134 ジョージクルーニ・デンゼルワシントン・ジュリアロバーツ |
ジョージ・クルーニの『ザ・パーフェクトストーム』、デンゼル・ワシントンの『ザ・ハリケーン』、ジュリア・ロバーツの『エリン・ブロコビッチ』を最近、立て続けに見てしまった。この三者の映画に共通することは、すべて「事実」に基づいているということだ。実話なのだ。実話映画というのは、大成功か大失敗かどちらかだ。この三者とも大失敗。
『ザ・パーフェクトストーム』は、とんでもない映画。「史上最大の暴風雨」にジョージ・クルーニ船長(4、5人の乗組員がともに乗船)の漁船が遭遇するのだが、最後まで見て、唖然。船長も乗組員もみんなその「史上最大の暴風雨」で最後には死んでしまうのです。いったい、この話はどう実話なのか。「史上最大の暴風雨」との船上での戦いがほとんどを占めるこの「実話」映画は、いったい誰がそういった戦いを伝えたのか。一人くらいは生き残ってくれないと「実話」ではない。「史上最大の暴風雨」のすごさよりも何よりも、それが一番のショックだった。
『ザ・ハリケーン』は、黒人差別による冤罪事件。最後には無罪を勝ち取るが、絶望的な差別的冤罪から、新しい隠れた事実を探り当て、勝訴に持っていくその過程が、映画の中では一番粗雑に描かれていて、むしろ周囲の励ましや熱意、正義感といった抽象的な要素に映画全体が甘えていた。これでは「実話」の意味がない。
『エリン・ブロコビッチ』は、最初から最後までジュリア・ロバーツの胸のふくらみにしか目が行かなかった。元々彼女はそれほど胸が大きいわけではないから、きっと寄せてあげて大きく見せていたのだろう。ときおり、胸の大きさが違ったりするので、それはよくわかった。エリン・ブロコビッチという実在の人物が、そのように胸の大きな人だったらしい。しかし、少し知的な顔立ちのジュリア・ロバーツに、あの上げ底の胸は似合わない。なぜ、そんな「胸」の「実話」にこだわるのか。エリン・ブロコビッチの「事実」とはこの映画では結局のところ「胸」の大きさでしかない。
むかし、江藤淳が村上龍のデビュー作「限りなく透明に近いブルー」を評して、主人公の実在性に作品が甘えていると言っていたが、この三者とも、同じように「事実」に甘えて、作品としての仕上がりが低い。
「実話」という意味では、夏休みに見た『遠い空の向こうに』(ジョー・ションストン監督)の出来の方がはるかによかった、と思う。主人公の「僕はお父さんと同じ道を目指しているから、違うことをやりたいんだ」と叫ぶシーンは、ジーンときました。
ところで、トヨタのマークUのTVコマーシャルに出ているジョージクルーニは最高ですね(ジョージクルーニが漁船の船長なんて、ミスキャストもいいところだ)。というより、マークUをジョージクルーニのイメージにつないだCMディレクタがすごいと思います。まったくぴったり。
この“ぴったり”というのは、両者に共通のイメージがあるという意味でではない。ジョージクルーニだけを見ても、マークUをイメージすることはまったくないし、マークUだけを見てもジョージクルーニをイメージすることはまったくないけれども、トヨタのこのコマーシャルを見るとジョージクルーニは、マークUだったんだ、マークUはジョージクルーニだったんだ、と思わず納得してしまう。そこがすごい。
マークUなんて、私は車としてはまったく認めないけれど、この両者が結びつくといい車に見えてくる。要するにマークUに乗る日本人は、みんなジョージクルーニなんだ、このコマーシャルを見て以来、私はそう思うようにしている(そう思うようになった)。あり得ないことが起こる。それがCM(広告)というものだ。
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