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 西和彦講演会と「知的生産の技術」研究会の神様 2006年10月06日

今日は久しぶりに「知的生産の技術」研究会(http://www.tiken.org/)の会長八木哲郎氏が、夕方の校長室に(突然)お越しになる。八木さんはいつも突然、「芦田さん…」と来られる。これがまた何とも味わいのある八木さんらしい訪問スタイルだ。

突然、と言ったが、11月の4日5日と行われる学園祭(2006年テラフェスティバル)に、久しぶりに元アスキー社長の西和彦氏(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E5%92%8C%E5%BD%A6)を呼ぼうと思って、八木さんにお願いをしているところだった。八木さんにお願いすれば、“市価”の5分の1から10分の1の講演料で、どんな“大物"でも呼ぶことが出来る。

今から30数年前、梅棹忠夫の『知的生産の技術』が岩波新書で出版されたとき、それに感激してわざわざ京都の梅棹の元を訪れ、ぜひこの思想を全国に広めたいとアピールしたのが若き日の八木哲郎だった(「若き」と言っても40歳を超えていたが)。

その時に若き八木哲郎が共鳴した梅棹の思想とは、知識や学ぶことは万人に開かれているというものだった。それが「知的生産の技術」ということであって、知識が生産と技術の対象であるということは、知識が一部の知識人や思想家に特権的に所有されているものではなくて、誰にでもアプローチできる開放的なものだということだった。どんな年齢からでも(まさに彼自身40歳を過ぎた頃だった)、どんな仕事に就いている人でも、知的成長は訓練次第、技術次第。これが八木さんの発見だった。

インターネット時代の今では当たり前のように思えるこの思想は、当時の護教的、前衛的マルクス主義の時代にあって、画期的なものだった。マルクス主義の知識主義は、前衛的なもの、知的エリートによって囲い込まれたものだった。

「知的生産の技術」は左翼的な知的エリート主義に対する反旗だったのである。そうやって“市民派”思想の源流になっていった。そこに八木哲郎は、まっさきに気づいた一人だった。東京を嫌う梅棹(京大の知識人はみんなそうだったが)の動きを補うように、八木は東京で「知的生産の技術」研究会を立ち上げた。

師の今西錦司(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8A%E8%A5%BF%E9%8C%A6%E5%8F%B8)に似て、徒党や覇権主義を嫌う梅棹は、八木の一種の啓蒙主義を嫌ったようだが、それでも梅棹は発足以来「知的生産の技術」研究会の名誉顧問であり続けた。私の推測だが、徒党を嫌う梅棹がそれでも「名誉顧問」であり続けたのは、ひとえに八木哲郎の人格と人徳を認めていたからだと思う。八木からすれば、梅棹にたとえ嫌われても、自分は梅棹の思想を広める覚悟だった、ということだ。生涯かけてもいい思想を見出すというのはそういうことなのだろう。

「知的生産の技術」研究会の発足が1970年(何と70年安保闘争のまっただ中!)。「知的生産の技術」が岩波新書で発刊されたのが1969年だから、八木の慧眼と行動力には驚かされる。「知的生産の技術」研究会の歴史と「知的生産の技術」という書物の歴史とはほとんど同じなのである。今では野田一夫(http://www.nodakazuo.com/)、寺島実郎(http://mitsui.mgssi.com/terashima/profile.html)など錚々たるメンバーを顧問に迎えて全国に9つの支部を持つに至っている。


そんな八木さんのことだから、数多くの人的ネットワークが彼には存在している。このネットワーク自体がまさに「知的生産の技術」だ。私が八木さんと組んで開いた講演会は、私が記録しているだけでも以下の通り。

藤原正彦(お茶の水女子大学教授)「国家の品格」を語る 2006/4/17

大岩元(慶応大学教授) 「IT革命に乗るための自己開発」2002/3/26

寺島実郎(三井物産戦略研究所) 「NPOの歴史的使命」2002/1/24

田近伸和(ルポライター) 「ヒューマノイド(人間型ロボット)の未来」2001/11/27

米本昌平(社会生命科学研究室長) 「ヒトゲノムとは何か ― 先端医療の現在」2001/4/25

月嶋紫乃(劇作家) 「もっとパフォーマンスを」2001/6/56

黒川伊保子(ユニット花音) 「ビジネスプロデューシングをしよう」2001/8/22

西和彦(元アスキー社社長) 「僕が21世紀に目差すもの」2000/3/17

久恒啓一(宮城大学教授) 「宮城大学における知的生産の技術教育の成果」2000/1/29

笠木恵司(ライター) 「ためになる国際資格取得ノウハウ早わかり」1999/11/19

江口雄次郎(国際評論家) 「登山技術はあらゆる技術の源泉」1999/9/21

桝井一仁(国士舘大学教授) 「国際時代の情報部長」1999/8/27

鮫島達郎(TBSブリタニカ総務局部長) 「現代用語事典はこうして作られる」1999/7/23

渋谷正信(渋谷潜水工業社長) 「水底の世界」1999/6/24

大内勲(呉羽化学工業企画部長) 「能力増大の技術」1999/5/20

永田清(玉川大学教授) 「ハーバード流情報術」1999/4/23

岸裕司(習志野市「図書館について勉強する会」会長) 「かろやかで楽しいコミュニティ作り」1999/3/26

山田厚史(朝日新聞編集委員) 「1999年、日本の改革はどこまで進むか」1999/1/23

真田真音(作家) 「マイン! 自ら選び取る道」1998/9/21

守屋洋(作家・翻訳家) 「中国古典が教えるもの」1998/10/21

佐山和夫(ノンフィクション作家) 「野球の向こうに世界が広がる」1998/11/25

望月輝彦(建築家・多摩大教授) 「非線形型人生の設計」1998/12/9

岡田斗司夫(評論家) 「アニメ設定の発想」1997/12/13

久恒啓一(宮城大学教授) 「図解表現の技術」1997/7/12

横山隆壽(電力中央研究所) 「地球環境は大丈夫か」1997/5/17

石黒捷一(実用音楽研究所所長) 「耳学セミナー(音と生命の不思議に迫る)」1997/5/31

工藤由美(ルポライター) 「私の取材学」1997/6/14

豊田愛祥(日本交渉学会理事) 「交渉学」1997/8/23

養老孟司(東京大学教授) 「脳化社会の行方」1997/1/18

村松増美(同時通訳) 「英語世界に溶け込む法」1997/1/18

紀田順一郎(作家) 「ライフワークが世に出るまで」1996/9/26

西和彦(アスキー社取締役) 「インターネット超時間術」1996/9/26

以上だが、今回久しぶりに元アスキーの西和彦氏を呼び、ホリエモン騒動、MIXI、2チャンネル論などを縦横無尽に語ってもらい、これからのIT起業戦略を概観してもらいたい、と思っている。日本に於けるIT起業家の草分けである西さんが、どんな目で現状や将来を洞察しているのか興味津々だ。

そんな感じで、八木さんにお願いしていたのが先週のこと。「話しておきましたから、西さんに連絡しておいてください」とメールがあり、先の趣旨を伝えるメールを西さんに送ってかれこれ1週間経っていた。

すると、「芦田さん…」と校長室に、というのが今日の八木さんとの久しぶりの再会だった。八木さんとは例の藤原正彦の『国家の品格』講演会(http://www.ashida.info/blog/2006/04/post_144.html)の時にも会えなかったから、1年ぶりくらい。でも突然現れるのが八木さんらしい。たぶんいなければいないでいい、という感じか。この割り切りが八木さんの行動力の源泉だ。器量のない私にはとてもできない。

八木さんは、突然私に、「芦田さん、鶴見俊輔(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B6%B4%E8%A6%8B%E4%BF%8A%E8%BC%94)を呼んで講演会を開きましょうよ。鶴見俊輔どうですか」ときた。

「いいですね。この間も、昨年出た鶴見の『埴谷雄高』(講談社)http://www.amazon.co.jp/gp/product/4062127768/sr=1-46/qid=1160059712/ref=sr_1_46/250-9636255-3183452?ie=UTF8&s=books を読みましたが、若い批評家にはとてもかけない埴谷論が良かったですね。でも今の「知的生産の技術」研究会の会員だと鶴見俊輔は少し重いと思いますよ。集まりますか。鶴見俊輔なんて、50歳以上の人じゃないとわからないでしょ」

「ですよね。でも私は最近はもうノウハウ論にうんざりしていて、何か中身がある人の話が聞きたいんですよ。もう先もないし(歳も取ったし)、中身のある大物を呼びたいな、と思ってるんですよ」

「それは、八木さんの転向かな。何となくわかる気もしますが」

「もう人が集まらなくてもいいから(そんなこと心配したくない)、好きな人を呼んで、好きなように話が出来ればいいと思ってます」

「だとしたら、鶴見俊輔と吉本隆明とを対談させましょうよ。それなら人はどっと来るし、面白い話が聞けると思いますよ。彼らは若い頃はそれほど話が合わなかったと思いますが、最近はそうでもないでしょ。先の埴谷雄高論を読んでいてもそう思いました。吉本も最近は何でも受け入れるような感じです。それに10年ほど前に江藤淳が自殺するちょっと前に、吉本隆明と対談したときも(たしか『文藝春秋』)、私は江藤が泣いているんじゃないか、と思うほどに二人が“浸透”しあっている感じがしました。若い頃には考えられなかった江藤と吉本との“浸透”ですが、二人とも美しく歳をとったな、という感じがひしひしと伝わってきました。鶴見と吉本も少し意味は違ってきますが、いい対談になるような気がしますが」。

「吉本ですか。『知的生産の技術』研究会の初期にも吉本ファンがたくさんいて、吉本を呼べ、という要求があったのですが、何となく吉本の文章に私はなじめなかった。鶴見俊輔の文章も決してわかりやすい、という感じではないのですが、吉本にはもっと違和感がありました」

「なるほど。では鶴見を呼ぶとして、しかも人を集める、ということなら、たとえば、鶴見俊輔、天皇を語る、とか鶴見俊輔、国家と天皇を語る、というふうに、今風なテーマを持ってくればどうでしょうか。そうすれば、50人から100人は呼べそうな気がします」

「それはいいアイデアだな。そうしましょうか」

(こういった話がさらに1時間ほど続く:中略)

「芦田さん、でも今日はそんな話をしに来たんじゃないんですよ」

「何ですか」

「来週から1週間ほど、イギリスへ行きます。何か調べてきて欲しいことはないですか」

「イギリス? 何しに?」

「実は中国の奥地を宣教しようとしたジェームズ・ハドソン・テーラーという19世紀イギリスの宣教師のことを知りたくて、彼の生家などを訪れようと思って」

「また何で?」

「私は基督教の信仰に興味があって、テーラーの生涯を知ってはじめてキリスト教信仰の本質がわかったような気がしたんですよ」

「信仰の本質は何なのですか。テイラーにとって」

「彼は中国の奥地に宣教することを友人たちから反対されるのですが、『私が死んだら責任は神にある。宣教する私を神が殺すわけがない』というのです。そうやって彼は中国に向かう。責任は神にある、というのですよ、テイラーは。私は、ここに信仰の本質があると思いました」

「なるほど。一挙に神に投げるのですね」

「そうです。信仰は理屈じゃないんですよ」

「ですね。理屈というのは人間の弱さの表現であって、この弱さは、信仰から人間を遠ざけている最大の壁ですからね。テイラーはその意味で強い人だった、と言えますね」

「そうなんですよ。テイラーはすごいんですよ。彼が育ったイギリスに行きたいと思ったんですよ」(とそう言いながら、八木さんは私に英語+中国語対訳のテイラーの本を私に見せて生家の写真のある頁を開いて見せてくれた)

「一人でですか」

「そうですよ」

「ツアーか何かですか」

「そんなのあるわけないでしょ」

「ですよね。誰か知人が案内してくれるんですか」

「してもらおうと思えば、いないことはないけど、一人で回りますよ」

「それはすごい。八木先生、今年何歳でしたっけ?」

「75歳です」

「いやー参ったな」。私もその年になっても、こんなにすがすがしい知的好奇心を持てるかどうか、急に恥ずかしくなってきた。テイラーは八木さんにとって第2の梅棹忠夫、最後の梅棹忠夫なのかもしれない。

そう思うと、私には極東からやってきたおじいさん、八木さんが一人テイラーの生家のまわりをすごい、すごいと感激の小声とともに何度も行ったり来たりしている風景が浮かんできた。胸にジーンと来る、何とも美しい風景だ。

「くれぐれもお体に気を付けてください」。私は何かを噛みしめたようにそう言うのが精一杯だった。

「大英博物館にも2日間は行こうと思います。芦田さん、何か調べてくることはありますか」

「いやー」。急に言われたって「ロゼッタストーン」か「釈迦の足跡」くらいしか浮かばないから黙ってしまった(大英博物館よりはマルクスの墓が一瞬浮かんだが黙っていた)。というか、そんな「調べてくることありますか」なんて言いながら突然私を訪れること自体が、すごい。自分自身の関心と他人の関心がこんなにも素直に同居している人を私は見たことがない。知的好奇心では私も誰にも負けない自信があるが、いつも八木さんの前では脱帽。

私は八木さんは言葉の本来の意味で世界一の〈知識人〉だと思う。こんな人を死なせてはいけない。私よりも長生きして欲しいと切に願う今日の校長室だった。


追伸:みなさん、11月5日(日)13:00~14:30の西和彦講演会ぜひお越し下さい。無料でご招待します。私宛メール(hironao@ashida.info)でお申し込み下さい。

(Version 3.0)

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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