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 校長の仕事(13) ― わが学園の〈授業評価〉大公開。 2004年05月20日

この4月、5月から、私は、新1年生の授業を各科すべて一コマ(90分)だけ担当させてもらった。建築科、建築工学科、インテリア科、インターネットプログラミング科、WEBデザイン科の5科だ。5月18日で、最後の建築科が終わり、私の新1年生行脚も終わった。これは今年から各科長に特にそうさせてもらった。1年生の各クラスの雰囲気を知っておいた方がいいと思ったからだ。

講義内容は、情報リテラシの一部。特にテッドネルソンが「ハイパーテキスト」論を70年代に打ち上げた頃の熱気が伝わればいいと思って、その話を中心に講義をすすめた。あとは付録として、ワードとパワーポイントを結ぶ機能である「アウトラインプロセッサ」の使い方を、特にハイパーリンクやKJ法との関係で話してみた。

反応はまちまちだったが、私の授業の「授業評価」はさんざんで、「E評価」、「F評価」、「G評価」にしかならない。

我が学園は、一コマ(=90分)毎に授業評価が定量化・段階化されている。A〜Gまでの8段階評価。Aが最優秀、Gが最低。私の授業はサイテーに近い。学校目標は「B」評価だから、その意味でも目標に遠い。私に日頃からいじめられている各教員や科長から「結構、難しいでしょ」と言われてしまった。

さて、どんなふうにその評価が付くのか、ここでお教えしましょう(本当は我が学園だけのノウハウなのですが)。

一つは出席率(欠席率)。出席率が高いからいい授業だ、というふうには一概に言えませんが、出席が悪いのに、いい授業だとは決して言えません。ほとんど“義務”教育化されている高校までの授業評価では、出席率は意味がないのかもしれませんが、大学や専門学校ではずさんな授業をやると出席率にすぐに反映します。出席率がよくないのは、学生に原因があるのではなくて、その学校の授業に問題があるのです。

「授業評価」というと何やら難しそうですが、出席率は「よい授業」の絶対的な必要条件です。

定時に出席を取ること(そのために、わが教員たちはすべての授業で少なくとも開始定時5分前に教室に入室しています)、開始定時後20分以上経過してからの入室はすべて欠席扱いすること、このルールをすべての授業で厳守した上で(すべての教員が、すべての授業で出席チェックをこのルール通り実行しているかどうかは「学生アンケート」によって年に2回全学調査しています)、出欠指標を以下のように4段階化しています。

●欠席率が

1)在籍比5%以上の場合は、マイナス1点。

2)在籍比10%以上の場合は、マイナス2点。

3)在籍比15%以上の場合は、マイナス3点。

4)在籍比20%以上の場合は、マイナス4点。

となります。

次には、不合格者率。わが学園のすべての授業では、1授業時間(=90分)毎、教えたいことを教え得たのかを確認するために小テスト(われわれは「授業カルテ」と呼んでいますが)を行っていますが、その小テストで59点以下を取った学生の率を、授業評価の1指標としています。小テストは、10問以上(ほとんどは10問です)、100点満点で採点しています。

●カルテ不合格率(59点以下率)が

5)受験者比5%未満の場合は、マイナス1点。

6)受験者比10%未満の場合は、マイナス2点。

7)受験者比10%以上の場合は、マイナス3点。

三番目には、カルテ(小テスト)の点数分散。カルテ不合格者(小テスト不合格者)を指標にした場合、そのカルテの〈問題〉としての精度が問われねばなりません。易しすぎる問題を作って、「不合格者なし」=「授業は成功した」と安心しているわけにはいかないからです。したがって、カルテを評価指標にするのなら、そのカルテの精度自身を同時に評価する(=テストをテストする)必要があります。易しすぎるのもよくないし、一つの点数帯に固まるのもいけない。低いところ(60点台やそれ以下)に固まるのも高いところ(90点台)に固まるのも良くない。それを以下のように指標化しました。

●カルテ(小テスト)の点数分布について

8)60点台の学生が受験者数の20%以上を超えた場合、マイナス1点

9)カルテの平均点が85点以上、あるいは70点以下である場合、マイナス1点

10)カルテ点数の最低点と最高点との乖離率(最低点数÷最高点数)が、ワースト10%の学生が取った最低点を除いて、75%以上である場合、マイナス1点

8番の指標は、不合格者はいないにせよ、潜在的に不合格者を抱えている授業だったという反省から。9番目の指標は、問題全体が簡単すぎた(85点以上)、あるいは難しすぎたか教え損なった(70点以下)という反省から。10番目の指標は、一つの点数帯に学生の点数が固まりすぎて、テスト問題自体が平板化してしまったという反省から指標化されています。

最後の指標は、教員自己アンケートになります。

以下の10問アンケートを毎回90分授業が終わる毎に取っています。

?「授業シート」類は自分で作りましたか? 更新しましたか?

?「授業シート」類の内容はコマシラバスと一致していますか?

?「授業カルテ」の内容は、コマシラバス目標の達成度を問うために適切なものだと思いますか?

?「今日の授業」シート通りの授業が実際にできたと思いますか?

?カルテ点数の出方は妥当なものだと思いますか?

?授業目標(コマ目標)は達成できたと思いますか?

?定時開始前に入室して、資料の机上配布、教材準備、出欠チェックを行い、定時開始後1分以内に実質的な授業開始ができましたか?

?定時開始直後、授業シートを参照しながらの充分な(少なくとも5分以上の)「授業概観」を行いましたか?

?進捗管理のための学生の座席側への回り込みや実習巡回が充分にできましたか?

?今日の授業に入るために、科長との打ち合わせを行いましたか?

※「授業シート」類とは、「今日の授業シート」「授業カルテ」「(カルテの)模範解答」というA4版シート各1枚からなるシートのことです。「今日の授業」シートは、その90分で何を学ぶべきかを10の項目に分節して開示した担当教員の自作シート。いわば授業の目次、羅針盤(学生、教員共々の)とでも言うべきもの。

 すべての教員は、この自作したシートを使って授業の冒頭5分から10分の間で「授業概観」を行ってから授業に入ります。

 その「今日の授業」シートの10項目に沿って、10問で構成されているのが先に触れた「授業カルテ」。実行された授業内容について、授業の最後5分から10分の間で理解度を測定する小テストを実施しています。それが「授業カルテ」です。最後にその「模範解答」(小解説付き)を配布。その場で採点して(学生同士の交換採点の場合が多い)90分の授業が終わる。各教員は各授業毎(90分毎)に、このシートを用意し、学生一人一人に配布して授業を行っています。

※「コマシラバス」とは、90分単位のシラバスのこと。一科目の全体目標を明示した「シラバス」に加え、それを一コマ単位にどう展開するのかを明示したものが「コマシラバス」。

 先の「授業シート」類は、担当教員が「コマシラバス」に基づき、「コマシラバス」を解釈して作っているもの。「コマシラバス」(およびシラバス)自体は関係専門教員が集まって、学園の専門性の総力を結集して作り上げたもの。担当教員を超えた「カリキュラムリーダー」という専門管理者がそれらの全体(シラバス+コマシラバス=カリキュラムの全体)を統括している。

●これらの教員自己アンケートについて

11)一問10点として、80点以下になった場合には、マイナス1点。

以上の11の項目に基づいて、最悪値がマイナス11点。最高値がマイナス値なし。これを以下のようにA〜Gに段階化した。

A評価=マイナス点なし

B評価=マイナス1点

C評価=マイナス2点

D評価=マイナス3点

E評価=マイナス4点

F評価=マイナス5点

G評価=マイナス6点以上

A〜G評価は、一コマ毎の段階化にはいいが、コマを通観したり(つまりコマの集合体である「科目」評価を行ったり)、科目を複数担当している教員評価を行ったり、そういった教員を複数有している科のAG評価を通観したりするのには不都合であるため、マイナス点数を逆転させて、

逆に

A評価=7点

B評価=6点

C評価=5点

D評価=4点

E評価=3点

F評価=2点

G評価=1点

とし、たとえば、週6コマ担当している教員が、1コマはA評価(7点)、2コマがB評価(6点)、残り3コマがC評価(5点)である場合、総点数は34点。34点÷6コマ=5.66。通観した場合の、この小数性を処理するために、

A評価=7〜6.5

B評価=6.5(未満)〜5.5

C評価=5.5(未満)〜4.5

D評価=4.5(未満)〜3.5

E評価=3.5(未満)〜2.5

F評価=2.5(未満)〜1.5

G評価=1.5(未満)〜1

というふうに段階化した。上記の例で言えば、6コマ=5.66点の平均AG評価はC評価となる。このように教育評価の最小単位である授業コマを数値化しておくと、科目評価、教員評価、科評価、学校評価(わが学園は中野校、国立校、世田谷校、品川校の4校を有している)のすべてがAG評価で表現できる。科目評価、教員評価、科評価、学校評価がAG段階化できるということは、すべての科目、すべての教員、すべての科、すべての学校で、目標設定とその達成評価の(前進と改革の)全体が明確化するということです。

さて、「AG評価がいい」ということは、従って「出席率がよい」「小テストの不合格者がいなかった(授業目標が達成できた)」「授業目標の達成度を問う小テストの精度も高かった(信頼して良い)」という三つの内容を評価しているわけです。

そうやって、私の授業評価は、たとえば、月曜日の建築科の授業(在籍学生数26名)では、

●欠席者が2名で、欠席率5%以上にひっかかり、マイナス1点

●カルテ不合格者が7名で、不合格者率20%以上にひっかかり、マイナス3点

●カルテ点数分布が、59点以下7名、60点台12名、70点台4名、80点台1名となり、「60点台が20%以上である場合」という第8指標と「カルテの平均点が85点以上、あるいは70点以下である場合」という第9指標にひっかかり、マイナス2点。

●教員自己アンケートの3項目目(カルテ妥当性)、6項目目(目標達成)、9項目目(巡回)、10項目目(科長連携)に満足していないため、マイナス1点。

●総計7ポイントのマイナス。

●したがって、AG評価は「G」評価というサイテーの評価になってしまった。

要するに、少し難しすぎたということか。あるいは難しい題材を扱っているにもかかわらず、教材準備が不足していたということか。反省しきりだ。

そこで担当科長には、こんな授業評価コメントをもらった(我が学園では、その日の授業評価結果について、科長が必ず教務日報を付けることになっており、それらはすべてその日の内にノーツの伝言板にUPされることになっている)。以下はその一部の抜粋。

「今日(5月18日)は、芦田校長の特別講義以外は、AG評価は、全て「A」だった。芦田校長だけがサイテーの「G」評価。昨年の秋以来、建築科でAG評価を始めて、初めての“快挙”だ。

校長の授業はAクラス「F」、Bクラス「G」の結果となった。この結果は以下の要因によるものと考えられる。

 

?授業方法について

  私が授業に短い間だが入らせていただき見せていただいた印象では、授業巡回と授業概観に問題を感じた。概観の途中から授業に入り込んでしまい、今日の授業の目標が示されていなかったため(これは、杉本科長が途中から入室したため。「概観」は授業開始直後終えています:芦田の悲しい弁解)、学生の意識が散漫になってしまっていた。また、途中座って授業されていた時間帯もあり、ご注意いただきたいと思った。

 

?授業内容について

  授業はいつ聞いても内容の深いもので、科長としては満足できる。

  しかし、ハイパーリンクの話しと、ワード・パワーポイントでの文章のまとめ方との二つの内容が量的に多すぎる印象を受け、できれば、2回に分けての講義としていただきたかった。

 

?カルテについて

  カルテの出題方法が記述式であるため、客観的な解答を示すことが難しく、自己採点方式では個人差が出ている。答案を見ていると、間違っているのに丸がついているものもあれば、あっていそうなのに×にしている学生もあった。カルテの出題方法を検討すれば、かなりの改善が見込める。

  また、カルテの内容が難しく、どこでその話しを聞いたのか、今日の授業シートで確認する場面が見られた。例えば、授業シートで「思考のメディアとしてのワープロ」と「テッドネルソンの言う思考の非連続性」の話は、凡庸な学生たちには全く関係がないように見えたであろうことが想像できる。この点を次回の反省点にしたい」(建築科・杉本)

と、こんなふうなおしかりをノーツ上で受けた次第。こんなやりとりは、我が学園では日常茶飯事。まだ杉本科長も私の行っている日常的な授業評価からすれば遠慮している方だ。

私は、次の朝の朝礼で、以下のような弁解じみたコメントを(まじめに)しておいた。以下はほとんどそのまましゃべったとおりの内容。

「私がこの学園に非常勤講師で来たのが20年前。そのころ、よくこんなことを嘆く教員・科長・事務職がいた。『外の講師(非常勤)は勝手に授業をやって、勝手に試験やって、勝手にたくさんの不合格者を出して、気軽だよね。後で苦労するのは俺たちばかり』と。これは私が大学や短大で教えているときも事情は同じだった。ある短大では『(不合格者の処置について)なんとかなりませんかね』とお願いの電話を事務方がかけてくる場合もあった。

しかしゲスト講師の試験というのは、それが世間の常識(世間や社会の要求レベル)を表現していると考えた方がよい。それに比べて、われわれの日常行っている授業や試験は、“内部の都合”に充ち満ちていて、学内で満点取っていても社会的なスタンダードとしては、70点以下だったりもする。これでは、いつまで経っても社会的な信任は得られない。

学生の現状のレベルに合わせるのが教育だと勘違いしている教員が多すぎる。難しい試験をやった場合に、もう少し答えやすい試験を行うことが“改善”だと思っている教員が多すぎる。それは改善ではない。むしろ、難しい問題に答えることができる授業を(同じ時間内で)やるとすれば、どうすればよいのか。この問いに解答を出すことが授業改善の本道でなくてはならない。どんな“外部”の先生が来ても、どんな“試験”が行われても、それに耐えうる学生を作ることが校長、科長をはじめとした学内、科内の“常勤”の仕事でなければならない。常勤の教員は日常にまみれて割り算ばかりの評価をやっている。

非常勤のゲスト講師は突然かけ算の評価をやり始める(「割り算」、「かけ算」のここでの意味については『芦田の毎日』286番(http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=286)を参照のこと)。その意味では非常勤のゲスト講師は科の学生が外部の水準(〈水準〉というのは〈外部〉ということと同じであるが)に飛躍するチャンスでもある。

それをよくよく心得ておいてほしい。落第点が出ないようなこざかしい教育スキルなどに習熟することが教員としての腕前を上げたことにはならないことをよくよく心得ておいてほしい」。

 

と、締めくくっておいた。「G」評価を出しておいて、その翌日にこんな話をするのも気が引けたが、しかしこんな時にこそすべき話でもあると思いながらの朝礼だった。今回の授業経験は私にすれば、いろいろな意味で貴重な経験だった。

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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