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 社会とはかけ離れた『哲学』の存在が、著者を実社会と強く接続させているように見える ― 『努力する人間になってはいけない ― 学校と仕事と社会の新人論』書評 2013年09月24日

また力作書評を頂きました。「黒夜行」さんという方の書評ブログです。以下、全文掲載します。

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本書は、なかなか一言では説明できないほど多様な文章が詰め込まれた、社会人を応援する書でもあり、学生を鼓舞する書でもあり、哲学的思考に浸れる書でもあり、教育界に一石を投じる書でもあります。

タイトルは非常にインパクトがありますが、別に努力を否定する作品ではありません。

本書は、先程も書いたように、とにかくあらゆる種類の文章が整理されつめ込まれているので、とてもそのすべてに触れるわけにはいきません。これだけ玉石混交なのは(文体や考え方がではなく、触れられているジャンルがということ)、本書の元になったのが著者のブログだからでしょうか。非常に難しい(と僕には思える)哲学的な話もあれば、電車の中で出会ったとある少年との邂逅の話なんてのもあったりします。触れられているジャンルは多岐に渡りますが、著者のスタンスは常に一貫している(ように僕には思える)ので、作品全体としては統一感を感じさせる作品でもあります。

さて、そんなわけで僕は、本書の内容の内、著者が学生たちに向けた言葉とツイッター論に関してのみ取り上げようと思います。

「著者が学生たちに向けた言葉」というのは、著者が専門学校の校長であった時代に、入学式や卒業式で生徒に向けて語った言葉のことです。

これが本当に素晴らしいものばかりでした。

本書の第1章から第3章(およそ100頁ほど)がそれに当たるわけですが、ここの部分は本当に多くの人に読んで欲しいと思いました。「これから学ぶ者」という広い意味での「学生」にも、「学ぶ者の養育者」である「親」にも、あるいは「学びを提供する者」である「教師・教授」にも、「学んだ者を受け入れる場」である「企業」にも、「社会という場で学んでいる者」である「社会人」にも、とにかくあらゆる人に読んで欲しいなと思いました。

僕の個人的な提案では、この第1章~第3章だけを、独立して新書に編集しなおして(ちょっと分量が足りないから、何か他の文章を付け足しつつ)売り出したら、メチャクチャ売れるような気がします。本書は本書として存在させつつ、本書の内容をジャンル別に再編成しなおし、それをターゲットに合わせた判型や値段設定で出し直すというのは結構アリなのではないかと思います。

何故そんな風に思うのかというと、本書は索引まで込で500頁近くの分量があり、値段も2940円と結構な高さだからです。内容は非常に良いと思いますが、この条件で広い層に届かせるのはなかなか難しいかもしれない、と思いもします。そんなわけで、先の「新書に再編集」というのを思いつきました。

さてでは、著者が学生たちにどんな言葉を与えてきたのか。引用していこうと思います。


〈努力する人間は有害〉

「三番目の人材(=がんばり屋で目標を達成できない人)は、なぜ目標を達成できないのでしょうか。それは自分の仕事の仕方を変えないからです。仕事の仕方を変えて目標を達成しようとはせずに、時間をさらにかけて達成しようとする。これが努力をする人が目標を達成できない理由です」

「『考えろ』の反対語は、しがたって『行動しろ』ではありません。IBMの言うTHINKとは、『考えてばかりいないで行動しろ、まずは行動だ』と批判される場合の理論的な思考のことを言っているのではなくて、平たく言えば、工夫をしろ、やり方を変えろ、ということです」


〈時間がないと言うな〉

「そして、『時間がない』というだけではなく、『時間(とお金)があれば、もう少しいい仕事ができた』とまで言うようになります。

これは間違っています。こんなことを言ってはいけない。今日のこの日をもってわが卒業生たちは『時間がない』と言わないことを約束してください。

どんなプロの人間でもいつも時間がないこととお金がないこととの中で仕事をしています。六割、七割の満足度で仕事を終えています。悔いが残ることの連続です。プロの仕事というのは実は悔いの残る、不十分な仕事の連続なのです。

結局、六割、七割でも外部に通用するようなパワー(協力なパワー)を有しているというのが、仕事をするということの実際だということです」。


〈単純作業などない〉

「単純な仕事を単純にしかこなせない人は、いつまで経っても単純な仕事しか与えられません。だから、『コピー上級』の人になれば、会社は、こんな人にコピーを取らせ続けるのは失礼だし、もったいないと逆に思い始めます。そのようにして、コピー上級の人は”出世”していくわけです」

『仕事は、自分からすすんでするものだという人がいますが、それは間違い。会社は、『顧客」を相手に仕事をします。だからいつでも真剣勝負です。だから会社は、いつでも真剣勝負のできる人を採用後の会社内であっても探し続けています。その結果、仕事は『与えられる」のです。

だから『与えられる』というのは、それ自体〈評価〉なのです。評価の結果なのです。仕事が与えられるということが最大の栄誉であって、その与えられた仕事に期待以上の成果を出して答える。それが仕事をするということの意味です」

「職業人として『社会人』になるということは、最初に〈選択〉や〈好き嫌い〉があるのではなくて、他人に仕事を頼まれた、任されたという〈信用〉や〈期待〉です。この〈信用〉〈期待〉というのは、その仕事を頼んだ人が期待したように仕事をするだけではなかなか得られるものではありません。そんな仕事の仕方があったのか、と頼んだ人が少し驚くような仕事をすることこそが〈信用〉というものに繋がっていきます。仕事を頼んだ人が、『悪かったね、こんな仕事をさせちゃって』というくらいの仕事をすることが、〈信用〉を生んでいきます。期待とは、いつでも期待以上のことなのです」

「単純な仕事を単純にしか考えない人は、単純な仕事しか回ってこないのです。仕事に高級な仕事も低級な仕事もありません。コピー取りであっても、その〈信用〉に応えることこそが仕事というものです。そういった些細ではあるけれど、一つ一つの信用に応えていくことが、みなさんが大きな仕事をするようになるきっかけになっていくのです」


〈お客は遠くにいる〉

「自分の好きな人にだけ商品を売っている限りは、マーケットは広がりはしない。会ったこともない、意見も会わない人に喜んで商品を買ってもらうようになって初めてマーケットは広がり、商品やサービスは売れる。その意味で、社内マーケットはその前哨戦です。自分以外のすべての人をお客様だと思いなさい。まず目の前の同僚や先輩に評価される人材になりなさい」

「つまり、あなたがお店で出くわすお客様の以前に、会社は多くのお金をかけており、ウィンドウの外に立つ一人の通行人にもすでに多くのお金が支払われている。一人のお客様を店の内部で相手にするということは、本当はごく一部の出来事であって、そのお客様を獲得するのに、多くの逃げ去ったウィンドウの外のお客様がいる」

「ただ単に、目の前のお客様に喜んでもらえるのではなくて、一年間のさまざまな誘惑に、あたな方の技術力が勝てるのか、今度もまたあの店で、あのお兄さんに修理してもらおう、自分の車を預けよう、少しくらい高くてもいいや、という気になってもらえるか、そこが技術者としてあなた方が問われている本来の技術力です」


〈顧客満足とは?〉

「みなさんは、卒業する今日まで〈学生〉でした。だからみなさんの評価の基準は、『正しいか、間違っているか』だったと思います。(中略)ところが、『お客様を大切にしよう』というのは、正しい、正しくないという問題ではありません。正しいことをやっていても、お客様が認めないことがあります。そんなことはいくらでもあります」

「そういう人たち(=買いたいもの以外の出費で大半の稼ぎをなくしている人)に、それでもお金を出させて、『顧客にする』。それがあなたたちの四月からの課題になります。そういったなけなし状態の家族持ちに、車を買わせたり、家を建てさせたりする仕事があなたたちの仕事になります。そのときに自らが、自由になる10万円の贅沢(=実家暮らし)をしているようでは『顧客の要求』に応えることなどできません」


〈勉強するということ〉

「あなた方は勉強すべく親に依存しているのであって、親もまた勉強させるべく投資しているのですから、親に直接お金(小銭)を返すことの意味などないのです。まして授業中寝ているなんてことが、親にとっては問題外のことです。大切なことは、そういった投資や信用に報いることであって、それを跳ね返すことではありません」

「学生を『顧客』と見なす学校は危うい学校です。『勉強しなさい』というのはまだ勝手に自分で考えてはいけませんということを意味しています。20歳前後のあなたたちに一番うるさいのは銀行でも親でもなくまさに〈学校〉であるべきなのです」

「学生時代と社会人になってからの勉強の一番の違いは、〈必要〉かどうかということが最大の目安になります。〈社会人〉になると、毎日毎日『必要』な勉強に迫られます。勉強しないと『上司』からは怒られるし、『仲間』にも迷惑をかけるし、『お客様』にも満足してもらえない、そんな『必要』から勉強をすることが日常的になります」

「いい歳して〈書物〉の中に、何らかの教えを見出すのではなく、日々の仕事や生活それ自体の中に課題を見出す純粋な能力が備わっているからです。『もっと勉強をしておけばよかった』は、したがって、後悔どころか、むしろ諸課題(と諸解決)からの逃亡を意味しているにすぎません」

「本をまともに読むことができるのは学生時代だけです。効率主義で社会的に分業された社会人は雑誌か新聞かベストセラーしか読めない。本を読むということは、もっとも〈効率〉と反することだからです。だから、書物の〈心〉なんてわからない。じっくり書物が読めるときは、学生時代しかありません。卒業するまでに分厚い専門書を10冊は〈心〉まで読み込んでみてください。それだけで一生死ぬまで〈社会人〉に勝てます」


〈就活について〉

「あなたたちの先輩は、たとえ専門学校生の総合職採用がない企業であっても、自分で学んだ内容をPowerpointにスライド化し、『ぜひ一度会って、プレゼンを見て欲しい、プログラムを見て欲しい』と先生と共に懇願し、10月採用の企業への道を切り開こうとしてきました。こんなことをやっているのは、全国の専門学校で、私たちの専門学校だけです」

「しかし『受験勉強』というのは決して悪いものではありません。一流の大学へ入学するには、計画力や実行力、忍耐やガマン、継続性、自己の欠点や強みの認識、欠点の補正能力など社会人になっても要求される数々の心理モデルが必要になります。また、もう一つ受験勉強の特質があります。それは『遠い』ものへの意識を経験するということです。全国模擬試験や偏差値を通じて、クラスの級友(のライバル)を越えた関係を意識することになります。『遠い』もの、見えないものを制御する意識を受験勉強で初めて経験し、それを乗り越えていくわけです」

「『自分の個性』『自分の特長』などと思っているものは、体外のところ『個性』でも何でもない。高度な二十四時間情報社会に生きるあなたたちの『個性』や『特長』ほどくだらないものはない。携帯メール、ミクシィ、ツイッターによって二十四時間アウトプットばかりしているあなたたちにどんなストックがあるというのか。面接官がそれらの個性について二つ三つと質問するともう何も言うことがなくなるほどの薄っぺらな個性にすぎない。自分の語った言葉や事態さえ、満足に説明できないあなたたちの『個性』『特長』って何?」

「あなたたちのこれまでの勉強は、〈努力〉すれば先が見えるという性格のものだった。つまり〈累積〉がものを言う世界だった。でも、実社会は、〈累積〉では仕事ができない。『予習』や『復習』が効かないのが実社会というもの。いつも〈変化〉を迫られている。だから〈努力〉では就職はできない。就職ができないだけではなく、〈努力〉では〈仕事〉ができない」


〈読書について〉

「“難しい”文章や本を読むのが苦手な人というのは、何が苦手なのだろうか。その理由ははっきりしている。”難しい”本を読めないのは、順追って最初から読んでいこうとするからだ。どの一行にも意味があると思って(もちろん意味はあるのだが)、そしてまた後の行、あるいは後の段落は、最初の行や最初の段落を理解しなければ理解できないと思って、最初からきまじめに読もうとする。そして『こりゃあ、ダメだ』と言って投げ出す。これではどんなに自己研鑚を進めても”難しい”本は読めない」

「本を読める人というのは、すべてがわかる”賢い人”なのではなくて、わからないことを恐れない人のことを言う。わからないところで断念するのではなくて、飛ばして先に進む悠木があるかないか、それが読書の境目。本を読めない人は、わからないところが出てくるとすぐにそれで諦める。誰が読んでもわからないものはわからない、そう思えないのが本を読めない人の特長」

いかがでしょうか?

著者は30歳前半ぐらいまでずっと大学院でハイデガーの研究をしていた人のようです。なんとなくそういう、実社会からかけ離れた研究者というのは、世の中のことから浮きがちなんではないかというイメージがあるけど、著者は全然そうではない。

本書を読む限り、自分が研究してきた哲学を実社会と接続させ、自分なりに咀嚼して言葉にしているように感じる。もちろん、実社会でしてきた様々な経験も著者の血肉になっているのだろうけど、なんとなく、実社会とはかけ離れた『哲学』の存在が、著者を実社会と強く接続させているように見えるので面白い。

さてもう一つのツイッターの方である。

本書の中で著者は、ツイッターは、ミクシィやフェイスブックとは違った、斬新なコミュニティのあり方を提示した、というような話を展開していく。「ツイッター微分論」と章題がつけられており、「ツイッターは〈現在〉を微分し続ける」「ストックがないことが、一般人と専門家の垣根を取り払う」というような議論が展開されます。

僕は、ミクシィもフェイスブックもまともにやってないんだけど、ちょっとやった限り自分には向いてないと思いました。でも、ツイッターだけは、自分ととても相性がいいのですよね。恐らく僕は、著者が主張するような形でツイッターを使っていないと思うのだけど、書かれていることは頷けることが多いなと感じました。

「ツイッターというのは、人の自他にわたる長期の観察や生殺、つまりデータベース主義(ストック主義)をやめようというメディアなわけです」

「ツイッターというメディアが表現しようとしているものは、その意味では反人間的なものです。〈現在〉という状態で微分していくと、賢い人もバカな人もコミュニケーションができるようになってくる。ツイッターは〈人間〉や〈専門性〉を越えているからこそ、交流が活発化するのです。この点が、コミュニケーションを〈人間〉で括るミクシィやフェイスブックとの大きな違いです」

「長文の名手である専門家(知識人)というのは、結論を先送りして出し惜しみしているだけなわけです。長文を書いておけば、バカな人からは絶対に非難を受けない(笑)。バカは長文を読めないし、どこに結論があるかもわからない(笑)。それで最後は著者の年齢はいくつだとかどこの大学を出たかとか、何をやっていた人だとか、何冊本を出している人かなどでごまかしてしまう。最後の著者略歴しか読まない。しかし、そういうやり方で逃げ切れないのがツイッターであって、どんな長い文章を書くのが好きな人も140文字で書かなきゃいけないから、どんなバカでも有名な人の結論を瞬時に見ることができます。結論というものは、いつでも短いし、単純なものです。だから誰でも判断できる」

「フェイスブックが旧態依然なのは、最初から交流の単位が(ストックとしての)〈人間〉だからです。すでに人間が、人間の評価が平均化されている。だからフェイスブックではエライ人はエライ人でしかない。なんたってデフォルトで〈学歴〉を聞いてくるのですから(笑)。〈人間〉は、〈人間〉という長い時間の単位で括ると、逆に多様な交流ができないのです。その人はその人でしかないという再認しかできない。これは〈ソーシャル〉とはいえない。〈ソーシャル〉とは異質な他者との交流のことを言います。ミクシィもフェイスブックも同種の者しか集まらない。厳密にはそれらはソーシャルメディアではないのです」

「ツイッターの微分機能はそれに対して携帯でもないし、電話でもないし、チャットでもない新しい次元を切り開いたわけです。これは内面を現在で微分しているという意味ではすごく内面を強化しているけれども、タイムラインがどんどん内面を解体していきますから、携帯電話やメールのようなきつい感じにはなっていかない」

「ツイッターは過去と未来を忘れることができる究極のメディアなわけです。つまりストックなしでも生きていける希望の原理がツイッターで、バカも頭の良いと言われている人も平等だという意味で、だからみなが面白がっている」

「いま書いているツイートが魅力的でなければ、その人がすごく偉い人であろうとすごく実績を持っていようとバカはバカだというところで、実在的な過去=実績をつぶすだけの十分な威力をツイッターは持っています。みなが興奮しているところはそこです」

「ソーシャルメディアに囲まれた今日では、タレントを含めた少数の著名人以外には体験しなかった他者評価が日常化しています。他者(からの評価)など意識しなかった人たちが、さかんに自分のささいな日常を暴露して(失業中であってさえも、夜中であっても)忙しくしている。忙しくすることによって社会参加しているような気分に浸っている。自分の窮状を棚上げするかのように。(中略)働いても働いても楽にならない忙しい窮状ではなくて、働かなくても、何もしていなくても忙しい窮状が今日の窮状の本質です。誰からも期待されていない無名(無力)の人が無名のままで忙しい社会、これがソーシャルメディアが招来する社会です。一言で言うと、忙しい退屈に充ちた社会。大震災も大津波も原発のメルトダウンも『傘がない』(井上陽水)ことと等価になる社会がソーシャルメディア社会の意味です」


さてというわけで、著者が学生たちに向けた言葉とツイッター論についてだけ本書から様々な引用をしてみました。

正直ここで扱うことが出来た話題は、本書のほんの一部でしかありません。

他にも、教育や哲学など大きな話から、予備校の勧誘マンが家に来た話といったとても身近な話も出てきます。非常に興味深く、面白く読ませる作品でした。哲学の話など、難しくて読み飛ばしたところもありますが、全体的には本書の副題通り、『学校と仕事と社会の新人論』であり、学校と仕事と社会に関わる人(つまりほとんどの人)に読んで欲しい作品です。分量・値段ともになかなかのハードルの高さですが、是非ともチャレンジしてみてください。


芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論」

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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