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 家内の症状報告(114)― MS治療は再び闇の中? 2008年03月06日

●症状報告113(http://www.ashida.info/blog/2008/03/_ms.html#more)への芦田の質問

もし「免疫反応不在でのオリゴの死」(2004年4月、Annals of Neurologyの論文)が本当だとしたら、MS・NMOは自己免疫疾患ではないということになる。

また抗AQP4抗体も「原因」ではなくて「結果」かもしれない。つまり「髄鞘再生という現象は、悪者であったはずの「炎症」と紙一重に生じているかも知れない」。

慶応大学の発見に擬して言えば「抗原は関係ないかも知れない(免疫グロブリン(抗体)そのものを(抗原によらず)認識する受容体が鍵として働いている)ということ」。「髄鞘再生に効いているのは、「抗体」それ自体かもしれない。

Cambridge大は「炎症は髄鞘再生に必要である」とまで言っている。

あなたのこれまでの刺激的な最前線報告ではそうなる。

となると、MS・NMOは自己免疫疾患ではないということ(か)。とすると、炎症を抑える治療は病気を長らえさせるだけということ(か)。その場合、炎症をパルスなどをせずに(もちろんステロイド服用もなしに)、(辛いのを我慢させて)そのまま放っておくとどうなるのか。新潟大学の安保理論のように対処療法が諸悪の根源ということになるのかどうか。

つまり治療の基本は「FcRgの刺激を行う医薬品」にまでいくか行かないかは別にして、免疫抑制ではないということなのか。

だとすると、(「陽性」の家内の場合などは特に)「ステロイドが効く」(一日20ミリ以上続けると実際に効いている)というのは、どういうことなのか。

とりあえず、ここまでが私の質問です。


●Pさんの回答(2008年03月05日 03:46)

お疲れ様です。

念のため、現段階では「何とも言えません」というのが結論であることを予め強調しておきたいと思います。

さて、Mayo・ケンブリッジ・慶応大のそれぞれの研究は独自に為されていますが、これらの研究成果を俯瞰すると、炎症、特に液性免疫(抗体)はどうも髄鞘再生に寄与する重要なファクターなのではないか、NMO/MSで起こる炎症というのは、実は擦り傷を作った時に治癒反応として起こる炎症の如く、一見すると厄介な現象だが、実は身体の自然治癒力の一部ではないかということを考えさせます。であれば、擦り傷にステロイドを塗ると、ヒリヒリとした痛みは消失するが、傷が綺麗に治らなくなるように、NMO/MSでもまた、一見すると短期的には症状をコントロールできているようだが、再生を妨げるのではないか、との心配が生じます(実際にケンブリッジは動物実験でステロイド投与により髄鞘再生が遅延することを示しています)。

そして、オーストラリアの医師らが報告したように、病理学的にも炎症が原因ではなく結果である可能性が高いとなると、この心配は増幅される。良かれと思って投与しているステロイドによって、病気が延々治らなくなっているのではないか、古典的MSではステロイドが長期的な神経学的予後を改善させないとのエビデンスもある、、、。

こうなると、何もしないで放っておこう、自然治癒力に期待しよう、という悪魔の囁きが聞こえなくもありません(事実、欧米ではステロイドを一切使用しない専門医も多いです)。

が、しかし、似たような脱髄疾患でADEMというのがありますが、ステロイドパルスを治療として行います。それでも、ADEMの多くは後遺症を残さず完治し再発しない(髄鞘がほぼ完全に再生する)。ところが、NMO/MSでは慢性脱髄巣が残存します。ステロイドを一切使っていない欧米のCMSにおいても、です。

この議論はNMO/MSの病態を考える上で重要なポイントを内包しています。即ち、「髄鞘再生の何らかの障害がある」、これがNMO/MSの病態生理の要にあるのではないかということです。よって炎症が起きて、放置しても、(ADEMやケンブリッジで行った動物実験のように)髄鞘が完全に再生することを期待できないのではないかとの観測を与えます。

また、NMO/MSでも時折自然再生でほぼ完全に再生する例がありますが、完全に再生しるように見えても、再発する。即ち、再発という現象が「髄鞘を修復するために起きた自然現象」とも言い切れない。

他方、再発時に決まって同じところで炎症が起きるのであればまだしも、再発は大概別の位置に起き、新しい神経障害を来す。であれば、少なくとも NMOについてはステロイドによる再発抑制が期待できるわけですから、そもそも不十分に過ぎない髄鞘再生能をいくらか弱くする可能性があるとしても、次の再発を抑制する効果が十分あるのであれば、リスクベネフィット判断としても、心情としても、ステロイドを用いる例は当然出てくると思います(将来的にはこれに加えて、選択的に髄鞘再生を促す薬が被せられればいいのですが)。

しかしながら、NMOでもステロイドがどのように効いているのか、これは分かりません。免疫抑制が効いていると考えるには早すぎると思います。

根本治療はどこにある、ということになると、それはNMO/MSの原因が特定されなければ議論できません。自己免疫疾患なのかも知れないし、そうでないかも知れない、現状はその程度の推測しかありません。原因療法と再生療法のどちらが早いか一概には分からないというのは、このためです(ただ、以前に議論しましたように、再生療法を開発するにしても、「髄鞘再生不良の原因」を突き止めなくてはならないので、今後の研究が期待されます)。

2007年5月にドイツのグループがBrain誌に強烈な論文を出しています。曰く、最強の免疫抑制治療である、骨髄移植を行ったMS患者少数例の死後脳の剖検で、脳内病巣には「T細胞はごく僅かしか認めず(居てもCD4+でなくCD8+であり)」「(抗体を産生する)B細胞も形質細胞は全く消失していた」「にも拘らず(マクロファージによる)脱髄と軸策障害の進行が認められた」との報告です。無論、このような骨髄移植を要した患者が、典型的な MSを代表する患者ではない可能性もありますが(患者は二次慢性進行型か一次慢性進行型のいずれかでした)、著者らが「強力な免疫抑制をかけて、局所の炎症(T細胞やB細胞)は消滅させられたにも拘らずなお、脱髄は止められなかった」と指摘していましたが、自己免疫説の観点からは違和感のある結果に思えます。


●この回答への私の再質問(2008年03月06日 08:01)

お互い忙しいですね。

ますますNMO/MSは闇の中ですね。結局、免疫抑制そのものが意味がない、「抗体」そのものが髄鞘再生の鍵を握っているということなら、T細胞免疫論も液性免疫論もふっとんで、つまり自己免疫疾患という分類自体が意味をなさなくなって、通常の病気のように免疫力を高めることの方がはるかに有効、ということですね。

一つ質問があります。NMO/MS患者で、炎症状態を放置した事例はあるのですか。最初期の“患者”達で炎症を起こし、そのままに放置された事例などはないのでしょうか。

私は一度家内の担当医に、「放置してみたいのですが」と聞いたことがあります。その時、担当医の返答は「倫理的にできません」というものでした。

今日もあなたの昨夜の返信を読みながら、家内に、「今日から薬を一切止めてみたら。僕はその間、ヨーロッパに半年でも一年でも旅行に行っているから(のたうち回るのを見たくないから)、治ったら電話でもしてちょうだい、そしたら家に帰ってくるから」と、高木ブーのような顔に変貌している家内の顔を見て笑いながら話していました。

“放置症例”のようなものはないのでしょうか。

「欧米ではステロイドを一切使用しない専門医も多い」とあなたは言いますが、その場合、どんな治療なのでしょうか(ベータフェロン使用は論外として)。厳しい監視の元に「放置」展開を見定めようとするような試みはあるのでしょうか。


もう一つの質問。あなたとのやりとりでこの病気の切り口がかなり見えてきました。そこでこの病気にかかわる医療情況を別の場面から知りたいと思いました。

以下の項目で、大雑把な割合を教えて頂けませんか、ざっくりとしたあなたの個人的な概観で結構です。研究史としてはよく分かるのですが、その知見に基づいた治療がどの程度普及しているのかが見えないので、そのあたりを知りたいと思います。いずれも現在の時点での日本の神経内科(MS専門医も含めた)の医師達(A)、 MSの専門医と呼ばれうる人(B)ということで。(A)で言えば?%、(B)で言えば、?%というように答えて頂けますか。

1)MS=T細胞免疫疾患と考えている先生の割合

2)MS=自己免疫疾患と考えている先生の割合

3)MS=ベータフェロンが有効と考えている先生の割合

4)ステロイドは再発予防効果がないと考えている先生の割合

5)抗AQP4抗体検査は一度検査すれば十分(陰性はどこまでも陰性)と考えている先生の割合

6)MS/NMOの区別は細胞性免疫と液性免疫との区別だと考えている先生の割合

7)NMOでは脳には炎症は出ないと考えている先生の割合

8)2004年4月のオーストラリアの医師の発見(免疫反応不在でのオリゴの死の報告)を知っている先生の割合

9)2008年1月の「MSはすべて液性免疫が主体」、CMSとも区別が付かないというMSバリエーション論の否定論文(Annals of Neurology誌)を知っている先生の割合

10)慶應大学の最新の取組(FcRgをめぐる)を知っている先生の割合

これらの認識がどのていどに医療現場に展開しているのかのあなたの感覚を教えて下さい。そうすれば、このブログに関心のある患者や患者の家族・知人の方々が現在どの程度の治療を受けうる立場にあるのかを理解できるかと思います。

(Version 2.0)

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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