昨日28日の深夜(23:18)に突然地方在住の医師の方からメールが来ました。私の「家内の症状報告」(http://www.ashida.info/blog/cat8/)を「最初から最後まで全て」読んだとのこと(恥ずかしい!)。そしてご自身の奥様に「自分自身でNMOの診断」を下されたとのこと。メールには名前、場処などを示す固有名がそのまま書かれていましたが、それを省いて全文掲載します。こういったメールは私自身というより、家内自身に対していい励みになります。またこの病気の診断で悩んでいる全国のMS/NMO疑いの患者さん達の良い症例報告となると思います。
●拝啓、芦田宏直様、そして奥様。
お二人に御礼を申し上げたくて、メールいたしました。
私は地方在住の一般医です。今月、私の妻に、自分自身でNMOの診断を下しました。
2ヶ月前にはNMOの病名すら知らなかった、神経内科専門医でもない私が自分の妻にNMOの診断を下すとは、今から振り返ってみても信じられません。何か見えない糸に引かれるように、私はこの病名に辿り着いてしまいました。そして、その糸によって芦田様のブログに導いてもらったようです。
もともと私は25年前に医学部卒業後、心臓外科を目指して外科に入局しました。その頃はまだ臓器別の診療科の制度はなく、一般外科の中での心臓外科部門でしたので、一般外科医として、心臓のみでなく呼吸器・消化器・肝胆膵・甲状腺/乳腺の各グループで研修を受けました。その後、大学を飛び出していくつかの病院を転々とするうちに、人工透析にも携わり、6年前から脳神経外科を看板とする今の病院に勤務しています。
病院の性格上、脳卒中の救急患者を診る事が多く、いつの間にか一般的な神経内科の知識も身についてしまいました。現在、総合診療科的な一般医として、脳卒中だけでなく、消化器・呼吸器・循環器疾患のCT/MRI/超音波/内視鏡等の画像診断から高血圧・糖尿病等の慢性疾患指導など、種々の外来患者さんを「来るもの拒まず」で診療しています。
私の妻の場合、初発症状は右胸部の肋間神経痛でした。今年の5月下旬より「右胸が触るとピリピリして痛い」と言い初めました。鎮痛薬を飲む程の痛みではなく、私も「ヘルペス神経痛(帯状疱疹)じゃない?」と聞き流していましたが、いつまでたっても疱疹は出現しませんでした。6月になって、妻は「左足と右足の痛みが違う」と言い出しました。
下腿部の毛抜きをする時右足の痛覚が鈍いとのことでしたが、触覚・温覚には左右差はありませんでした。私はこのとき嫌な予感がしましたが、家族の事になるとなるべく悪い方には考えたくないもので、しばらく経過をみる事にしました。
とは言いながら、心の中では「2カ所の異なった部位の多発神経炎?ひょっとしてCIDP(慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー)?」と考えていました。(CIDPは脱髄の障害部位が末梢神経で、MSの中枢神経障害とは異なりますが、病状が進めば同じ様に運動障害や感覚障害をきたす難病です。)
私はどの学会の専門医の資格も持っていませんので、その時々に臨床で疑問を持ったテーマを決めて、関連した学会発表に参加するようにしています。今年は丁度6月下旬に横浜で「日本神経治療学会」に出席する予定を立てていたので、学会会場ではCIDPとMSを中心に発表を聞く事にしました。
その中に幾つか「MSとNMO」「NMOとアクアポリン-4抗体」に関する発表があり、NMOという病名を初めて知りました(一般医としてMSの概念は知っていたつもりでしたが、お恥ずかしい限りです)。
短い発表ではありましたが、古典的MSと比べてNMOは視神経と脊髄に病変が多い事、ステロイドのパルス療法の反応性が悪い事、血漿交換が有効な事、NMOの発病にアクアポリン-4抗体が関与している事などがおぼろげに理解できました。
学会会場からホテルの部屋に帰ると、妻から電話があり「今、お風呂に入ってシャワーを浴びたら、左足が水を当てても冷たく感じない」との事。「どのへんから冷たく感じない?」「おへそのちょっと上あたり。左側が冷たくない。」「足に力は入る?」「足の力は入るよ。だけど、階段登る時右側の大腿が上がりにくくて、手摺を持っちゃった。それから、廊下で転んじゃった」。
私はそれを聞いて一瞬パニックになりかけました。(えっ!! それって脊髄障害じゃない!)でも、電話ではできるだけ冷静に、「僕が学会から帰ったらすぐにMRI検査をしよう」と返事をしました。妻には「脊髄そのものの障害じゃなくて、椎間板ヘルニアによる圧迫症状かも」とは言ったものの、心の冷静な部分では(椎間板ヘルニアで左右の下肢の温痛覚解離が起こる訳がない)と判断していました。