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 「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(中教審「キャリア教育・職業教育特別部会」)には何が書かれているのか(何が書かれていないのか)? ― 【その2】 2009年09月28日

このレポートは、【その1】(http://www.ashida.info/blog/2009/09/post_378.html#more)に続いている。

28)「中教審経過報告」は、職業教育・キャリア教育の必要性を、四つの観点(「若者の現状と課題」「経済・社会の現状と課題」「学校の現状と課題」「社会全体を通じた現状と課題」)から説いている。

29)「若者の現状と課題」では、

①成熟社会の価値観、生き方の多様化が若者の自立を殺いでいる
②将来性が見えないままの学習が「中退者」の増大を招いている
③家庭や地域の教育力の低下(職業人と身近に接する機会の減少)
④教育の停滞が「職業への移行準備」を阻害している
⑤学校から社会・職業への移行の困難が若者の将来への不信を生んでいる
⑥若者の就業不安、将来不安は天然資源のない人材立国日本にとって「危機的な状況」である
⑦若者は不安を抱えているが、社会は「早期の自立」を求めている
⑧そういった中で社会全体で若者の自立を支援していこうとする動きも出てきている(「子ども・若者育成支援推進法」が成立するなど)
⑨若者を社会的・職業的自立に導くことこそが「教育の重要な目的」という指摘がなされている

30)「経済・社会の現状と課題」では、

①国際競争力の激化、社会構造の変化、少子高齢化の進展、知識・技能の高度化
②学校教育における教育内容と現実社会との乖離
③企業内人材教育の困難(7割を超える企業が「指導人材や時間の不足」をあげている)
④転職層・非正規雇用層の増大が企業内教育のインセンティブを弱体化させている
⑤「実践的な人材育成は企業の役割」という考えはもはや通用しない
⑥しかし「実践的な人材育成」というのは「学校教育」に「即戦力」養成が(産業界から)期待されているわけではなく、「実践性の基盤となる能力」を身に付けさせることが重要
⑦さらには「変化」と「高度化」に対応する生涯学習の必要性に高等教育機関が応えることも課題になっている
⑧少子高齢化による労働力人口の減少が若者の就業への円滑な移行と生涯を通じてのキャリア形成が我が国の持続的発展にとって極めて重要な意味を持つという指摘がなされている。

31)「学校の現状と課題」では、

①学校制度は経済・社会の発展に寄与してきた
②大学全入時代における「著しく多様化した学生・生徒の能力・適性、ニーズ等への対応」が課題
③「学卒人材」の「質が低下」という産業界からの厳しい評価がある(3分の1の企業がそう指摘している)
④学生のニーズに対応した職業教育が十分に提供されていない状況にある(「将来の職業に関連する知識や技能」について4割強の大学生は「これまでの授業経験は役立っていない」と回答し、8割強の大学生は「自分の実力は不十分」と回答している)
⑤「普通科」の卒業生に非正規雇用者が多い
⑥社会人の生涯を通じたキャリア形成に大学院も寄与していない
⑦社会・職業との関連や、実践性の薄さが問題 ―社会・職業との関連を重視する観点からの学校制度の見直しを含めた改革を行うことが喫緊の課題という指摘がなされている。

32)「社会全体を通じた現状と課題」では、(上記ここまでの指摘を踏まえて)

①職業教育の重要性に対する認識不足が存在している
②職業教育は、我が国の経済・社会の発展を支える役割をもち、また若者の職業的自立を促す上で極めて有効である
③「普通教育」・「座学教育」中心の教育には、職業的自立を促す観点から限界がある
④従来の普通科志向が職業教育を「格下」扱いしている
⑤教員や保護者等の職業教育の重要性に対する認識不足(進路指導の不適切)
⑥専門性教育の非柔軟性、早期の進路分化に対する懸念が普通科志向の背景
⑦職業教育の専門的な狭さはより一般的・共通的な知識・技能の修得に至る「入口」に過ぎない
⑧それらのことを踏まえた社会全体の職業教育に対する意識の改革が必要という指摘がなされている。

33)たくさんの内容が重複しながら語られているが、この四つの観点を簡略化すれば、二つある。

34)一つは、学校から社会・職業への移行が「危機的な状況」にあるということ。

35)もう一つは、企業内の人材教育のインセンティブが落ちているということである。したがって、「学校」における実践的な人材教育が必要であると。

36)そこで、この「中教審経過報告」では、これらの四つの総括を通じて「高等教育における職業教育の課題」を取り出している。

37)「高等教育における職業教育の課題」は三つある。「中教審経過報告」の文言をそのまま引用する(25)。※括弧内の数値は「中教審経過報告」のPDFファイル(PDF)の頁数を指している。以後すべて同じ。

①社会への入口段階で職業人として求められる能力が高度化・複雑化する中で、また、非正社員の増加等に伴い企業内教育・訓練を前提とした従来からの人材育成の在り方に変化も見られる中で、若年無業者や早期離職者の増加など、社会・職業へ円滑に移行できない学生が多く存在することが問題となっている。このような中で、高等教育機関が社会・職業との関連を重視した、実践的な職業教育の充実を図ることが課題となっている。

②高等教育の量的拡大に伴い、多様な学生に対する多様な職業教育ニーズや、様々な職業・業種の人材ニーズにこたえることが求められる中で、高等教育機関が全体として、こうした多様なニーズに応じた職業教育の充実をどのように図っていくのかが課題となっている。

③我が国の国際競争力の向上のためには、企業や社会が職業教育に求めるものを高等教育機関が受け止め、より職業との関連を重視した教育を通じて求められる人材育成を図っていくことが課題となっている。また、個人が生涯を通じて、職業人として充実したキャリアを築いていくため、職業人として求められる能力の修得という要請に幅広くこたえる教育を充実させることが課題となっている。

38)これら三つの課題に対して、高等教育の課題は三点。

前項①の職業人能力の「高度化」「複雑化」、企業内人材教育のあり方の変化、若年無業者や早期離職者の増加等を踏まえて、

①「人材育成・キャリア形成に関する高等教育機関の役割の見直しと、自立した職業人を育成する職業教育の重要性を踏まえた高等教育の展開
→高等教育機関が、「実践的な人材育成は企業の役割」といった考え方から脱却し、高等教育における職業教育を通じて、自立した職業人を育成し、社会・職業に円滑に移行させることがより重要になっていることから、職業教育の重要性を踏まえた高等教育の展開が必要である」(25)。


前項②の多様な学生からの職業教育ニーズと多様な企業から職業教育ニーズを踏まえて、

②「職業教育の観点から各高等教育機関が果たす役割・機能の明確化と、それぞれの特性を生かした職業教育の充実
→それぞれの高等教育機関が、職業教育の観点から果たす役割・機能と養成する人材像を明確にした上で、各機関の特性を生かした職業教育を充実させることにより、高等教育機関が全体として、学生の多様な職業教育ニーズや、様々な職業・業種の人材ニーズにこたえていくことが重要である」(25)。


前項③の国際競争力の向上のためには、高等教育機関が職業教育を受け止めること、また個人がその生涯を通じてのキャリア能力を得ることが必要ということを踏まえて、

③「教育界と産業界との連携・対話による、求められる人材像・能力等の共有と、求められる能力の育成につながる教育の充実
→教育界と産業界とが、国・地方・各機関など様々な段階において連携・対話を促進することにより、産業・雇用の将来像や求められる人材像・能力を共有するとともに、人材育成のための協力体制を構築し、こうした体制のもと、求められる能力の育成につながる教育を充実させていくことが重要である」(25~26)。


39)ここで「中教審経過報告」が言う「学生の多様な職業教育ニーズ」には解説が必要。この「多様」は、消費社会での多様化、つまり「豊かで成熟した社会にあって人々の価値観や生き方が多様化したりしたこと」(2)をもちろん意味してもいるが、「大学全入時代を迎え学生が多様化し、職業人育成の観点から大学及び短期大学に求められる機能も多様化している現状がある」(27)という「多様」を受けている。

40)つまり「多様化」は大学の「ユニバーサル化」(29)の事態を主には指している。大学生らしい入口の基礎学力も出口の就職も「ユニバーサル化」していることを意味している。

41)別の味方をすれば、「大学全入時代」のユニバーサル化における(専門学校を含めた)高等教育進学率80%近くの事態は、就職先企業の「多様化」も意味することになる。

42)就職先企業の「多様化」というのは、相対的に終身雇用型の大企業から、相対的に派遣労働者やパート・アルバイト依存型の中小企業まで、規模の「多様」性、業職種の「多様」性を含んだ就職に高等教育の卒業者が進む事態を意味している。

43)かつては「学歴」によって規模や業職種の棲み分けがそれなりに出来上がっていたが、進学率80%時代を迎えて、もはや大卒の就職先は一様には描けない。

44)言い代えれば、何度もこの「中教審経過報告」が指摘するように、社内人材教育が充実しているような企業ばかりを想定して ― 得てして大学卒の就職先企業は社員教育が充実している企業が多かったが ― 大学教育を従来の教養主義(あるいは専門教養主義)のままにとどめておくべきではない。

45)したがって、多様な学生のニーズを踏まえることは、多様な企業のニーズを踏まえることと同じことを意味している。

46)そのような「二重の多様性」(これは私の言葉)に応えるためには、「それぞれの高等教育機関が、職業教育の観点から果たす役割・機能と養成する人材像を明確にした上で、各機関の特性を生かした職業教育を充実させること」(25)と「教育界と産業界とが、国・地方・各機関など様々な段階において連携・対話を促進することにより、産業・雇用の将来像や求められる人材像・能力を共有するとともに、人材育成のための協力体制を構築し、こうした体制のもと、求められる能力の育成につながる教育を充実させていくこと」(26)が必要になる、と「中教審経過報告」は言いたいのである。

47)「教育界と産業化と」の「様々な段階に」おける「連携・対話」も、「二重の多様性」に関わっている。

48)従来の終身雇用型の「入口」接続(8)には二つの意味がある。

49)一つは、一括採用、一括解雇(定年制)、職務ローテーション制、年功賃金=年功序列制、企業内組合を前提とした「メンバーシップ型採用」に呼応した、従来の大学の教養主義的な人材育成という意味での「入口」接続。つまり素養(基礎)は学校で作ったからあとは企業で教育して下さいという意味での「入口」接続。これを私は大学型「入口」接続ととりあえず呼んでおく。※ここで言う「メンバーシップ」というタームを、私はとりあえず濱口桂一郞(『新しい労働社会』岩波新書)から借りている)

50)もう一つは「キャリア教育」と区別された意味での「職業教育」的な「入口」接続。これは従来もっぱら専門学校も含めた専修学校や短大が担ってきた。つまり極度に単純化した言い方をすれば、会社の「一般職」「専門職」(いずれも「総合職」に対立する意味での、つまりメンバーシップを担わない)接続としての「入口」接続。

51)この後者の「入口」接続は、「即戦力」人材と言われてきたものである。

52)昨年12月24日の中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」において、この種の「即戦力」論は次のように言及されている。

53)「近年、『企業は即戦力を望んでいる』という言説が広がり、学生の資格取得などの就職対策に精力を傾ける大学が目立っている。しかしながら、実際に企業の多くが望んでいることは、むしろ汎用性のある基礎的な能力であり、就職後直ちに業務の役に立つような即戦力は、主として中途採用者に対する需要であると言われる」(9)。

54)この答申を受けて、今回の「中教審経過報告」でも「即戦力」論は以下のように言及されている。

55)「新規学卒者について、就職の段階で「即戦力」と言える状態にまで学校教育を通じて育成することは、産業界から期待されていることでもない」(5)。

56)「即戦力」教育はここでは狭い意味での「職業教育」と同じことを意味している。

57)しかし、「流動性の高まった労働市場」(22)、「経済・社会情勢や人材育成の在り方等」の「変化」(25)、「職業人能力の『高度化・複雑化』と非正規雇用社員の増加」(25)などにおいては、具体的な「特定の領域・分野」(8)に対する「職業教育」はもはや「実践的な人材育成」とは言えない。

58)つまり上記のような二つの「入口」接続型の人材教育が崩壊しつつある今日の人材育成は、「個人が生涯を通じて、職業人として充実したキャリアを築いていくため」(25)の人材育成でなければならない。

59)学校教育(特に高等教育)が生涯を担う方途こそはかつては教養主義であったのだが、二つの入口接続が崩壊しつつある今では、もはや「生涯」キャリアの育成は学校内部では担えない。

60)だからこそ「教育界と産業界とが、国・地方・各機関など様々な段階において連携・対話を促進することにより、産業・雇用の将来像や求められる人材像・能力を共有するとともに、人材育成のための協力体制を構築し、こうした体制のもと、求められる能力の育成につながる教育を充実させていくこと」(26)が必要になると指摘されたのである。

61)その意味で「職業能力の継続的な修得という生涯学習ニーズにこたえることは、大学及び短期大学の重要な役割の一つである」(28)という「中教審経過報告」のテキストは誤解を招きやすい。

62)このテキストでは、学生教育(新卒教育)ニーズと別個に社会人教育ニーズが存在しているかのように取れる。

63)しかし、二つの「入口」接続型の人材教育が崩壊しつつある今日の「学校教育」における人材育成においては、すでに新卒者(18才の高卒入学者)から生涯学習が始まっているのである。

64)それをこそ、「中教審経過報告」は「職業教育」ではなくて「キャリア教育」と呼んだのである(9)。※この私のレポートの【その1】第24項の註を参照のこと(http://www.ashida.info/blog/2009/09/post_378.html#more)。

65)高等教育における大学・短大とは「別の学校」とは、この「キャリア教育」を行う学校である。

66)はてさて、「キャリア教育」とは何か? 

まだまだ長くなりそうなので、今日はここまで。乞うご期待。→「にほんブログ村」

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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