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517 宇多田ヒカルの最新アルバムを聴いて
2002/1/9(水)23:56 - 芦田宏直 - 6148 hit(s)


 宇多田ヒカルの最新DVDが2枚出ている。「UH2」(2001/9/21発売)と「UNPLUGGED」(2001/11/28発売)。最近、年明けに2枚買ったが、「UH2」(ビデオクリップ集)は買わない方がいい。衣装も化粧も映像も三流の駄作クリップ集だhttp://www.tsutaya.co.jp/item/movie/view_v.zhtml?pdid=10020165。「UNPLUGGED」は、ライブDVD (MTV UNPLUGGED)。Wait&Seeから始まって、FINAL DISTANCEで終わる8曲集まったアルバムだが、これは悪くはない。最初、バンドの連中と音が合わなくて3曲目のAddicted To You からやっと何とか聞けるようになってくるが(最後になるほど演奏者とボーカルがぴったりと合ってくるが)、宇多田の唄の歌い方が手に取るようにわかってなかなかのものだった。小さな収録用のスタジオで唱っているため、メイクも衣装も普段の生活並みにそこそこ(UNPLUGGEDな化粧と衣装)。それがまた〈歌〉そのものを浮かび上がらせていてよかった。それがタイトルにあるUNPLUGGEDな感じ(PLUGを抜いた、リラックスした感じ)なのだろう。でも演奏者はもう少しお金をかけてワンランク上の連中を集めてもよかったと思う。ピアノもギターも編曲(特にストリングスの編曲)も60点ぎりぎりだった。現在、私の手元にある宇多田DVDのうち(UH1http://www.tsutaya.co.jp/item/movie/view_v.zhtml?PDID=10007687、ボヘミアンサマー2000http://www.tsutaya.co.jp/item/movie/view_v.zhtml?PDID=10014730、UH2http://www.tsutaya.co.jp/item/movie/view_v.zhtml?pdid=10019018、UNPLUGGED http://www.tsutaya.co.jp/item/movie/view_v.zhtml?pdid=10020165)、どれか一つだけというなら、「ボヘミアンサマー2000」だろうが(この中で歌った、尾崎豊の「I love you」と山口百恵の「プレイバックpart2」が特によかった。特に尾崎の「I love you」を尾崎以外の人が歌って様になったのを聞いたのは、この宇多田の歌が初めてだった。ついでにお母さん、藤圭子の「新宿の女」を歌ってほしかったが)、二枚目を買うとしたなら、この「UNPLUGGED」だ。宇多田の熱心なフアンなら「UNPLUGGED」が一番かもしれない。

 特にこのアルバムで藤圭子が全面的に宇多田をヘルプしているのがよくわかった(ちらちらとメイキングの場面で藤圭子が映っていたのが印象的だった)。私は、宇多田が歌っているときにはその最善の時でさえ(最善の時にこそ)藤圭子のほんの一部の才能でしか歌っていないと思っている。それくらいに藤圭子はすごかった。藤圭子の歌を聞きたいから、宇多田を聞いているようなものだ。現に藤圭子は、宇多田が世の中に登場してからは自らは歌おうとしない。たぶん、我が娘、宇多田ヒカルが自分(藤圭子)を歌手として抜いたときに、再び藤圭子は歌い始めるような気がする。誰にも(娘にも)言わない心の奥底でそう思っているような気がする。

 私は、個人的にはAddicted To Youが一番好きだが(最新の「traveling 」http://www.tsutaya.co.jp/item/movie/view_v.zhtml?pdid=10021939はパワーが落ちている)、ここ(「UNPLUGGED」)でしか唱われない仕方でのFINAL DISTANCEもよかった(「UH2」のFINAL DISTANCEはサイテー)。

 宇多田は決して歌がうまいとは思えないが(それでも紅白歌合戦の和田アキ子よりはうまいがhttp://www.ashida.info/trees/trees.cgi?log=&v=511&e=msg&lp=511&st=)、作っている人が歌っているという強みが前面化していてトータルには魅力的な歌になっている。加藤登紀子http://www.tsutaya.co.jp/item/artist/view_a.zhtml?artid=A001036が作って歌っても弱みにしかならないが、宇多田はそれが強みになっている。

 浜崎あゆみhttp://www.tsutaya.co.jp/item/artist/view_a.zhtml?artid=A064398も下手ではないけれど声の種類が一種類しかないのでたぶん長持ちしないだろう。森昌子http://www.tsutaya.co.jp/item/artist/view_a.zhtml?artid=A000532のようなうまさでしかない。松田聖子http://www.tsutaya.co.jp/item/artist/view_a.zhtml?artid=A000565の方が(浜崎より)うまいと言えるのは、声の種類が多重にあるからだ(最近は歳を取ってその多重な声音が平板化しつつあるが)。作りはしない〈歌手〉というのは、歌の解釈が命だから、声の色が均質なのは命取りだ。歌を自由にこなせないからである。CHEMISTRY http://www.tsutaya.co.jp/item/artist/view_a.zhtml?artid=A007640なんて、〈歌手〉と言えるほどに歌がうまいわけではない(ゴスペラーズhttp://www.tsutaya.co.jp/item/artist/view_a.zhtml?artid=A051846はもっとそうだがhttp://www.ashida.info/trees/trees.cgi?log=&v=511&e=msg&lp=511&st=)。彼らも自分たちで作っているのだろう、と思って下手な歌を許していたのに、(年末の紅白歌合戦のときに)息子に聞いたら他人が作った歌を歌っているらしい。許せないことだ。自分(たち)で作っていないにもかかわらず、歌う人(たち)は、みずからの歌(作者によって与えられた歌)の解釈を自由にできるだけの力量がなければならない。この〈解釈〉を歌唱力というのだから。稲垣潤一http://www.tsutaya.co.jp/item/artist/view_a.zhtml?artid=A001080だって、シンガーソングライターみたいな(モグラみたいな)顔をして人(他人)が作った歌を歌っているが、他人が作った歌を歌っている割には歌が下手だ。まして秋元康http://www.tsutaya.co.jp/item/artist/view_a.zhtml?artid=A538678なんてチンピラ作詞家が作った歌(たしか「ドラマティックレイン」http://www.tsutaya.co.jp/item/music/view_m.zhtml?pdid=20024434という〈雨〉についての理解がきわめて通俗的な駄作があったと思うが)を歌うには美空ひばり並みに歌を自由に解釈できる歌唱力(同じく秋元康作詞の、〈川〉についてのきわめて通俗的な理解に満ちた「川の流れのように」なんて、美空ひばりが歌わなければ誰も取り上げなかった歌だろう)がないとダメだ。

 音楽業界では、ちょっと下手な歌手は、「シンガーソングライター」として“売り出す”のが常道になっている。もちろん本人が作っているわけではない。あるいは、人気が落ちてくれば、松田聖子「作詞」なんて変種も出てくる(松田聖子に歌詞としての詩が書けるなんて、あるわけがない)。最近で言えば、有里知花http://www.tsutaya.co.jp/item/artist/view_a.zhtml?artid=A008736という新人歌手は、歌が下手なため、英語で歌って登場している(「Island Dancer」http://www.tsutaya.co.jp/item/music/view_m.zhtml?PDID=20035622という曲)。なかなかしゃれた曲で思わず買ってしまったが、何語で歌っているかわからないくらい英語も下手だった(私の息子は、「これ、中国語?」と真顔で問うていた)。たぶん、この歌手が日本語でそのまま歌ったら私はこの新人歌手を認めはしなかっただろう(現にこのアルバムの最後に「友情」という唯一日本語で歌う歌が入っていたが、聞けたものではなかった)。プロデューサーの売り出し戦略の勝ちなのである。

 作ることとそれを歌うこととの間には、微妙な関係がある。作ろうが、歌おうが、歌われた歌は、それ自体、〈存在する歌〉でも〈歌う〉ことだけでもない、相乗的な力強さを持たなければならない。宇多田の歌う唄には、それがあるように思えた。それでも、歌うことしかしなかったお母さん、藤圭子には未だに勝てていない(永遠に勝てないだろう)。だから藤圭子は永遠に歌わないような気がする。私は、この藤圭子の決断を絶対的に支持する。


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