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 家内の症状報告(112) ― MS/CMS/OSMS/NMOについての11の迷妄 2008年03月02日

Pさんとのやり取りは症状報告91番以来A4版で30ページ、3万文字にもなりました。

そこでいくつかの実践的な“否定されるべき命題”にこの間のやりとりを解説付きでまとめてみました。理由は長くて読む気が起らないとうものと、理論的すぎて具体的にどうすればいいのかわからないという感想が多かったからです。解説はパパさんの当該個所の記述にほとんど依存しています。これら11の言明は、このPさんとのやり取り以前には、私も信じていた言明です。

1)MSとは、T細胞性自己免疫疾患である

2)MSとは、自己免疫疾患である

3)MSには、ベータフェロンが有効である

4)2005年2月(ベータフェロン有効という日本人治験結果報告論文)以前にベータフェロン有効を疑いうる医師(論文、発見)はいなかった

5)MSには、ステロイドは予防効果がない

6)MSかNMOかは、細胞免疫(ベータフェロン有効)か、液性免疫(免疫抑制剤有効)かで区別される

7)NMOでは脳には炎症は出ない

8)AQP4抗体検査結果が「陰性」の場合は、ベータフェロン投与を続けた方がいい

9)MS/CMS/NMOは違う病気である?

10)炎症、あるいは抗体が髄鞘再生を破壊する「原因」である

11)再生医療よりも再発防止薬の開発の方が現実的である

 

●以下は上記項目の該当箇所説明付き

1)MSとは、T細胞性自己免疫疾患である

MSといえば細胞性免疫による自己免疫疾患(Type1)、と考えられていたところに、液性免疫(Type2)の関与が指摘され、さらに、そもそも免疫が主体ではく、オリゴが「被害者」とは言い切れない病態(Type3,4)の報告がなされた

Type1=T細胞とマクロファージのみからなる炎症(=細胞性免疫)
Type2=免疫グロブリンと補体からなる炎症(=液性免疫)
Type3=オリゴの自発的死(アポトーシス)による脱髄が主体で免疫グロブリン・補体・髄鞘再生を認めないもの Type4=オリゴの変性が主体で髄鞘再生を認めないもの

しかし、2008年1月のAnnals of Neurology誌に、この1996年から連綿と続いた「MSにはバリエーションがある」という論(Type1 ~Type4)を全てひっくり返し、かつ、「MSと言えば細胞性免疫である」という仮説をも覆す論文がオランダから投じられ、全ての脱髄進行中のMS病巣は、Type2(液性免疫が主体)である、と指摘された。

2008年2月14日号の(世界一有名な医学誌である)New England Journal of Medicineに、MS患者を対象としたPhase2のリツキサン(日本ではリンパ腫で既に使われている抗体医薬)治験結果(1年間の観察期間)が出されました。2週間を空けてたった2回のリツキサン点滴をしただけですが、1年間の追跡で、投与群での再発は半減していたとの報告がある。

簡単に言うとリツキサンというのは、B細胞(免疫グロブリンを作る細胞)を殺す薬です。つまり液性免疫を抑制し得る薬がMSにおいて再発減少に効果を出したということになります。Phase3が終わっていないので、未だ試験途中であり、長期効果を見たものではありませんが、脱髄MS病巣は全て Type2であるとする2008年1月の論文と併せると、MSを細胞性免疫の疾患と考える論拠は乏しくなったように感じます(ちなみに、NMOについては極小数例におけるリツキサンの試験投与の結果が2005年のNeurology誌に報告されていますが、再発を抑制できるのではないかとされています)。

 

2)MSとは、自己免疫疾患である

2004年4月にオーストラリアの医師がAnnals of Neurology誌に「超急性期」のMS病巣において、免疫反応不在でのオリゴの死、が報告された。つまり、リンパ球とオリゴの因果関係、或いは「加害者」「被害者」概念が逆転しうることが示された。 脱髄と炎症の因果関係が必ずしも定かでないのと同様に、抗AQP4抗体によるアストロの炎症、というのが果たしてNMOの「原因」なのかは分からないということ。

今のところ、AQP4を欠損した動物(既にマウスが作られている)でNMOになるという報告はありませんし、或いは正常動物に抗AQP4抗体を投与したからと言ってNMOになるという報告はありません。

またNMOで生じる病変にAQP4が出ていることは確かであるが、AQP4はもっと広い範囲で検出される、にも拘らず視神経脊髄に集中するのは何故か。

抗AQP4抗体を検出できないNMOないしHigh-risk syndrome of NMO患者は、検査感度の問題で抗体が(実際にはあるが)検出できないだけなのか、或いは抗AQP4抗体が「原因」ではなく、「結果」であることを示しているのか。

 

3)MSには、ベータフェロンが有効である

1996年7月にMayoの医師らが、Brain Pathology誌にMS病巣におけるオリゴの生き死にパターンにはバラエティがあることを指摘。その後2000年6月のAnnals of Neurology誌に同じMayoの医師らが、MSにおいて脱髄進行中の病巣を多数解析し、その分類を下記のように示した。

Type1=T細胞とマクロファージのみからなる炎症(=細胞性免疫)
Type2=免疫グロブリンと補体からなる炎症(=液性免疫)
Type3=オリゴの自発的死(アポトーシス)による脱髄が主体で免疫グロブリン・補体・髄鞘再生を認めないもの
Type4=オリゴの変性が主体で髄鞘再生を認めないもの

つまり、MSといえば細胞性免疫による自己免疫疾患(Type1)、と考えられていたところに、液性免疫(Type2)の関与が指摘され、さらに、そもそも免疫が主体ではく、オリゴが「被害者」とは言い切れない病態(Type3,4)が報告された。 このような病態の差が、ベタフェロンの効果の差(効く人と効かない人の差)に繋がっているのではないかと考えられるようになった。

実際、 2005年8月には同じMayoの医師らがLancet誌において、Type2(液性免疫)のMS患者では血漿交換が奏効することを報告。アメリカでは(脳腫瘍との鑑別等を目的として)日本よりも気軽に脳生検を行うため、脳生検でType分けをすれば、MS治療の個別化ができるのではないかとすら言われていた。

ベタフェロンがMSにおいてどう効いているかは、前にも述べましたが、「誰も知らない」。細胞性免疫の調節がベタフェロンの効果である、という視点に立てば、芦田さんの驚き、-ベータフェロン治療は一体何だったのでしょうか-というのは良く理解できますが、そもそも謎の薬ですから、実は驚くところではありません。

ところが 2008年1月この論文においては、MS再発時病理像はたった1パターンに集約され、その唯一のパターンとは、髄鞘に対して免疫グロブリン(抗体)と補体が結合し、マクロファージが集積している脱髄、つまり、液性免疫が主体であると。

即ち、ここに来て「NMOは液性免疫であるという観点でCMSから区別される」という発想すら危うくなっています。本当にNMOは「MSとは明確に区別されるべき」疾患なのでしょうか? 抗AQP4抗体は原因と証明されたわけではなく、現時点では単なるマーカー、と以前に書きましたが、例えばこの抗体が単に病変の場所(視神経・脊髄)を規定しているだけで、脱髄の本態についてはMSと変わらない可能性も否定はできません。またEvidence- based medicineの観点からは、NMOとCMSでベタフェロンの「治療反応性が明らかに違う」ということについても、確証が得られたわけではありません。

 

4)2005年2月(ベータフェロン有効という日本人治験結果報告論文)以前にベータフェロン有効を疑いうる医師、論文、発見はいなかった

1996年のMayoの医師達の発表(Brain Pathology)があり、つまり細胞性免疫論の一角は崩れており、論文が受け付けられた2004年5月までには、

1)2000年6月の脱随進行病巣の4分類(MS=細胞性免疫炎症の相対化)

2)2004年4月のケンブリッジ大学の発見(T細胞浸潤等の炎症はなかったこと)

3)同じく4月のオーストラリアの医師の発見(免疫反応不在でのオリゴの死の報告) など提出以前(直前ですが)、論文をまとめる途中で貴重な発表はあいついでいるにもかかわらず、この論文が提出されている。

 

5)MSには、ステロイドは予防効果がない

ステロイドは免疫云々ではなく AQP4の発現を調節する可能性が指摘されている。

 

6)MSかNMOかは、細胞免疫(ベータフェロン有効)か、液性免疫(免疫抑制剤有効)かで区別される。

2008年1月Annals of Neurologyの論文においては、MS再発時病理像はたった1パターンに集約され、その唯一のパターンとは、髄鞘に対して免疫グロブリン(抗体)と補体が結合し、マクロファージが集積している脱髄、つまり、液性免疫が主体であると報告されている。

即ち、ここに来て「NMOは液性免疫であるという観点でCMSから区別される」という発想すら危うくなっています。本当にNMOは「MSとは明確に区別されるべき」疾患なのでしょうか?

抗AQP4抗体は原因と証明されたわけではなく、現時点では単なるマーカー、と以前に書きましたが、例えばこの抗体が単に病変の場所(視神経・脊髄)を規定しているだけで、脱髄の本態についてはMSと変わらない可能性も否定はできません。またEvidence- based medicineの観点からは、NMOとCMSでベタフェロンの「治療反応性が明らかに違う」ということについても、確証が得られたわけではありません。

 

7)NMOでは脳には炎症は出ない

本来NMOの診断基準においては、名前の通り(NMO=「視神経脊髄炎」)、脳には病変を欠くことが重要でした。

ところが、NMOにもMSとは異なり間脳であることが多いが、脳病変が出ることがあるから診断基準を変えるべきだとの論文が、Mayo(Lennonも入ってます)から2006年3月のArchives of Neurology(少し格下の神経内科雑誌で忙しいと読まないでしょう)に出ました。

「脳病変を伴うNMO」であれば、日本的にはOSMSですが、事実、NMOの診断基準は2006年5月のNeurology誌上で(Lennonも入ったグループにより)改定されました。

 

8)AQP4抗体検査結果が「陰性」の場合は、ベータフェロン投与を続けた方がいい

東北大の論文では、抗AQP4抗体の、NMO又はHigh-risk syndromeに対する特異度は100%であったそうです(NMO又はHigh-risk syndrome以外における、この抗体の陽性率はゼロだったということ)。

特異度を高くすると感度が低くなるのが一般論で、東北大における論文で使われた検査方法は「陽性とも陰性ともとれる状態がありうる」ものと思われる。

特異度が 100%と極めて高い(特異度を優先させた)検査であれば、感度が100%ということはないのではないか、つまり本当は陽性だが、陰性と判定された例もあるのではないか、ということを考えさせます。

ちなみに、この検査の「本当の」感度・特異度は、診断基準の感度・特異度とも連動します(本当はNMOだが、NMOの診断基準の感度が低くMSと診断されてしまう例で、抗AQP4抗体が陰性である、という症例があるかも知れない、この場合、論文では「MS患者・抗AQP4抗体陰性」と判定される)。

スペインとイタリアでかのNMO診断基準の感度・特異度を調べたところ、感度87.5%、特異度83.3%とのことでしたが、このNMO診断基準を満たさない「本当のNMO」が、12.5%存在することを意味しています。 「本当のNMO」「本当のMS」ってなに?ということになります。

話題を戻しますが、検査を直接行っている大学に受診されているのでなければ、何度も何度も「陰性」と判断されている検査の再提出は、無償検査の信頼性を疑っているようで主治医は乗り気ではないかも知れませんが、少なくとも病変や病態が変わった際(身体の中の抗体価が変動したかもしれない際)には再検査してもらうのも一考です。

 

9)MS/CMS/NMOは違う病気である?

2008年1月のAnnals of Neurology論文においては、MS再発時病理像はたった1パターンに集約され、その唯一のパターンとは、髄鞘に対して免疫グロブリン(抗体)と補体が結合し、マクロファージが集積している脱髄、つまり、液性免疫が主体であると報告されている。

即ち、ここに来て「NMOは液性免疫であるという観点でCMSから区別される」という発想すら危うくなっています。本当にNMOは「MSとは明確に区別されるべき」疾患なのでしょうか?

抗AQP4抗体は原因と証明されたわけではなく、現時点では単なるマーカー、と以前に書きましたが、例えばこの抗体が単に病変の場所(視神経・脊髄)を規定しているだけで、脱髄の本態についてはMSと変わらない可能性も否定はできません。

またEvidence- based medicineの観点からは、NMOとCMSでベタフェロンの「治療反応性が明らかに違う」ということについても、確証が得られたわけではありません。

 

10)炎症、あるいは抗体が髄鞘再生を破壊する「原因」である

2004年4月に衝撃的な論文がAnnals of Neurologyに出ました。不幸にも脳幹に脱髄が生じて数時間で亡くなった患者の脳を調べたところ、髄鞘を形成する細胞が死んでいる像とそれによる脱髄はあるが、T細胞浸潤等の炎症はなかったことが報告されている。

彼らは、ひょっとして髄鞘を作っている細胞が炎症とは別の原因で死んでしまい、炎症とは、あくまで二次的な反応なのではないか(炎症は原因ではなくて結果なのではないか?)と疑義を呈しました。

この後、ケンブリッジ大学の研究チームが立て続けにこの報告に支持的な実験データを提出しました。一連の動物実験の中で指摘されたのは、長い間脱髄している慢性的な病変に無理やり炎症を励起すると、髄鞘再生が開始されること(炎症は髄鞘再生の引き金を引く大事なファクター?)、逆に脱髄によって生じた髄鞘のゴミを投与すると髄鞘は再生できない(脱髄したまま炎症という「ゴミ処理班」を呼ばないで放置すると、その後再生できないのではないか?)、極めつけは、脱髄のピークでステロイド投与を行うと髄鞘を形成する細胞が死んでしまい、再生がむしろ遅延する(急性期の行うステロイドパルスは髄鞘の再生にマイナス?)ということでした。

ケンブリッジ大学の研究報告はいずれも動物実験ですが、これらの結果から、MSでの脱髄がもっと別の要因で生じていて、派手な症状を引き起こす炎症は、実は二次的に、或いは髄鞘を再生しようとする人体反応の必要悪として生じている、とも考えられなくはないのです。

この論に基づけば、真の再発抑制薬とは髄鞘を形成する細胞が死ぬのを止める薬、ということになります。

 

11)再生医療よりも再発防止薬の開発の方が現実的である

iPS細胞を利用した再生医療よりも(ひょっとするとMSの原因解明なんかよりも)ずっと現実的なところに髄鞘再生医薬の開発は来ており、それが、再発抑制薬開発に比して極めて少数のグループで為されたことは驚くべきことです。

再発抑制や原因解明にばかり人的経済的資本を投入しないで、そろそろ(Myelin Repair Foundationのように)こちらへ回してスピードアップしたほうがいいように思えます(Alemtuzumabが本当に前述のように高率で再発を抑制できれば、放っておいてもやることがなくなった研究者は髄鞘再生医薬開発へ流れてくると思いますが)。 再生医療は上記の通り現実に向けて動いています。

現在後遺症に苦しんでいる患者においては、「夢」と言わずに期待して頂きたいものと思います。研究開発を進めるには(Myelin Repair Foundationのように)人的経済的資本も必要ですが、十分条件ではありません。100人がかりで研究していたとしても、たった一人の研究者のブレークスルーはこれらを全て抜き去ってしまう、それが自然科学の面白いところです。ブレークスルーが生まれるのは「偶然」であると研究者は言うかも知れませんが、(映画Lorenzo's Oilを見ていても)その研究者をそこに向かわせる何か大きな力(情熱)があってこそではないかと思う。

(Version 2.0)

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投稿者 : ashida1670  /  この記事の訪問者数 :
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