなたの言葉が私にはうつろに響く点です。

3)そこであなたに最後の質問です。あなたが「もはや常識です」という場合の「もはや」とは、具体的にいつからの「もはや」ですか。それと関連して、「MS/NMOの専門家」とあなたが言う人たちは、2004年~2005年の初頭のLennonたち(メイヨー・クリニック)の発見をいったいいつから知っていた、と考えますか。さらには、この発見とベータフェロン治療の可否の問題はいったいいつから日本の「MS/NMOの専門家」たちに知られていたとお考えですか。


●家内の症状報告(92) ― 日本のNMO/MS研究・治療の進展史  2008年02月14日

家内の症状報告(91)に極めてありがたい返信が深夜送られてきました。どこの医学書や医学論文にも、どのインターネットサイトにも書かれていない日本のMS/NMO研究・治療史だと思います。私も自分の(他分野ですが)研究時代を思い出しながら興奮して一気に読んでしまいました。私だけの“読書”に終わらせるのはもったいない、と思い、引き続きミクシィ(MIXI)から転載します。

>小生もこの議論を歓迎します。至らないところも多いと思いますが、お許しください。

ご質問にお答えする前に幾つかの事項を整理させてください。

1)MayoのLennonらがNMO-IgGについてLancetに報告したのは、2004年12月です。この論文には東北大の先生方が共著者として名前を連ねています。Lancetはかなり有名な臨床医学誌です。ただこの段階では抗体が見つかったのみで、抗原は確認されていません(患者血清をマウスの脳にふりかけて、免疫染色したらある特定のパターンとなった、これをNMO-IgGと呼んだ、ということで、標準化は困難であり検査室レベルでできることではありません)。

2)次いで、同じMayoのLennonらが、このNMO-IgGがAQP4に結合するものであることをJournal of Experimental Medicine誌(これも有名ですが、基礎医学誌であり神経内科医が自発的に読むことはまずない)に報告したのは2005年8月です。

3)さらに、同じMayoのLennonらが、NMO-IgG(抗AQP4抗体ではない)陽性である横断性脊髄炎は、その後NMOに移行する確率が高いことを少数例でAnnals of Neurology誌(神経内科の臨床医学誌で大学の医師ならルーチンで読むかも?)に報告したのは2006年3月です。

4)東北大の先生方がOSMSと診断されていた患者でNMO-IgG(抗AQP4抗体ではない)陽性である例を調べ、陽性例で視神経・脊髄病変(LESCL)が多いことをJNNP(割とマイナーな雑誌できかっけが無ければまず読まない)に報告したのは2006年9月です。

5)東北大の先生方が、NMO-IgGという標準化しにくい手法に変えて、抗AQP4抗体のアッセイ系(これとて面倒な手法なのですが)を作ったことを東北大の英文学内誌(東北大の先生以外は国内外の医師はだれもまず読まないが、外国のデータベースには乗るので、おそらくMayoとの競合に勝つ目的で出したのであろう)に報告したのは、2006年12月です。

6)東北大と九州大とMayoが同時にしかしそれぞれ別個に、抗AQP4抗体陽性のOSMS/NMOの症例の病理病態像がCMSと異なる(つまり、診断基準云々は別として、抗AQP4抗体を基礎とするNMOと、そうではないMSとで本質的な違いがある)ことをBrain誌(Annals of Neurologyと並び大学病院の神経内科医なら目を通すかも知れない代表的な雑誌)に報告したのが2007年5月です。

7)少し遅れて新潟大が抗AQP4抗体陽性のOSMSはNMOかも知れないとMultiple Sclerosis誌(名前はよさげですが、あまり読まれないと思います)に報告したのは、2007年8月です。

NMO-IgGと抗AQP4抗体とを(前の議論の時から)区別して小生が述べているのは、上述の通り、マウスの脳を切って免疫染色をしてみて脳室周囲のアストロが染まったらNMO-IgGが陽性である、という手法は標準化困難でとても患者診断に使えるものではないからです。抗AQP4抗体検査とて、標準化の問題はクリアされていませんが、少なくとも対照試験(positive and negative control)を簡単に作れるという点で実用に耐えるようになった。他医療機関から検査を受けつけられるのはこの抗AQP4抗体のアッセイ系が開発されたからです。

東北大が抗AQP4抗体のアッセイ系確立をひっそりと学内誌に宣伝したのが2006年12月ですが、誰も気に留めなかったはずです。ですからきちんと学術誌で勉強している神経内科医が抗AQP4抗体とNMO/MSについての関係性と、更に国内ですでに東北大と九州大で検査可能であると認識したのは論文が公表された2007年5月であろうと考えます。論文を読んでいない神経内科医は、2007年7月に読売新聞の報道を見ても、「インターフェロンで悪化するMSがある」ということだけ認識し、抗体については今も知らないままでしょう。

ちなみに、2007年5月のBrain誌における東北・九州・Mayoの同時発表はかなりのインパクトであり、以降、NMO/MSの専門家でこれを知らない人は専門家とは呼べないと思います。

2005年8月にAQP4が同定されてから、2007年5月のBrain誌の発表までの間にNMO/MS議論や開発途上の抗AQP4抗体検査について知っていたのは、少なくともNMO/MSのコミュニティーに席を置く、「NMO/MSの専門家」であろうと思います。しかし、論文として批判に耐える形にならない限りは実地に移さない慎重な専門家もいるでしょう。

その意味で、2007年5月までにうちうちの抗体検査の受託が始まっていたとしても、それを行わなかったからといって責められるものではないと思います。時をほぼ同じくして2007年4月に特定疾患研究班からの勧告が出たのも何か偶然とは呼べない(班長である九州大もBrain誌に論文を出してます)タイミングを感じます。勧告だけみると、「勧告以前からずっと検査は確立していた」ように感じられますが、そうではなく、検査も開発途上であり、何より論文としてまとめられていない状態であったのです。

芦田さんの奥様が2007年初頭の段階ですでに陽性と判定されていた(ひょっとしたらいずれかのBrain誌に奥様の検査結果もデータの一つとして組み込まれているのではないでしょうか?)のは、おかかりつけの医師がかなり東北・九州いずれかの研究グループと接触があったからではないでしょうか?

ちなみに、抗AQP4抗体について、ここまでの検査体制を組んでいるのは日本だけです。だから、診断基準も依然としてNMO-IgGなのであって、そして診断基準が掲載された論文に書いてありますが、「誰でもNMO-IgGが検査できるわけではないので、補助項目の一つとした」のであります。

そのNMO- IgGをさらに進めて抗AQP4抗体アッセイ系を作り上げて、臨床応用までを世界に先駆けて行っているのは実のところ日本くらいで(ドイツもアッセイ系は確立したようですが、臨床応用しているかは不明)、未だに欧米のNMO関連の論文はほとんどNMO-IgGになっています。

無論、NMOをもOSMSとしてきた日本の特殊性が、結局のところ抗AQP4抗体検査の開発を急がせた可能性もありますが。

治療についての流れを、ちょっと整理をしてみます。

おそらくNMOであるようなOSMSに対してもベタフェロンが使用されていた大きな根拠は、2005年2月のNeurology誌(そこそこの神経内科専門誌)に発表された、日本で行った、日本人のCMS・OSMS患者での、ベタフェロン治験結果です。

この治験以前から日本でいうOSMSは西洋のCMSと病理病態が違うのではないかという観点はありました。病巣の部位だけでなく、ステロイドをやめると再発する、とか、CMSとは病態が異なるように思える症例が入っていたからです。しかしながら、結局のところMSは現在も原因不明です(自己免疫疾患であると言い切っている人が居ますが、その証明はされていない)。

ですから、診断基準で「症候群」としてMSが定義されているだけですから、もともと MSというものが多様な疾患の塊である可能性を秘めている訳で、診断基準に依存した疾患群なのです。しかるにNMO-IgGのような物差しができるまでは、細分類は容易ではありませんでした。

極論すると、「時間的多発性」と「空間的多発性」を満たす中枢神経系(=脳・脊髄・視神経)の脱髄疾患は、古典的なPoserの診断基準によれば、病変の位置によらず、MSと診断されるのです。NMOもMSの一部だ、とかOSMSとNMOは一緒だ、とかそういう議論があっても、原因がわからない疾患を分類するのは困難です。

MRIを用いるようになってからMcDonald基準というのが定期的に改訂され、これがMS の診断基準としてスタンダードですが、その根本はPoserの診断基準を現代の検査技術で修正したのみで、「時間的多発性」「空間的多発性」「中枢神経系の脱髄」というキーワードは何ら変わっていません。

OSMSが多い日本でベタフェロンが奏効するかは欧米からも注目されました。しかし結果として、例数が乏しく統計学的有意とは言えないまでも、 CMSとOSMSにおけるベタフェロンの反応性(再発抑制率)は変わらないと判断されました。同じNeurology誌にMayoの医師がコメントを寄せていて、そのタイトルは「Western vs optic-spinal MS: two diseases, one treatment?」でした。お分かりになりますでしょうか。

結局2005年2月のこの論文をベースにするとOSMSもベタフェロンによる再発予防効果が期待できると考えられますから、当然日本でもOSMS にベタフェロンが使用されました。でも現場では「ステロイドを漸減すると再発する症例」が依然として存在し、首をかしげていたようです。

話がややこしくなったのは、本来NMOの診断基準においては、名前の通り(NMO=「視神経脊髄炎」)、脳には病変を欠くことが重要でした。ところが、NMOにもMSとは異なり間脳であることが多いが、脳病変が出ることがあるから診断基準を変えるべきだとの論文が、Mayo(Lennonも入ってます)から2006年3月のArchives of Neurology(少し格下の神経内科雑誌で忙しいと読まないでしょう)に出ました。「脳病変を伴うNMO」であれば、日本的にはOSMSですが、事実、NMOの診断基準は2006年5月のNeurology誌上で(Lennonも入ったグループにより)改定されました(前回議論の蛇足で書いた訂正版の診断基準です)。

NMOは欧米ではそもそもベタフェロンではなく免疫抑制がメインで行われてきました。2006年5月の診断基準改定を機に、日本のOSMSには新しい基準でのNMOと読み替えられる症例が入っている(免疫抑制が望ましい症例が入っている)可能性が出ました。もちろん、そこまでちゃんと論文をくまなく読んでいれば、ですが…。

しかし、2005年2月の日本での治験結果は、そういう症例も含めて、ベタフェロンの有効性が認められていました。ですから、使い続ける風潮が生まれていたのだと思います。

急に話が変わってきたのは、2007年1月に都立神経病院の先生方が、Journal of Neurological Science(ちょっと格下の神経内科雑誌)にベタフェロンで悪化するOSMS症例はNMOではないか?と提示(論文に出たのが2007年1月ですから、少なくともこれら著者の先生はその少し前からそう感じていたはずです)、さらに2007年3月のMultiple Sclerosis誌にフランスのグループがNMOでは免疫抑制がベタフェロンに勝るとの報告を出したころです。

この流れの中、抗AQP4抗体というNMOとMSを区切る便利な検査が開発され、2007年5月のBrain誌の一斉発表直前の2007年4月に特定研究班からご存じの勧告が出たわけです。

ちなみに誤解のないようにあえて申し上げますが、抗AQP4抗体がNMOの原因であることは確定できていません(あくまでマーカーです)。東北大は抗体価が病勢に連動すると報告していますが、免疫抑制でこの抗体が下がる時には他の自己抗体(この中に原因があるかも知れない)も下がっているでしょうから、「原因」とは断定できません。

※芦田さんのご質問の後半に対する答えは上記に内包されていますが、後日また改めてまとめます…さすがに限界です(汗) (2008年02月14日 02:40)


●家内の症状報告(93)― 日本の「NMO/MS専門家」の数 2008年02月15日

先の91番の記事の第一番目の質問(NMO/MSの専門家は日本にどれくらいいるのか)に以下のような返答が早速返ってきました。ありがたいことです。

>2008年02月15日 00:37

…一日経過して頭がリセットされてしまいました。取り敢えず(1)のみ考察した結果を記しました…

(1)「NMO/MSの専門家」の数に関するご質問について、私(P)なりの見解です。

芦田さんのご質問に対する回答は、小生が以前の議論で登場させた「NMO/MSの専門家」、即ち、日本国内の臨床医で

①CMS・OSMS・NMOの相互関係について理解があり、
②NMO-IgG(抗AQP4抗体)の意義を理解しており、
③実際に抗AQP4抗体の検査依頼をスムーズに行える、

というコンテクストでの「NMO/MSの専門家」の数、になると思います。正確な数を出すのは困難ですが、下記の通り試算します。ちなみに試算せずでの直観では数百人といったところです。

前提1)抗体検査を行っている3大学の医局員はさすがに知っているだろう
→東北大12名、新潟大19名、九州大19名で計60名
※実際には博士課程大学院生(医師)や出張中の医師や関連病院の医師も何かと勉強する機会があるであろうから、実数はこれ以上か?

前提2)抗体検査を行っていなくても免疫神経班の班員であれば、さすがに班会議で聞いているだろう
→追加34名

前提3)いずれにも該当しなくても、MS患者を外来で受け持っている、MSに興味がある、などの理由で勉強してUp-to-dateにしている人もいるだろう
→追加50名?

※日本ではMS研究者が一堂に会する(ヨーロッパでのECTRIMSのような)学会はありません。夏にあるMSワークショップが最大規模と思われます。上記前提1)2)のいずれにも該当しないが出席している医師が何人いるか…。10人じゃ少ないでしょうし、100人は居ないでしょう。50人くらいでしょうか。

単純合計すると144名。前提2)において、該当する班員が教授であると、その医局員も一部は聞いて知っているかもしれませんし、ルーチンに Brain誌を読んでいて独学自力で勉強した医師もいるかもしれませんので、結局、150人以上としても、さすがに500人はいないか、と考えます。

日本神経学会登録医師(神経内科医)は総数で9000人(全員が臨床医として活躍している訳ではないと思いますが)ですから、あながち的外れではない数値だと思います。

ちなみに、前述の3項目ではなく、「今まさにNMO/MS研究の先端に居て新しい知見を生み出している専門家」、ということになると全く様相は変わってきます。

例えば、国費を使うことが許されたNMO/MSの研究者として考えると、2006年度の神経内科領域の科研費において、多発性硬化症をキーワードとして検索し、弾き出されてくるのは、7件です(教授名義も多いので、実際にはその医局員が複数で実験しているとしても、せいぜい数十人でしょうか)。

自身の研究成果を世界に広げ、世界の最新知見を自身に還元するという視点で考えますと、2007年秋に開催されたECTRIMS(ヨーロッパで開催される世界最大のMSの国際会議)の発表演題約1000題において、日本からは19演題(会場での発表者は即ち19人)です。

現状はこういうところで、こと抗AQP4抗体については東北大等の本邦の専門家が世界に先駆けて動いている印象がありますが、それ以外の領域(新しい治療等も含む)については数値が示すところです。

取り急ぎここまでです。

ご感想は如何でしょうか。


>以下が、この返答に関する私(芦田)の再質問(2008年02月15日 08:26)

私が聞きたかったのは、純粋な数ではなかったのですが、それでもとても勉強になります。ありがとうございます。

「感想」という点では、いくつかありますが、一番気になったのは、「NMO/MSの専門家」の“定義”に関するところで

①CMS・OSMS・NMOの相互関係について理解があり、
②NMO-IgG(抗AQP4抗体)の意義を理解しており、
③実際に抗AQP4抗体の検査依頼をスムーズに行える、

という3条件がありましたが、これに患者家族の私は少し不服です。それは私の2番目、3番目の質問に関わっていますが…。

私(芦田)なら、この条件に、以下の二つを足したい。

一つには、この新しい抗体検査以前に、青山胤通の「急性脊髄炎に黒内障を併発したるものの一験」(1891年)という論文くらいは読まないまでも知っているかどうか。それと関連して(言い換えれば)、この2004年12月以前の段階(メイヨー+東北大学の発見以前の段階)で、「MS」患者と向かい合うときに「MS」とは異なる視神経脊髄炎の疑いを持てるかどうか。①の「相互関係」というのは、CMS・OSMS・NMOのカテゴリー上の関係のように思えます(カテゴリー上の関係にすぎない)。あなたが言われる中味を広く解釈すればいいのでしょうが、もう一歩進んだ条件が必要な気がします。

言い換えれば、あなたが、「一応、NMOの改訂診断基準(2006年)を書いておきます」と言ってあげられた、

1) 視神経炎があること

2)急性脊髄炎があること

3)次の3つの支持項目のうち最低2つを満たすもの
   ①MRI上、3椎体長以上に及ぶ脊髄の連続病変がある
   ②MRI上、MSの診断基準に合致しない脳病変がある
   ③血清中NMO-IgGが陽性

という条件の内、3)の③がわからない場合(まだ抗体検査が展開していない段階で)、「NMOの疑い」を患者に告げることが出来る医師はどれだけいるのか。この医師はあなたの言う「NMO/MSの専門家」の中に入るのか、入らないのか? そもそも「NMO/MSの専門家」とあなたの言う「専門家」は、いったい何年から誕生した専門家なのか?(2004年12月以後、それともそれ以前?)

もう一つの追加条件は、それと関わって、「検査以来をスムーズに行える」というあなたの言葉を借りるなら、「ベータフェロン投与の適否、あるいはステロイドの継続的服用の適否をスムーズに判断できる」という条件ではないのか。

というのも2007年9月7日に開催された「第6回東京MS研究会」(講演者は国立精神・神経センター山村隆、新潟大学・田中恵子、東北大学・藤原一男)の質疑応答でも以下のようなやりとりが未だに報告されているからです。

「質疑応答では、裏話も披露されました。MSにsteroidが聞くかどうかという話です。MSガイドラインでは、steroidは再発予防に無効であるとされています。このことについて、藤原先生(東北大学)は、ガイドラインでステロイドの項を担当したのは藤原先生達で、「一部の症例で有効である」という一文を入れていたらしいのですが、関西の○○大学の先生達がその一文を削除したというのです。当日は○○大学の伏せ字の部分を述べていましたが、ここでは伏せておきます。今になって考えると、NMOには効くのだから、その一文は残しておくべきでしたね。現在のところ、NMOには効くが、いわゆるMSには evidenceがないということになっています」(出典は伏せます:芦田)。

よく東大系(=東)はベータフェロンをあまり使わない、関西系(西)は使いたがる、と聞いたりもしますが、この傾向に抗えるかどうかも「NMO/MSの専門家」の条件ではないでしょうか。

もう少しお聞きしたいことがあるのですが、取りあえず、朝の段階ではここまで。いつもお忙しいでしょうに、大変感謝しております。症状報告91番から93番までのやりとりだけでも、多くの多発性硬化症、NMO患者にとって有益で質の高い情報が得られている、と確信します。


●家内の症状報告(94) ― ベータフェロンか、ステロイドか、免疫抑制剤か(炎症は、この病気の原因ではなくて結果かも知れない) 2008年02月16日

家内の症状報告(93)
に今日の早朝(深夜?)4:30に早速以下のようなコメントが入りました。私のここ数年の疑念が一気に氷解した感じです。文中、読みやすさを考慮して段落わけや註を入れていますが、全文ご紹介します。こんな貴重な報告をこのブログだけで紹介するのはもったいない、と思います。世界中の、どの文献よりも貴重な(患者にとっての)報告が、この91~94の報告の中に存在しています。1万人を超えると言われる全国のMS/NMO患者、それ以上に医療関係者に是非読んでもらいたいと思います。

家内の症状報告(93)、拝読しました。

患者本人やその家族にとっての「NMO/MSの専門家」に求められる追記条件 ― 「2004年12月以前の段階(メイヨー+東北大学の発見以前の段階)で、「MS」患者と向かい合うときに「MS」とは異なる視神経脊髄炎の疑いを持てるかどうか」「ベータフェロン投与の適否、あるいはステロイドの継続的服用の適否をスムーズに判断できる」 ― については、よく理解できます。

「抗AQP4抗体検査の意義を理解している」とは、即ち、同抗体陽性例はCMS(古典的MS)と病態が違う可能性が高いということ(いわゆるMSではない可能性が高いということ)と、同抗体陽性例の治療方針はCMSと変わってくる(ベタフェロンを使用するべきでなく、ステロイドを主体とする免疫抑制を主眼にする必要が高くなるということ)ということをも理解しているものと同義と考え、使っておりました。

自明ながら、小生の記述する「NMO/MSの専門家」はその条件に入っているNMO-IgGが公表され、NMOの診断基準が改定されるに至った時期以降の、最近における専門家ということになります。

以降、小生の文脈上の定義はさておき、前のご質問への回答を内包する形でお答えします。

最初の追加条件に関して、ご指摘の1891年という古典的論文を取り寄せ呼んでいる医師は極めて少ないと思いますが、本質としては芦田さんが換言されているように、NMO-IgGという便利な物差しが発見される2004年12月以前に、日本でOS「MS」(=視神経型MS)と呼んでいるものは実は CMSと違う病態の疾患ではないか、免疫抑制が望ましいとされるNMOに類似の病態ではないか(診断としてNMOを考えるかどうかは、診断基準の変遷もあるので議論を避けます)と考える専門家がいたかというご質問かと思います。

実数はさておき、当時複数人のOS「MS」患者を診ていた医師で自身の治療経験を通じてそのように確信は無くとも感じていた医師は比較的多数いたと思います。

それが故に、かの日本でのベタフェロン治験結果(OS「MS」とCMSは治療反応性に明らかな差異を認めないという結果)が国内外に驚きを与えたわけだと思います。

推測するに、この治験結果にも拘わらず「そうは言っても、やはり違うのではないか」と感じたMayoのLennonや東北大の医師が、OS「MS」の患者の血清からNMOと共通のNMO-IgGを見つけるという研究に到達したのではないかと思います。

つまり、OS「MS」におけるNMO-IgGの検出という2004年12月の論文は、偶然の産物ではなく、OS「MS」がMSとは異なるのではないかと問い続けた医師が(少なくともMayoと東北大には)いたということの表れではなかろうかと感じます。

次の追加条件(=「ベータフェロン投与の適否、あるいはステロイドの継続的服用の適否をスムーズに判断できる」という「NMO/MSの専門家」についての芦田の追加条件:芦田註)と関連しますが、ではそのような「確信は無くとも感じていた」医師が2004年12月以前における上述の疑念を持った時に、実際の治療行為としてその「信念」に従ったか(ベタフェロンを使用せず、ステロイド等の免疫抑制剤を選択したか)と言えば、それは例外的で極めて少数派であったと思われます。

90年代後半以降は既に「Evidence-based medicine」という単語が重要視され、医師の経験や勘による治療は「Experience-based medicine」として忌み嫌われる状態にありました。現実問題として、ベタフェロン投与開始や経口ステロイド維持療法開始のきっかけは多くの場合、初発や再発時に入院した際に為されていると思います。

入院患者の治療方針を策定するのは、やはり白い巨塔での総意に沿った見解に基づき、経験豊富な特定個人の医師の信念で「大勢の常識」に反する治療方針を策定することは、その医師が教授や診療部長などの決定権をもつ位置の人間でなければ、困難だと考えます。

2004年12月以前とて、「MSにおけるステロイドは再発予防効果がなく、長期的神経予後も改善しない」というのは、国家試験の参考書に書いてある「常識的な」知識であり、OS「MS」と呼んでいた本邦においては、再発予防を目的とする経口ステロイドの維持療法は「常識的には」認められない選択肢であったのだろうと思います。

ただ、少数ながらその時期も含めて経口ステロイドなどの免疫抑制剤を今に至るまで飲んでいた、今考えれば幸いな患者もいると思います。それは多くの場合、パルスをして少しは効いたが未だ限定的な効果しか無くもう一度パルスをするまでではないから、今しばらく効果が十分にでるまでステロイドの後療法にて経過観察しましょう、と以降の治療を「信念を持つ」外来主治医に委ねられたケースや、ステロイドを漸減するとどうしても再増悪し、「信念」とは別に、やめたくてもやめられないという消極的な選択であったような例だと思います。

「信念を持つ」外来主治医であったとしても、今現在は安定しており再発はないような症例に対して、あなたの病気はOS「MS」(視神経型MS)と言われているが、 CMS(古典的MS)とは病態が違うものと思われるので、今から再発予防の為にベタフェロンではなくステロイドを飲んでください、と勧められる医者は殆どあるいは全くいなかったと思います。

更に、2005年2月においては、日本のベタフェロン治験結果により、「統計学的な確証はサンプル数が少ないためにない」という前置きはありながらも、事実上OS「MS」はCMSに治療反応性が類似するとのお墨付きを与えたわけで、より一層「信念」に従うのは困難になったと思います。(詳論はさけますが、視神経炎への経口ステロイドは再発を増加させるから推奨されない等の眼科領域での周辺話題もありました)。

結局のところ、「ステロイドを辞めると再発してしまう」という症例に当たり、それなりに「信念」を持つに至った医師が比較的居たものの、それを OS「MS」に広く展開する状況には無く、ステロイドを辞めても再発しなかったOS「MS」には、そんな医師もまたベタフェロンを選択したのではないでしょうか。

では、仮にベタフェロン投与開始したとしても、患者をよく見ていれば、ベタフェロンによって再発が増えたことに気づいて辞めても良かったのではないか、ベタフェロンが害になっている可能性をなぜ考えずに投与し続けたのかと指摘があるかも知れません。

多くの医師はベタフェロンには30%程度の再発抑制効果があり、或いは再発してもある程度症状を緩和する作用があると説明して投与開始していると思います。しかし、そもそも再発が予測できず年間再発回数にも大きなばらつきがあり、再発時の症状もまた不定であるMSにおいて、この効果は体感困難なところも多く、一種「信じる者は救われる」的な要素すらあるのかも知れません。ちょっとやそっと増悪しているとしても、投与していなかったらどうかという比較対照がないですし、たとえ何かおかしいと思っていても、極めつけにはやはり、2005年2月の治験結果を見て、思いすごしかな、ということになってしまう。

ここから先はやや脱線しますが、お許しください。

根本に戻りますが、ベタフェロンがなぜCMSにおいて再発抑制という効果を出すか、その機序は「不明」です。まずこのことをNMO/MS専門家は認識しておく必要があると思います。私の記憶が確かならば、きっかけは1981年の世界トップクラスの科学誌Science誌に掲載された論文ではなかったかと思います。

当時、CMSはウイルス感染によって発病という「引き金」が引かれるという論があり、機序不明ながらも抗ウイルス効果を持つインターフェロンが注目され、線維芽細胞から抽出されたベータインターフェロンを(当時は当該物質は血液脳関門をほぼ通過せず体循環投与は効果が乏しいと考えられ)脳脊髄液中へ髄注することが考えられました。

実際にMS患者に対するいわば人体実験をニューヨークの研究者がやってみたところ、再発抑制効果が出た。この論文を契機として、アルファインターフェロンやガンマインターフェロンも同じように人体実験され、ガンマに至っては相当の増悪を来す結果となり、この3者の中で最もベータが良いということで残っていった。

しかし実際には抗ウイルス効果は直接の関係性がないと後日指摘され、何らかの免疫調節作用かといわれるに至っています。博打のような人体実験にて得られた偶然に近い産物と言える。どのように効いているかを理論立てて説明できない薬剤を今日もまだ使っている、このこと自体はそれで恩恵を得ている人がいる以上悪いことだとは言いませんが、予測していない事態の出現には警戒する必要があるとは思うのです。

もっと根本では、再発予防の為の投薬というが、MSにおける再発というのが具体的にどういうことなのか、その病理は未解明です。つまり再発を予防しましょうと言ったときに、なにをどうやって予防するのかというアプローチがない。多くの患者や医師は盲目的に、炎症が脱髄のきっかけ、と感じていると思います。が、これは証明されていません。

2004年4月に衝撃的な論文がAnnals of Neurologyに出ました。不幸にも脳幹に脱髄が生じて数時間で亡くなった患者の脳を調べたところ、髄鞘を形成する細胞が死んでいる像とそれによる脱髄はあるが、T細胞浸潤等の炎症はなかったことを報告しています。

彼らは、ひょっとして髄鞘を作っている細胞が炎症とは別の原因で死んでしまい、炎症とは、あくまで二次的な反応なのではないか(炎症は原因ではなくて結果なのではないか?)と疑義を呈しました。

この後、ケンブリッジ大学の研究チームが立て続けにこの報告に支持的な実験データを提出しました。一連の動物実験の中で指摘されたのは、長い間脱髄している慢性的な病変に無理やり炎症を励起すると、髄鞘再生が開始されること(炎症は髄鞘再生の引き金を引く大事なファクター?)、逆に脱髄によって生じた髄鞘のゴミを投与すると髄鞘は再生できない(脱髄したまま炎症という「ゴミ処理班」を呼ばないで放置すると、その後再生できないのではないか?)、極めつけは、脱髄のピークでステロイド投与を行うと髄鞘を形成する細胞が死んでしまい、再生がむしろ遅延する(急性期の行うステロイドパルスは髄鞘の再生にマイナス?)ということでした。

ケンブリッジ大学の研究報告はいずれも動物実験ですが、これらの結果から、MSでの脱髄がもっと別の要因で生じていて、派手な症状を引き起こす炎症は、実は二次的に、或いは髄鞘を再生しようとする人体反応の必要悪として生じている、とも考えられなくはないのです。

この論に基づけば、真の再発抑制薬とは髄鞘を形成する細胞が死ぬのを止める薬、ということになります。

しかし、2008年1月には同じAnnals of Neurologyに、この衝撃的報告(髄鞘形成細胞の死滅現象)は確認できない、とする論文も出されています。

この2008年1月の論文では、それ以上に衝撃的な指摘があります。兼ねてから再発時のMS病理像には4パターンあるとされ(パターンによって治療法の選択が可能かもしれないと考えられていた)、他方で東北大もMayoもNMOの病理所見は免疫グロブリンと補体とマクロファージを中心とする液性免疫であると報告していました。

ところが 2008年1月この論文においては、MS再発時病理像はたった1パターンに集約され、その唯一のパターンとは、髄鞘に対して免疫グロブリン(抗体)と補体が結合し、マクロファージが集積している脱髄、つまり、液性免疫が主体であると。

即ち、ここに来て「NMOは液性免疫であるという観点でCMSから区別される」という発想すら危うくなっています。本当にNMOは「MSとは明確に区別されるべき」疾患なのでしょうか? 抗AQP4抗体は原因と証明されたわけではなく、現時点では単なるマーカー、と以前に書きましたが、例えばこの抗体が単に病変の場所(視神経・脊髄)を規定しているだけで、脱髄の本態についてはMSと変わらない可能性も否定はできません。またEvidence- based medicineの観点からは、NMOとCMSでベタフェロンの「治療反応性が明らかに違う」ということについても、確証が得られたわけではありません。

芦田さんご指摘の通り1891年からNMOと思われる症例報告は本邦にあり、それ以前からMSは欧米で報告されており、いずれも100年以上経過していますが、未だに原因も、病理病態も、治療薬の機序も、明確にはなっていない。

それでも尚、患者に向き合い、病気を診断し、治療を選択し、患者の幸福に貢献するのが、現場の医師の責務です。

現時点ではNMO/MSの診断・治療においてのゴールデンルールはありえず、100%確実な診断と治療を絶対的に提供できる専門家はいないはずです。

名目だけの専門家ならば、ガイドラインやEvidence-based medicineに迎合し「みんなで渡れば怖くない」と、失敗したら仕方なかったと言い訳するでしょうが、小生がMS患者であれば、分からないことだらけであることを十分に承知し、あらゆる情報を集約し、あらゆる可能性を考え悩みぬいた上での決断として、その患者に最も適切と思われる治療を選択し、途中で異なる方向性であることに気づいた場合には謝罪してでも方針を修正し、それでも結果として悪化する方向に働いた場合には自責の念に苛まされる医師を以て、「NMO/MSの専門家」として信用したいと思います。無論、関西ではベタフェロンといった風潮に迎合する、或いはそれに抗することを以て評価される職務ではないと思います。

100年以上の謎が早く解明されることを待ち望みつつも、再発した時にきちんとリカバリーできるような治療法(再生)が、再発抑制薬の開発競争に比して実のところほとんど研究されていないことに危惧を感じています。

NMOであれMSであれ共通して病初期には自然にリカバリーすることが多いのは患者がよく知っていることだと思います。リカバリーする力がもともと備わっているならば、それをいつでも引き出せるようにする治療法の開発は、意外と近道ではないかと感じています。

私見が多いと思いますが、ご参考になれば幸いです。(2008年02月16日 04:32)


>私のとりあえずの返信

ありがとうございます。今日はお疲れで無理だろうなぁと思っていましたが、UPされた直後、5:00前に読ませて頂きました。

私の追加2条件の趣旨をこんなにも理解して頂いて、感謝しています。いろいろなことに配慮されていることが文面のあちらこちらから読み取れます。

寝ていた家内をたたき起こして(身体に悪いかな・笑)、プリントアウトして読ませました。

「小生がMS患者であれば、分からないことだらけであることを十分に承知し、あらゆる情報を集約し、あらゆる可能性を考え悩みぬいた上での決断として、その患者に最も適切と思われる治療を選択し、途中で異なる方向性であることに気づいた場合には謝罪してでも方針を修正し、それでも結果として悪化する方向に働いた場合には自責の念に苛まされる医師を以て、「NMO/MSの専門家」として信用したいと思います」という箇所に来たときに、家内は泣いていました。

「もう一度ステロイドを止めて、一からベータフェロンをやり直してみよう」と医師グループに言われたのが、2006年4月(正確に言えば、4月からステロイドを15ミリから徐々に5ミリまで減量してベータフェロンを600万単位から800万単位に増量する方針を出したのがその時期)。

「ステロイドが効いているような気がする」と言っていた家内の身体と感情はその判断を拒絶していましたが、指示に従いました。白血球の値が急激に落ちていったのもその時期です。その直後に入退院をくり返すその時を思い出していたみたいです。

あなたのコメントを読んで、この2006年という時期は何とも微妙なときだな、と痛感します。私は担当医に「NMO=デビック病は前々からある病気ですよ」と2007年2月(抗体検査後)に言われたとき、前々からある病気なら、なぜ、その疑いをもてなかったのか、とずーっと思い続けていました。

あなたの今回のコメントは、まさにその経緯を語ってくれています。その疑念のほとんどが氷解したような気がします。こんなに興奮する文章を読んだのは、ハイデガーの『存在と時間』(Sein und Zeit)以来のことです。じっくり読ませて頂いて、わからないところがあればまた質問させてください(今日中にUPします。もう少しお付き合いしてください)。


●家内の症状報告(95):古典的多発性硬化症 (CMS)、視神経型多発性硬化症 (OSMS)、視神経脊髄炎(NMO)はすべて「液性免疫」病理だって? ― NMO/MS治療は闇の中? 2008年02月16日

先の記事に対する私の質問をまとめてみました。どんな返信が返ってくるのでしょうか。楽しみです。

>以下私(芦田)の質問

1)あなたのコメントを読ませて頂いて真っ先に思うのは、2005年2月のNeurology誌に発表された「日本人のCMS・OSMS患者での、ベタフェロン治験結果」がまずかったのかな、ということです。

「日本のベタフェロン治験結果により、『統計学的な確証はサンプル数が少ないためにない』という前置きはありながらも、事実上OS「MS」は CMSに治療反応性が類似するとのお墨付きを与えた」ということであれば、このNeurology誌発表は、治療法の選択に決定的な影響を与えたのでしょう。

あなたが「そこそこの神経内科専門誌」と言うNeurologyに発表された「治験結果」は一体誰の(どんな組織の)主導によって、どんなサンプル数の集め方によって報告されたものなのでしょうか。「そこそこの神経内科専門誌」であるNeurology誌もOSMSがもともと日本的、アジア的であるため、審査が甘かったのでしょうか(これはどの分野の日本人研究外国審査でもあることですが)。

2006年12月の東北大学の「抗AQP4抗体のassay系の樹立」以降、その翌月の都立神経病院の発表、その翌々月の3月の「フランスのグループ」の発表、さらに4月の厚労省特定版の発表と、立て続けにベータフェロン投与が疑われはじめますが、それでもあなたは「実数はさておき、当時(2004年12月以前に)複数人のOS「MS」患者を診ていた医師で自身の治療経験を通じてそのように確信は無くとも感じていた医師(日本でOS「MS」(=視神経型MS)と呼んでいるものは実はCMSと違う病態の疾患ではないか、免疫抑制が望ましいとされるNMOに類似の病態ではないか、と感じていた医師)は比較的多数いたと思います」と書いています。

「つまり、OS「MS」における NMO-IgGの検出という2004年12月の論文は、偶然の産物ではなく、OS「MS」がMSとは異なるのではないかと問い続けた医師が(少なくとも Mayoと東北大には)いたということの表れではなかろうかと感じます」というように。

そしてそれゆえにこそ、2005年2月のNeurologyのベタフェロン治験結果は「国内外に驚きを与えた」。

そのことが逆に「Mayoの Lennonや東北大の医師が、OS「MS」の患者の血清からNMOと共通のNMO-IgGを見つけるという研究」を促進させたということに(あなたのコメントでは)なっていますが、Neurology誌に発表された「日本人のCMS・OSMS患者での、ベタフェロン治験結果」は、なぜそんなにも(いい意味でも悪い意味でも)影響を持ったのでしょうか。

そもそもあなたは「根本に戻りますが」と言いつつ、「ベタフェロンがなぜCMSにおいて再発抑制という効果を出すか、その機序は『不明』です。まずこのことをNMO/MS専門家は認識しておく必要がある」と「NMO/MS専門家」自身に警告を発しておられます。

そして「1981年の世界トップクラスの科学誌Science誌に掲載された論文」に言及され(なんと1981年の「根本」!)、「当時、CMS はウイルス感染によって発病という「引き金」が引かれるという論があり、機序不明ながらも抗ウイルス効果を持つインターフェロンが注目され」たが、「しかし実際には抗ウイルス効果は直接の関係性がないと後日指摘され、何らかの免疫調節作用かといわれるに至っています。(…)どのように効いているかを理論立てて説明できない薬剤を今日もまだ使っている。このこと自体はそれで恩恵を得ている人がいる以上悪いことだとは言いませんが、予測していない事態の出現には警戒する必要があるとは思うのです」とのこと。

そうなるとますます2005年2月の「日本人のCMS・OSMS患者での、ベタフェロン治験結果」の影響力の意味が私にはわからない。1981年の Science誌の「根本」は、この「ベタフェロン治験結果」を報告したグループやその論文を受け入れざるを得なかった治療現場にとってどんな関係にあったのか、もう少し教えてもらいたいところです。


2)もう一つの質問は、2004年4月と2008年1月のAnnals of Neurologyの報告についてです。

一つには、炎症は原因ではなくて結果だということ。「派手な症状を引き起こす炎症は、実は二次的に、或いは髄鞘を再生しようとする人体反応の必要悪として生じている、とも考えられなくはない」というもの。ここを読んで私は新潟大学の安保徹の免疫論を思い出しまいた(笑)。デタラメそうに見える“安保理論”もそこそこの理屈はあるのだな、と思いました(ここは聞き流してください)。

しかしその炎症結果論も同じAnnals of Neurologyの2008年1月の論文で「確認できない」との報告があり、さらに、NMOとMSとを分けていた「液性免疫」論が「危うくなっている」とのこと。

少し長くなりますが、重要なところなので、あなたの関連箇所を全文引用します。

「東北大もMayoもNMOの病理所見は免疫グロブリンと補体とマクロファージを中心とする液性免疫であると報告していました。

ところが 2008年1月この論文においては、MS再発時病理像はたった1パターンに集約され、その唯一のパターンとは、髄鞘に対して免疫グロブリン(抗体)と補体が結合し、マクロファージが集積している脱髄、つまり、液性免疫が主体であると。

即ち、ここに来て「NMOは液性免疫であるという観点でCMSから区別される」という発想すら危うくなっています。本当にNMOは「MSとは明確に区別されるべき」疾患なのでしょうか? 抗AQP4抗体は原因と証明されたわけではなく、現時点では単なるマーカー、と以前に書きましたが、例えばこの抗体が単に病変の場所(視神経・脊髄)を規定しているだけで、脱髄の本態についてはMSと変わらない可能性も否定はできません。またEvidence- based medicineの観点からは、NMOとCMSでベタフェロンの「治療反応性が明らかに違う」ということについても、確証が得られたわけではありません」。

― 以上引用終わり。

このあなたのコメントは衝撃的でした。結局、CMS/OSMS/NMOの区別が、ほとんど意味がなくなりすべて「液性免疫が主体」の病理だということですよね。ベータフェロン治療は一体何だったのでしょうか。

私の理解では(間違っているかも知れませんが)、CMS/OSMS=細胞性免疫=ベータフェロン有効、NMO=液性免疫=免疫抑制剤=血液浄化法有効という対照関係だったのですが、これもまた2008年1月の最新の研究では崩れつつあるということですか。

だとするとCMS/OSMS/NMO治療はまさに闇の中、Evidence-based medicine自体が幻想、ということですよね。患者としては医師の「謝罪」と「自責の念」、そして「信念」にかけるしかないということかな(苦笑)。

あなたの切り出した「NMO/MSの専門家」とは、ここにきて(このやりとりもそろそろ終わりかけていると思いますが)、もはや1人も存在していないのではないか、と思うほどです。

あなたの現時点での治療展望は、どんなものなのでしょう。少しだけでもお聞かせ下さい。


●家内の症状報告(96) ― Evidence-based medicine の“客観性”は、個々の患者の治療を狂わせる(ベータフェロンは本当に有効か) 2008年02月17日

家内の症状報告(95)の第1の質問 ― あなたが「そこそこの神経内科専門誌」と言うNeurologyに発表された「治験結果」は一体誰の(どんな組織の)主導によって、どんなサンプル数の集め方によって報告されたものなのでしょうか ― についての回答が早速来ました(ありがたいことです)。全文紹介します。

>拝読しました(2008年02月17日 02:38)。

まず、深夜寝ておられたところをたたき起こされて(苦笑)、小生の読みにくい駄文にお付き合い頂いた奥様にどうぞ宜しくお伝えください。今回の議論を通して、芦田さんの、何としてでも奥様の状況を改善しようと希求される気迫に満ちた想いをかいま見て、ご夫婦の掛け値なしの愛情に感動を覚えております。Lorenzo's Oilは小生の大好きな映画ですが(ご覧になったことがなければ、是非ご高覧を…)、映画の中に描かれるLorenzoの両親の姿が芦田さんと重なりました。Lorenzoのお父さんは今でも息子の為に治療薬を自ら主体的に開発しようと動いておられます(www.myelin.org)。

本日はちょっと思考がスピードダウンしておりますので、誤解、論理矛盾、意味不明などがあればご指摘お願い致します。

では(1)に対する回答です。まず、当該論文の情報(タイトル・要旨)を和訳してみました。著者は原文ままにてお許し下さい。

==========
2005年2月22日号 Neurology誌 621~630ページ
「インターフェロンベータ1b(註:ベタフェロンのこと)は日本人の再発寛解型MS患者において有効である:ランダム化された多施設研究」

T. Saida, K. Tashiro, Y. Itoyama, T. Sato, Y. Ohashi, Z. Zhao and the Interferon Beta-1b Multiple Sclerosis Study Group of Japan(←註:このグループ内に多施設が入っています)

<目的>日本人の再発寛解型MS(RRMS)におけるインターフェロンベータ1b(IFNB-1b)の有効性を評価する。

<背景>RRMSにおけるIFNBの効果は主に白人集団において評価されてきた。日本人におけるMSは白人におけるそれとは、CMSとOSMSの二つの異なる臨床病型から成るということ、及び慢性進行型が少ないという点で異なっている。

<方法>合計205名の日本人RRMS患者を、ランダムに2群に分け、それぞれ50microG(1.6MIU)又は250microG (8.0MIU)のIFNB-1b隔日皮下注射を最長2年間行った。第一の評価事項は年間再発率とした。第二の評価事項は再発に関連する評価指標とMRI の評価指標、更にEDSS・NRS(註:神経障害のスコアリングのこと)の絶対値変化とした。効果は188人の患者において評価でき、安全性は192人の患者において評価可能であった。加えてサブグループ解析をOSMS患者とCMS患者に対して行った。

<結果>年間再発率は250microG投与群で0.763、50microG投与群で1.069であり、再発の相対減少率は28.6%であった(p=0.047←註:統計上よく出現する項目ですが、簡単にはこの結果が間違っている可能性が4.7%あるということですが、5%以下の場合は通常「統計学的に有意」と判断します)。すべての第二評価事項に関して、250microGのIFNB-1bを投与された群が勝っていた。サンプル数が少ないために統計学的有意ではなかったものの、サブグループ解析ではOSMSとCMSにおける本治療効果の程度や方向性が同等であることが示唆された。

<結論>日本人RRMS患者においてIFNB1b250microGは有意に再発率及びMRI上の病巣面積増加を減少させ、またそれは OSMS・CMSのいずれにも同等に効果を示していると思われた。日本人MS患者におけるIFNB1bの治療反応性の結果は、白人患者との間に共通の病因や背後の遺伝素因が存在することを示唆している。
==========

現在原文が手元にないため、205名の内訳(OSMS vs CMS)は分かりません。「サンプル数が少なく統計学的に有意とは言えない」ことはこの規模の治験でのサブグループ解析では良くあることですが、OSMS 患者にベタフェロンを打って皆が皆、再発率が増加すればさすがにこの結論は審査で認められないと思われますから、提示されたデータからは Neurology誌の審査としては問題ない帰結を導いていたものと思われます。

さて、この論文が与えた影響力についてですが、これには現在の医学界における「Evidence-based medicine(EBM)」について説明を加えねばなりません。

EBMは90年代初頭に登場しましたが、ともあれ、90年代後半からは日本を含めた全世界で合言葉のように使われるようになりました。例えば、OS 「MS」と診断されて入院中の患者に、前述の「信念」を持った医師がステロイド維持療法を考え、その考えをカンファレンスで提示したとします。上級医からはこう切り返されるでしょう「その治療は有効であるエビデンスがないんじゃないの?(無効だというエビデンスがあるんじゃないの?)」。ここでいうエビデンスですが、国際的な定義があります。

==========
<エビデンスのレベル(上に行くほど、エビデンスが強い)>
Ⅰa:複数のランダム化比較試験のメタアナリシスで示された結果
Ⅰb:少なくとも一つのランダム化比較試験で示された結果
Ⅱa:少なくとも一つのよくデザインされた非ランダム化比較試験で示された結果
Ⅱb:少なくとも一つの他のタイプのよくデザインされた準実験的研究による結果
Ⅲ:よくデザインされた非実験的記述的研究による結果(比較試験、相関研究、ケースコントロール研究)
Ⅳ:専門家委員会のレポートや意見、権威者の臨床経験
==========

医師が「エビデンスがない」と言っているときには、客観性に欠けるということから、レベルIVをも含めています。かの「信念」も、「研究班の勧告」も、エビデンスレベルIV、つまり、エビデンスがありません。他方、ベタフェロン治験論文はレベルIbです。ベタフェロン治験論文の中の、OSMS vs CMSのサブグループ解析については、サンプル数制限で統計学的に有意とは言えないという点でIbとは言い切れないところですが、IVには勝ると判断されます。

欧米で、ベタフェロンのMSにおける有効性はIaのエビデンスがあります。「信念」を持っていた日本の医師達は、「ステロイドの反応性が欧米と日本では違うのではないか(ひょっとしたらベタフェロンも?)」、と感じていたかも知れませんが、その「考え」はレベルIVで、「エビデンスが無い」。固唾を飲んで待ちわびた日本での結果はエビデンスIbのお墨付きを出した。当該論文が影響力を持ったのは、端的には、そのエビデンスレベルが高かったからです。

EBMの考え方はすでに現代の医師に呪いのように浸透しています。本来は「医師の勝手な思い込みによる治療で患者を苦しめない」という患者保護の目的や、「無意味な治療を行わずに医療経済的な合理化を図る」といった観点で優れたシステムになるものだとは思うのですが、あまりにも「結果」だけが独り歩きする傾向にあります。これは疾患概念(原因・病理病態)が確立していないものでは重大な問題を来します。例えば、ベタフェロンは日本人のMSに有効である、とか、ステロイドはMSに無効である、と言ったものに「エビデンスがある」とされるのですが、ではそのMSとは何ぞや、と言った問題を希薄化してしまうのです。

即ち、MSは原因不明であり、「時間的多発性」・「空間的多発性」・「中枢神経系脱髄」というキーワードで一括りにされている「疾患群」であり、原因別分類になっていない、ということを以前記述しましたが、そういう「前提」を忘却の彼方においてしまい、あくまで暫定的な「診断基準」によって括られる集団において得られた結果をすべての個人に対して一元的に適応しようとする嫌いがあるのです。

そして、このEBM絶対主義は医師の個々の患者に対する観察眼を狂わせるように思います。EBMにおけるエビデンスは、結局、集団における統計学的根拠を求めます。生身の個人を相手にする医師にとっての、本来必要なエビデンスとは、その向き合う患者個人に対して行った診断治療に責任を持つための基礎であり、であれば、ベタフェロンがこの患者の身体に投与された時にどのように働くのか、そしてそれがその患者個人の病態にどういう利点があるのか、こういったことが最も重要なことであり、そこにエビデンスを求めるべきではないでしょうか。

EBM上はMSに対するベタフェロンの有効性にエビデンスがありますが、生物学的には、ベタフェロンがMSに効く作用機序は不明であり、そこにエビデンスはないのではないか、ということです。1981年の論文を引きあいに警鐘を鳴らしたのはベタフェロンの「生物学的なエビデンス」がないことについて十分に理解していない医師がいるのではないかと危惧しているからです。

医師はこの「(MSに有効であるという生物学的な)エビデンスがない」ベタフェロンに、「(MSに有効であるというEBM上の)エビデンスがある」という特殊な状況を決して忘却してはいけない。いわばブラックボックスのような薬を投与する訳ですから、自分の前に居る患者に再発率増加という異常を少しでも感じたならば、(EBM上の)エビデンスを前に、思いすごしかも知れない、と黙認することはあってはならないと、思うのです。ベタフェロンが体内で何を起こしているのか保証されていないからです。

※もう一つの回答は、また後日でご寛恕下さい…


>ここまでの私(芦田)の返信(2008年02月17日 03:58)

私も映画は大好きですが、さすがに『Lorenzo's Oil』は見たことがありません。早速見てみます。

私のこの病気への関心は「掛け値なしの愛情」というよりは、むしろ医学の先端専門性というものが、どの程度の専門性なのかを、私自身の研究経験に重ね合わせながら確かめたい、という気持ちの方が高いと思います。

「掛け値なしの愛情」に見えるとすれば、病気の当事者というものは、実は医師とはほとんどまともな会話が出来ず、何も重要なことを聞き出せていないという一般的な事情から来ていると思います。

私も入院の経験がありますが、そうでした。家内の他人ごとの病気であるからこそ、聞くべきことを聞いてみたいという気になったのかも知れません。

私の経験では、病気の治療には代理人(家族であれ、友人・知人であれ)が必要なのだと思います。当事者は、医師との人間関係に気が散ってしまい、何も出来ません。目の前にいる医師は、患者にとってはいつでも「名医」でしかないのです。これは悲劇ですが、避けられない悲劇です。

毎晩、付き合わせて、スミマセン。

私も、Evidence-based medicine の“客観性”がむしろ個々の患者の情況を直視することから目を背けさせているものだと思います。私もさすがにこの時間では頭が回らなくなっています。今日の日曜日、じっくり考えてみます。


●家内の症状報告(97) ― 私のEvidence-based medicine論(「症状報告」91~96を理解するためのサブ資料) 2008年02月17日

ちょうど家内がステロイドをやめて、ベータフェロンだけに治療を転換するとき(2006年5月)にこの「Evidence-based medicine」について思い出した記録があったので、修正を加えながら再録します。

>当時の症状報告より

今回(2006年5月17日)はこれまでと違い3年以上服用してきたステロイドを止めることを決定。ベータフェロンを増量して(600→800)、ベータフェロンのみで“治療”を続けることになった。その結果入院中何度も白血球の値が上下し不安定になったが、もともと家内は白血球が少ないこともあって、何とかなるのではないか。とのことだったが、白血球減少を気遣い続けた生活を送るのも“問題”とのことで、元のベータフェロン量(600)に戻すことになった。それで今日の退院。

以前からベータフェロン600(注射)+ステロイド10ミリ(経口)を自宅で続けていたのだから、今回の退院は、以前よりもさらに薬物“武装”状態を解いたことになる。

この“治療”の選択は、ステロイドとベータフェロンとの併用が、両者の効果を相殺するという判断がなければありえない。あるいは、ステロイド服用の副作用が、その効果よりもはるかに大きいという判断がなければあり得ない。そしてまたベータフェロンの効果は(家内の場合の最大の副作用である)白血球減少を凌ぐことができれば、(少しは)効果があるという前提がなければあり得ない。

現在のところ、最後のベータフェロンの効果については唯一の実証的な“エビデンス”があるらしいが前者の二つは「色々な意見がある」(担当医)ということで「エビデンスはない」。

家内が広尾の日本赤十字でお世話になっていたときに見たベータフェロンの資料(2003年秋)では、使用しないときとしたときとの効果の差(要するに再発防止率)は20%という数字だったような気がする。10人の患者がいて、10人がベータフェロンを使用した場合2人は再発しない(かなりの期間再発しない)ということだ。ただし日赤ではベータフェロンをなぜか使用しなかった。「体力がまだ付いていないから」と、駆け出しの女医がわけのわからないことを言っていた。

したがって、ベータフェロンの“効果”さえ、最大で20%、その20%の効果について約2割減の投与で再出発するのだから、今回の退院はほとんど根拠のない退院にすぎない。

全体に免疫系の病気には科学的な根拠が薄弱。もちろん医学はもともとが実証的な分野だから根拠なんてないのだろう。否定する根拠(こうすれば人間は死ぬ)はいつでも存在するだろうが、肯定する根拠(こうすれば治る)なんてものは、どんな分野でも存在しない。すべては結果論だし、それ以前に、スピノザは「規定」はすでにつねに「否定」だと言っていた。

大概の医師は、「患者さんそれぞれで違いますから」ということになる。そう言う割には、ベータフェロンの投与量、白血球の量については、“基準値” を持ち出す。基準値は大概の場合、“平均値”だから、それを言うのなら「患者さんそれぞれで違いますから」と言うことも禁じられているはず。両者は矛盾している。

こういった病気の治療で大切なことは、症例研究をどれくらい重ねているか、に関わっていると思う。外科医でもないかぎり、この分野の医師は弁護士に似ている。法律判断もまた〈真理〉に関わるよりは判例の変化を機敏に読み取ることが鍵を握っている。おなじように症例研究が治療法の決定や薬物の投与量の決定に大きな影響を与えている。

多発性硬化症の場合、日本人全体で1万人しかいないから症例研究と言っても他の病気と違って資料はないのかもしれない。また資料はあっても病院を超えた(研究のための)資料開示は、(専門医が少ないということもあるが)この世界の場合思うほどには進んでいない。

一般的な資料開示というのは、専門家の集団がかかわる資料になればなるほど、なかなかしないものだ。そんなことしたら〈論文〉の価値がなくなるからである。大学の業績評価は依然として論文評価だから、本来の治療ネットワーク(症例開示のネットワーク)の形成はできそうでできない。

私は文科省の「特色ある大学教育プログラム」の審査員(第三審査部会)を平成16年度(http://www.tokushoku- gp.jp/meibo/h16meibo-sinsabukai03.html)~19年度(http://www.tokushoku- gp.jp/meibo/h17meibo-sinsabukai03.html)と続けてやりましたが、大学医学部の教育改革は他のどの分野(工学系、人文系)よりも活発で毎回提案数がいちばん多い。

この改革の熱を治療に於ける情報開示にぜひ向けてもらいたいものだ。アカウンタビリティ(説明責任)なんて実はどうでもいいのであって、今なお謎の多い医療の現場で必要とされているのは、個々の治療現場を越えた日本大、世界大の症例データベースの形成のような気がする。

治療現場では、「説明責任」よりも「情報開示」の方が重要に決まっている。何を説明すべきかの基準がない「説明責任」は単に心理的なものにすぎない。その場合の「説明責任」は「ベッドサイドマナー」以上のものではない。医師と患者との自己満足にすぎない。

たとえば、今回の家内の一ヶ月半の入院期間で白血球の上下変動がどのように生じたのかを、世界中のどの治療現場からでもリアルタイムに知ることがなぜできないのか(それと同様に他の患者の白血球減少のデータが症例としてなぜ手に入らないのか)。

最近Googleは、「Googleブック」(http://books.google.co.jp/)検索サービスを始めた。これは世界中の書物のフルテキスト検索ができるシステムだ(まだ賭場口に付いたばかりだが)。これができれば、世界の人文系の“教授”達の半分は(事実上)職を失う。大概の人文系研究者は丸善の文献カードをせっせと何十年もかけて作り続けているにすぎないからだ(それ以下の教授はもっとたくさんいるが)。

文献カード(たとえばハイデガーが「存在」という言葉を彼の著作の何頁の何行目に使っているかメモったもの)の量は、その教授がどれほど丹念に研究対象である著作を読み込んできたかの間接的な証拠であったわけだが ― 八木誠一や田川健三などキリスト教文献学に関わる研究者なんて、病的なくらいに何頁の何行目にその語やテキストが存在しているかを頭の中にたたき込んでいる! 滑稽なくらいだ ― 、「Googleブック」はそれを物理的に破壊する。しったかぶりをした教授のアカウンタビリティ(それが教養課程の「哲学概論」のすべてだ)よりは「Googleブック」の“情報開示”の方が学生達にはるかに有益なはずだ。

それと同じように、医学の分野でも症例データベースが整備されるべきだ。ベータフェロン、白血球、ステロイドなどと複合検索をかければ、世界大の症例データベースが一気にはき出されるような仕組み(データ供与の共通書式)はできないのか。結果論の医学であるのなら、症例データベースの形成と整備は必須だし、やろうと思えば技術的にはいつでもできる時代に入ってきている。

そういったことがない中でベータフェロンとステロイド投与の適否を「エビデンス」ということで“説明”されても、患者の立場では何も言えない。

― 以上当時の私が書いた「症状報告」より。


要するに、Evidence-Based MedicineとExperience-Based Medicineとの中間がない。「P」さんは、このやり取りの中で、その中間を「信念」と呼んでいますが、私は「症例数」の多さと言いたい。だれだけの患者を診てきたのか、診てこないまでもどれくらいの症例を集めているのか。

ただし、これは堂々巡りの議論のようにも思える。症例を集めたのが、唯一、2005年2月22日号 Neurology誌の治験結果だったとも言えるし、いくら治療経験があっても、Evidence-Based Medicineで凝り固まっている大学医師の前には1000の症例経験があってもEvidence主義の色眼鏡でしか患者を診ていないのだから、経験としては2,3人の患者しか診ていない町医者とほとんど変わりのない状態になる、というように。

そうならないためにも、〈論文〉を経由しない、症例データベースの整備が急務なような気がします。難病患者の毎日は、毎日が実験みたいなものなのですから、それを公開するだけで