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 〈シラバス〉はなぜ機能しないのか ― 大綱化運動の経緯と顛末 2011年01月12日

現在、学校教育では「シラバス」ばやりだが、この傾向は、元々は大学の「大綱化」(1991年)にその起源を有している。

カリキュラムや科目設置の自由化が、90年代初頭の「大綱化」から謳われ、その分、大学は、教育内容自身を自ら検証する必要が生じた。

それが詳細なシラバスによる授業内容の公開だったのである。

しかし、このシラバス運動はうまく機能しなかった。80年代後半の中曽根臨調路線に乗っかった個性教育・自主性教育路線が、大綱化によるカリキュラムの自由化の趣旨を、選択制強化へとねじ曲げてしまったからだ。

個性尊重、自主性尊重が、いつのまにか教育内容自体を、学習の対象と言うよりは自己表現の対象にすり替えてしまったのである(この間の経緯はこちら→http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100524/227559/)。

大綱化(カリキュラムの自由化)は、4年間のカリキュラム全体の目標を明確化し、その人材目標から、各科目編成、科目内容を定めなさいというものだったが、それがいつのまにか選択制、コース制、専攻制などの(学生の「主体的」な)「自己表現」カリキュラムに変貌していったのである。

そこでは、シラバスは、科目間連携(縦の専門ヒエラルキー連関、横の科目連携)の教員間検証資料とならずに、もっぱら選択科目登録のための学生サービスに成り下がったのである。

この動きは皮肉なことに、少子化による大学全入の動きと並行していた。いわゆる学生の基礎学力低下(より厳密に言えば、AO入試を始め、実質的に無試験で入学してくる学生の増大)である。

基礎学力低下の学生が1990年代以降拡大する局面での、自己表現主義カリキュラムの導入はたくさんの矛盾を含んでいた。とりあえず3つある。

1) 選択制科目を増やせば増やすほど、基礎学力を補う時間は相対的に縮小する。できないまま入学してくる学生はますますその欠如を埋め合わせる契機を失う。

2) 選択科目を増やせば、その分4年後の人材目標は多様化するわけだから、進捗管理や出口の目標管理はさらに複雑になる。

3) 自己表現主義は、学生の「潜在力」・「可能性」や「個性」や「人間性」に依存するから、教育評価は、結局のところ学生の自己責任になる。学校や教員自身が教育を自己検証する契機を失う。

この3つの深刻な事態から、大学全入現象に、大学教育自体はますます傷口を広げていったのである。2003年以降始まった「特色GP」は10年以上経過してもいまだなお中曽根臨調路線を踏襲していたが、さすがに、2008年以降は「質の高い大学教育推進」へと施策変更され、「特色」は「質」へと転換された。2008年以降は「標準化」元年となった。

結局のところ、「特色」化が、大学教育全体、カリキュラム全体の目標や特色を担うことにならず、2002年の遠山答申以降の傾斜配分を補う予算獲得や広報・募集上のアピールに留まったからである。

そういった大綱化(1991年)以降の「特色ある大学」構想は、施策的には「特色GP」の終焉(2007年)と共に終わった。

特色化は、むしろ教育力強化を先の3つの理由から殺いでしまっていたのである。

2008年に始まる「標準化」は、そして、その年の12月24日に答申される「学士課程教育の構築に向けて」(中教審)で詳細に展開される。この答申はいわば文科省の大綱化路線=「特色」「競争」路線の自己修正文書とも言える。以後キーワードは「多様性と標準性の調和」=「質の高い」改革路線となった。

この「多様性と標準性の調和」は、三つのPolicy、admission Policy、curriculum Policy、 diploma Policyとしてまとめられる。

この三つのPolicyを一言で言うと、「組織的な」取組をしなさいということだ。これは特色路線が、1人の小間使い教授の机上の作文、あるいは街の研修屋やNPOの課外授業的な周辺科目の誇張(一科目か、二科目のシラバスを詳細化しただけのGP申請書のような)によって粉飾されてきたことの文科省の自己反省でもある。

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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