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364 12/2(木)
00:02:01
 「自己点検・評価」の理解と誤解  メール転送 芦田宏直  4486 

 
昨日(10月30日:火曜日)は、財団法人専修学校教育振興会、全国学校法人立専門学校協会主催の「自己点検・評価」研修会(http://www.sgec.or.jp/sgec/2004/1105jiko.pdf)に参加してきた。東京会場は青山にある「ホテルフロラシオン青山」(http://www.floracion-aoyama.com/)。「自己点検・評価」研修会は、講師になることの方が多いので、聞き手になるといろいろなことが学べてまたまたよく勉強ができた。

講演者は3人。@東洋大学名誉教授 倉内志郎(http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-FAUTH=%91q%93%E0%8Ej%98Y&RECNO=1&HITCNT=010) A富山情報ビジネス専門学校(http://www.bit.urayama.ac.jp/)副校長 喜多賢治 B日本音楽学校(http://www.gakkou.net/cgi-bin/view.cgi?code=52535&mode=info)学校長 小林 志郎。

最初の倉内教授が一番面白くなかった。この人を代表とする調査組織が行った報告書(『専門学校の「自己点検・評価」に関する調査報告書』平成15年度 財団法人専修学校教育振興会発行) ― この調査が専門学校の「自己点検・評価」運動の機縁となっているのだが ― には次のようなことが書かれている(昨日はこの1年も前に出た報告書の平板な説明に終始していた)。

「意見には、大きく二つの方法が見られる。ひとつは専門学校それぞれの個性を犠牲にせず、多様な点検・評価の方法、多様な基準を用いてそれらを総合的に評価すべきであるという意見である。もうひとつはできるだけ共通の指標を用い、定義も基準も明確にして統一的な評価を行う。それによって客観的で比較可能な評価を実施すべきだという意見である。その間をとってこの二つの点検・評価を同時にやるべきだという意見もある。共通にできる部分は厳格に統一様式で行う。あとは多様性、個性を尊重して個別の学校に任せるという提案である」(前掲書 32頁)。

バカなことが書いてある。「自己点検・評価」の出発点は、90年代初頭に始まる教育(大学)の規制緩和だ。この方向は90年代中盤以降のインターネットの進展(=グローバル化)の大きなうねりによっていちだんと加速している。文科省(当時は文部省)もいよいよ設置基準(=規制)を緩和して、設置後の実績の点検・評価を強化する方針を打ち出しはじめたのだ。ところが、10年以上たった今でも有効な自己点検・評価が(自己満足的な「自己点検・評価」しか)登場しなかった。そこで「第三者評価」という契機が加わった。しかしそれは“客観的な”共通指標で学校を点検・評価しようというものではない。そうであれば、それは規制緩和ではなくて、形を変えた規制強化でしかない。

90年以降のどの大学審議会の報告書を見ても、「自己点検・評価」は、それぞれの大学の教育の「自主性」「自立性」「自律性」「個性」「特長」を活かすためのものだと繰り返し強調されている。「第三者評価」は、そういった各大学や学校が教育理念として掲げる「自主性」や「個性」が実際にそうなっているかどうか、どのようにして自らの教育の理想を実現しようとしているのか、その結果(実績)はどうであったのかを“客観的に”「評価」するものであって、共通指標の形成とは何の関係もない。

この全国レベルの調査の終盤で並行的にすすめられた東京都「専修学校構想懇談会」の「報告書」(平成15年3月)には、〈規制緩和〉と〈第三者評価〉との関係が次のように的確にまとめられている。

「(…)規制緩和と学校評価の関係が実は補完関係にあるということである。設置認可制度については、社会の変化・ニーズに応じて、学校が自ら積極的に改革できるよう、できる限り弾力化すべきとの意見があり、規制を可能な限り緩和する方向にある中で、第三者評価が逆行するとの議論がある。
しかし、今回の国の改正法を見ると、先の専門職大学院の創設のほかに、学部等の設置を現行の認可制から届け出制に緩和する規制緩和と大学に対する第三者評価制度の導入がセットで盛り込まれているのである。これは第三者評価が、むしろ規制緩和を進めるための補完的役割として位置付けられていることを意味している。すなわち、学校の自主性・自律性を尊重し、行政の関与を抑制する一方で、その学校の「質」を継続的に保証していくためのシステムとして、この第三者評価が捉えられているということである」(「専門学校の新たな取り組み」東京都専修学校構想懇談会報告書 平成15年3月)

都の認識の方が、倉内教授たちの全国レベルの認識よりはるかにまともである。倉内教授たちの認識は、客観性=共通指標=第三者評価という根深い錯誤がある。第三者評価が共通指標でなされるということはどういうことか。それは、在籍率、進級率、卒業率、定員充足率、出席率、就職率、資格取得率、選択科目の有無、担任制の有無、クラブ活動や部室の有無、研修施設の有無などの適当に寄せ集められた指標に(数値・○×・「無回答」などの回答様式と共に)、各校アンケートされて、罫線書式で一覧化されるということだ。

こうなるとどうなるか。学校の序列化である。序列化されるとどうなるか。経営者たちは、できるだけあらゆる項目で○がつくように“努力”しはじめる。○が多い方がいい学校だとマーケットが考えるのは当たり前だからだ。だから(たとえば)クラブ活動がない学校は、1名でも学生の所属するクラブを作って、○と回答するようになる。するとクラブ活動に本気で熱心な学校と区別が付かなくなる。今度は、○ではあきたらなくなくなり、いくつのクラブがあるのか、在籍数対比で何人の学生が参加しているのか、部室はいくつ用意しているのか、その広さはどうなっているのか、と指標を細分化せざるを得なくなる。細かい数値を、しかし出したところで、その数値が本当かどうかは実際にはわからない。今度は本当かどうかを「第三者」が“委員会”を作って調査することになる。そういったことが共通指標化されたあらゆる指標で起こることになる。これこそを規制(の強化)というのである。

規制の強化はなぜいけないのか。それは各校の教育の個性や特長がかき消されるからである。クラブ活動が共通指標になると、クラブ活動に教育の価値を認めない学校までもが、クラブ活動をやり始める。担任制が共通指標になると、担任制に教育の価値をおかない学校までもが担任制を復活させる(わが校はクラブ活動にも担任制にも重きを置いていない)。一覧化された共通指標そのものを各校が一斉に教育目標化しはじめる。クラブ活動のない学校があっても良いし、担任のいない学校があっても良い。出席率に関心のない学校があっても良いし、資格取得に関心のない学校があっても良い。しかし(たとえば)「わが校はインターンシップ教育には絶対の自信がある」といった学校があれば(そんな学校が実際にあるかどうかはわからないが)、そのインターンシップの「自己点検・評価」体制を充実させればいいのである。「第三者評価」はそのインターンシップ教育の「自己点検・評価」の“客観性”(ありていにいえば“説得力”)を厳密に問えばいい。それが正しい「第三者評価」、規制緩和に対立しない(むしろ規制緩和を促進する)「第三者評価」である。

教育における規制緩和とは、一にも二にも個性的な、特長のある教育(の必要性)を意味している。第三者評価を共通指標形成と短絡的に結びつけたり、「自己点検・評価」自体を主観的なものとみなすのは、90年以降の規制緩和=個性的な教育の必要性と「自己点検・評価」との並行的で親和的な動きを理解できない無知・無研鑽にすぎない。「どこまで君たちは個性的=特徴的であるのか」、これを問われているのが高等教育の関係者であって、第三者評価は、もっと厳しく(=客観的に)「どこまで君たちは個性的=特徴的であるのか」と問うのである。それは(結果的には)序列化や虚偽申告に繋がる共通指標とは何の関係もない。「自己点検・評価」=主観的、第三者評価=共通指標(“客観的”)という立場は、学校評価をまるでリクルートの進学雑誌のように行うということだ。いまどきリクルートの進学雑誌で進学先を決める学生などいない。

その点では、富山情報ビジネス専門学校 副校長 喜多さんの講演は充分に個性的だったし、 日本音楽学校学校長 小林志郎さんの講演も面白かった。喜多さん(喜多さんの学校は専門学校ではじめてISO9001を取得した学校だ)は、私を8月の講演(http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=333)で、富山に招いた張本人だ。私を講演に招いてくれた人自身がこうやって、同じ主題の講演をやってくれる。こんなにうれしいことはない。まさに“仲間”だ。日本音楽学校学校長の小林さんは私にははじめての人だが、「『自己点検・評価』は、付加的な業務ではなくて、教育そのものだ」と言っていたのが印象に残った。この二つの学校を共通仕様の○×「無回答」ではかるなんて、全く無謀な話だ。どちらも充分に個性的な「自己点検・評価」の話だったし、充分に「客観的な」話だった。“主観的”だったのはむしろ倉内教授たちの調査報告だったのである。

来週火曜日12月7日には、今度は私が「自己点検・評価」今年最後の講演(http://www.sikeiken.jp/file/20041116101528.doc)を(教育戦略研究所所長の舟本さんと一緒に)行うが、この経験を踏まえて、参加者の誰にも有益なものにしたい。


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