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 家内の症状報告(88):ベータフェロン投与の危険性に関して大新聞社と厚労省がやっと動き始めた―多発性硬化症と視神経脊髄炎・続々編 2007年07月08日

3月26日以来(http://www.ashida.info/blog/2007/03/post_197.html)、「家内の症状報告」は、長い間、“休刊”となっていたが、便りのないのは良い知らせ、とはいかず、しかも今は梅雨の時期と重なって、体調はサイテーだ。

梅雨の時期は、神経痛やリューマチの人たちが調子が悪いのと同じで、家内の病気の場合も毎年この時期は再発=入院をくり返している(2003年の発症以来、6月7月を入院なしに過ごしたことは一度もない)。

多発性硬化症(以後「MS」と略す)ではなくて、視神経脊髄炎(詳しくは突発性再発性横断性視神経脊髄炎)だということがわかって以来、治療はステロイドと免疫吸着のみとなっている。今後は2ヶ月おきくらいに免疫吸着するしかない(と私は思っている)。

3月26日来の家内の症状と治療は以下の通り。

●3月5日~29日(入院)
7日~9日
パルス(ステロイドパルス)

20日~24日
免疫吸着

3月27日
免疫抑制剤ネオラール投与開始。

29日退院

4月20日
ネオラール投与中止(主として吐き気、下痢などの胃腸障害により)。結局、家内の場合、イムラン、プログラフ、ネオラールとすべて試したが、免疫抑制剤が効かない=副作用が大きすぎる。

6月1日 再発

6月2日~4日
外来パルス(ステロイドパルス)

●6月5日入院(5日~13日)
6月7日~11日(
免疫吸着1クール

6月13日退院

6月28日再発気味
6月29日
外来パルス(ステロイドパルス)

ほとんど自立歩行ができないまま現在に至る。

自立歩行はできたとしても足の上に身体が乗っているという感じ。足の感覚・神経が深部に後退してしまっているため、足を動かしている、という感じではない。足で歩くというよりは、目で歩いているという感じか。

ところが、そんな折、大新聞社の「医療情報部」記者が、私に突然のメール。「取材したい」と言う。例の多発性硬化症と視神経脊髄炎の記事(http://www.ashida.info/blog/2007/02/msnmo.html)に関心を持ったとのこと。

厚労省や大学の研究者達との取材は一通り終えて、実際にベータフェロンで症状が増悪した患者の側の取材をしたいとのこと。

この道では超有名な先生から、私の記事を紹介されたと言う(「これを読めばよくわかるよ」と)。私も知っている有名な先生だが、そんな人まで読んでいるのかと、恥ずかしくなった(専門外だから間違っていることも書いているのだろうなぁ…)。

お会いして十二分にお話ししておいたが(先週末わざわざ世田谷の自宅まで2人の記者の方が来られたが)、今回、この記者達に話したことも含めて、もう一度整理しておく。

多発性硬化症(あるいは日本型視神経型多発性硬化症)と視神経脊髄炎との違いは、(私がこれまでに参照したいくつかの論文を粗雑にまとめると)以下の7点。

1)視神経や脊髄に局所的に炎症が起こる(古典的多発性硬化症のように脳内や視神経、脊髄に遍在しない)。

2)炎症箇所が長大な場合が多い。脊髄炎の場合、長軸方向に3椎体以上にわたる病変がある。古典的多発性硬化症の場合、基本的に脊髄の腫脹はない。長軸方向の長さも2椎体未満(視神経炎と脊髄炎のみを呈する場合でも、脊髄病変が短い場合はNMO-IgGは陰性である場合が多い)。 。

3)一回の再発での症状の悪化が著しい。重度障害が多い。高度の視力障害(失明)、高度の下肢障害が起こる。

4)女性が圧倒的に多い。

5)古典的多発性硬化症の発症年齢に比べて10年くらい発症年齢が高い。高年齢者が多い。

6)インターフェロンベータが症状を悪化させる場合がある。

7)NMO-IgG(抗アクアポリン4抗体)が陽性。

 最後の7点目の検査が最近日本のいくつかの病院で行われるようになって、長い間、MSの「亜系」と思われてきたNMO病(=DEVIC病)、日本で多い視神経脊髄型MS(=日本型MS)が少なくとも古典的MSではない、と判断できることが明らかになってきた。

この判断が重要なのは、少なくとも古典的MSとは治療法が異なるということ。インターフェロンのような免疫調節作用のある薬は効かないばかりではなく、むしろ症状を悪化させる場合が多く、免疫抑制型(ステロイドやアザチオプリンなど)や血液浄化法(血液吸着、血漿交換)を処方する必要があるということ。

 ステロイドも血液浄化法も、予防効果はないとされてきたが、NMO-IgG(抗アクアポリン-4抗体)が陽性の“MS”では、予防的にも意味があることがわかってきた。

アクアポリン(AQP)は、全身に分布しており、細胞間の水移動には欠かせない分子。様々な病気と関係しており、現在までには3つの疾患への関与が報告されている。

AQP1は腎性尿崩症、AQP0は先天性白内障、AQP5はシェーグレン症候群に伴うドライアイなどである。中枢神経において存在するAQP4は、脳虚血後の脳浮腫に関与しているとも言われ、脳浮腫の治療に用いられるステロイドホルモンがAQP4の発現を押さえることも報告されている。

AQP4が、NMO-IgGの標的抗原であったことには、二つの意味がある。

一つは、水チャンネルに対する自己抗体により発症する疾患があるということ。これまで水チャンネルに対する自己抗体により発症する疾患は報告がなかった。もう一つは、NMO-IgGの標的が、ミエリンやオリゴデンドロサイト由来の蛋白ではなかったこと。

AQP4は、アストロサイトのfoot process膜(astrocyte foot process)に豊富に存在しており、アストロサイトを主座とした免疫異常が中枢神経脱随性疾患を引き起こす可能性があるということ。

そういった意味で、今回のNMO-IgGの標的抗原が発見されたことは、治療法の大きな転回となる。特に細胞性免疫ではなく(MSは脳脊髄炎モデル動物の研究から細胞免疫優位な疾患と考えられてきたが)、液性免疫に関与する治療法(血液浄化法など)の開発が課題。

これまで、MSの有力なマーカーは、髄液のオリゴクローナリバンドやIgGインデックスが中心だったが、アメリカのLennonたち(メイヨー・クリニック)によって、視神経脊髄型MS(アメリカではDEVIC病)の患者の73%の血清中に抗AQP4抗体(=NMO-IgG)が陽性であることが発見された。これが2004年。要するにMSとNMO(視神経脊髄炎)とが区別されるようになったのが、このLennonたちの2004年の発見だったのである。

日本では、この発見の認識と重視が遅れた。日本ではこの時期が細胞性免疫に関わる免疫バランス型治療薬ベータフェロンの認可と重なったために余計に遅れたのである。「MSで唯一エビデンスがある」とされているベータフェロンを2004年以降も無反省に使っていた。

ベータフェロンを打って悪化する事例が多数あったにもかかわらず、「これを打たなければ、もっと悪くなったかもしれない」という医師は2004年以降もたくさんいたのである。

アクアポリン抗体検査はたしかに日本では昨年来の動きだが(未だにこの抗体検査を受けていない、受けさせない医師がいるのは異常としか思えない)、NMO症状として私が挙げた1)~6)までの症状があれば、視神経脊髄型MSとは別のNMOの疑いをかけてもよかった。特にベータフェロン治療の可否という点ではNMOを意識するかしないかで医師の態度は180度異なる。日本の免疫学は遅れているとしかいいようがない。

では日本で「MS患者」とされている人たちの内、NMOはどれくらいいるのか。昨年の中島一郎(東北大学)の論文では、「当院外来通院中の35例のMS患者(視神経脊髄型19例、脊髄型MS3例、通常型MS13例)」の内、「14例でNMO-IgGが陽性であった」。「視神経脊髄型での陽性頻度は63%であった」と報告されている(「神経研究の進歩」Vol.50 No.4 Aug.2006)。無視できないかなりの数の患者がMSではなくて、NMO(視神経脊髄炎)なのである。多くのMS患者が間違った治療を受け続けてきているということだ。

昨年の12月あたりから、厚労省が重い腰を動かし始めた。“MS”患者に対するベータフェロン投与に関して日本シェーリング社=バイエル社に対して、投与の注意書きの指導を行うかどうかということ(ちょうどタミフル騒動のようなものだ)。

さすがに、この動きの中で、バイエル社も先月6月医療関係者に対して、ベータフェロン投与は“MS”症状を増悪させる場合があるということを文書の形で公開しはじめた(何度読んでも何が書いてあるかさっぱりわからない文書だが)。同じ月にバイエル社は、ベータフェロンは効果があるという記事を“大衆向き”には発表している(http://byl.bayer.co.jp/scripts/pages/jp/press_release/press_detail/?file_path=2007%2Fre20070604.html)。嗚呼、製薬会社。しかし、ベータフェロンの増悪例に関しては、今年中には、正式に処方上の注意として末端の医療機関にまで周知徹底されるはず。

日本では、特に東大系の神経内科医たちは、ベータフェロンを全く認めていなかった。医学界でも個々の医師達に直接あって話を聞けば意見は二分される。しかし日本シェーリング社=バイエル社も大きな製薬会社。論文の場(=公開の場)では、そんなことは言えない。

最近、続々と発表されつつあるMSとNMO関係の論文も、ベータフェロン投与に可否に関しては中途半端なものが多い。医師=研究者たちの研究を助成している製薬会社の“監視”があるからである。ミクシィ(MIXI)のMSコミュニティでさえそんな気配がある。

そうなると厚労省の薬事班が動くしかない。その厚労省がベータフェロン投与の危険性に関してやっと動き始めた(これはまだ明らかにはなっていないが私が得た最新のニュース)。ありがたいことだ(もはや私の家内には幾分か遅すぎるニュースだが…)。

(Version 2.0)

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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感想欄

日本のMS治療の先端を行く大学の神経内科の先生から先ほど深夜・突然のメールを頂きました。びっくりしました。

個人的なもの以上の内容を含んでいるので、是非紹介したいと思います。所属の大学も名前も実名で記されていますが、伏せておきます。


●いつもブログを拝見させていただいております。

奥様の容体が気になっておりました。いかがでしょうか。

先生は、非常に詳細に専門的な内容を良く勉強され解りやすくブログに表現されており、非常に感心しておりました。

我々は日本でいち早くNMO-IgGの存在を知り、NMOが液性因子による疾患であることからベタフェロン(液性免疫を活性化する可能性がある)の使用は慎重を要することを訴えてまいりました。

しかし、日本でのベタフェロン治験の結果、視神経脊髄型MSで有効性があるとの結果が出たことより一層議論は白熱しました。

NMOは今や標的となる細胞も異なる全く別の疾患と認識せざるを得ない病気であり、MSとして治療することには限界があります。

抗体の除去としては血漿交換、慢性期は低用量プレドニン内服(徐々に漸減し10−20mgで維持)と免疫抑制剤が効果的で、当科外来のNMO患者はそれらの方法で非常に良いコントロールができています。

また現在抗体を産生するB細胞に対するモノクローナル抗体(リツキシマブ)がインターフェロンと同等以上の効果を認め欧米で実用化されつつあります。

日本ではリンフォーマの治療薬として使われており、倫理的問題がクリアできれば使用できるかもしれません。何か奥様の容体を改善できるものがあればと願ってやみません。少しでもお役にたてれば幸いです。

ブログというのは、すごい情報発信能力があるものだと改めて感じました。

今後も読ませていただきます。

どうぞお大事になさってください。

(2007/7/16/01:53)

投稿者 ashida : 2007年07月16日 04:10
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