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95 1/25(土)
23:58:17
 戸建て住宅を建てる思想  メール転送 芦田宏直  5714 

 
 今日は、午後2:00から桜上水駅前住宅展示場(http://www.purekyo.or.jp/main2-2-1.html)に行って来た。ある家族が家を建てるということで相談を受けて、私がプロデュース役を引き受けてしまったために、今日も明日もこの展示場に通うことになってしまった。私は、マンションに関しては4回も買い換えており、誰にも負けないアドバイザーになる自信があるが(http://www.ashida.info/trees/trees.cgi?log=&search=%83%7d%83%93%83V%83%87%83%93&mode=and&v=394&e=msg&lp=394&st=0)、http://www.ashida.info/trees/trees.cgi?log=&v=574&e=msg&lp=574&st=0、戸建ては初めての経験。謙虚に勉強させていただこうと、桜上水展示場のゲートをくぐった。

 予約を入れていたが、最初の予定は14:00から「三井ハウス」(http://www.mitsuihouse.jp/top.htm)の藤井慶介さん。名刺には「東京支店 桜上水営業所 ハウジングアドバイザー」となっている。

 まず最初に聞いたのは、「何が他のメーカーと違うところか?」ということ。「三井ハウス」の特徴は、「100%注文住宅。どんな細かい仕様の要求にも応えます」ということだった。なるほど、壁などは、何一つクロス(壁紙)仕様ではなく、塗り壁、珪藻土を使ったりもしている。窓枠もすべて木仕様。アルミサッシすら使っていない。なかなかのものだ。「この仕様で坪単価は?」と聞いたら、「100万円」とのこと。道理で。仕様だけではなく、バスもトイレもあか抜けしたデザイン的にも優れたものだった。

 この家で、私が初めて経験した設計があった。和室の設計で、押入が、中空に浮いているような設計。床から50センチくらい、天井から50センチくらい奥行き分(壁まで)開けてある。天井と床が押入の奥行き分、壁まで突き抜けているため、部屋が広く見える。上部の空間は間接照明の空間になっており、床の方は、置物で飾られている。床続きの段差のない床の間のような感じ。湿気対策としても抜群に有効なデザインだ。これには驚いた。『建物探訪』(http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/)でもみたことのない造形。「こんな中空の押入の設計、伝統的に何か仕様についての名前があるんですか?」と聞いたら、「いいえありません。私どもの設計です」との返事。仕様だけではなく、設計も優れている。設計が優れている理由を聞いてみると「会社内部に設計者をかかえるのではなく、外部提携で、お客様の意向(要求レベル)に合う設計者を選択しながらやっている」とのこと。大手メーカー系にありがちな「それらしい」家を造らないためにも、設計については、外部提携でやっているということらしい。なるほど。仕様と設計の高級感が「三井ハウス」。ただし、お金がかかる。これが私の「三井ハウス」についてのまとめ。

 次は15:00〜16:00で予約をしていた「旭化成」(http://www.asahi-kasei.co.jp/hebel/model/tokyo/sakurajyosui-B/index.html)。池崎克志(東京法人営業所設計課長)、矢代雅明(法人営業部営業一課 課長)、進政弘部長(法人営業部部長)のみなさんに対応していただいた。

 ここは、ALC鉄骨構造(http://www.architects-japan.com/kozo/s/s-3/05.htm)が特徴。防火性や地震などに強い。モデルルームの仕様は「三井ハウス」に比べるとはるかに貧弱なものだが、坪単価で30万円以上差が付いているから比較のしようがない。それを差し引いて考えると、印象としてはまじめなつくりのようなきがした。基本性能はしっかりしていそうだ。

 「特徴は?」と聞くと、『日経ビジネス』(http://nb.nikkeibp.co.jp/top.shtml)で「顧客満足度No.1でした」とのこと。日経系のこういった順位は、『暮らしの手帖』(http://www.kurashi-no-techo.co.jp/)ほどではないにしても結構信頼できる(と私は思っている)。「それはなかなかのものですね」。「何が評価されていると思いますか」と続けて聞いたら、「個々のお客様によっては、色々とあると思いますが」(池崎氏)とのこと。ここは、きちんとどういったことが評価されてるかを間髪入れずに言わなければならないところ(顧客の評価以前に自己評価がなければダメだ)。少しはぐらかされた感じだが、「たしかに住宅は代表的なクレーム産業だから、アフターケアなどが優れているんでしょうかね」と私が言葉を繋ぐと、「旭化成は、クレーム処理をすべて直接社内担当で処理しますから(間接的な下請けなどで処理をせず)、迅速な対応ができています」とのこと。

 「旭化成」の難点は、外壁の形状だ。ALCコンクリートパネルを鉄骨に貼り付けていくという構造だが、そのパネル模様が(何種類か選べるが)単純な造形でいかにも「旭化成」という感じ。昔の積水ハウスのプレハブ住宅を思い出す。私の注文は、「『旭化成』というのがわからないような外壁の提案をして下さい」ということだった。3人とも「ウーン … 」と唸られていたが。

 そこそこのお金で(そこそこのお金でも)、丈夫でしっかりした家が建てられるというのが「旭化成」、というのが私のまとめ。

 予約は、上記2社だけだったが、この展示場は、16社も参加している。もったいないので、ついでにあと2社くらいは見ておこうと思って、「パナホーム」(http://www.panahome.jp/east/tokyo/office/sakurajo/sakurajo.htm)に入った。星友晃(桜上水営業所担当)さん。「パナホーム」の特徴は、「旭化成」と同じように鉄骨造。しかしよく聞いてみると、「旭化成」よりはるかに(特に外壁の)自由度が高い。タイル張りなどもできるという。「旭化成」では「タイルを張ってこのALCパネルを隠せいないのか」と聞いたら、ダメそうだった。「パナホーム」なら、鉄骨造の平板さを隠せる仕様にできそうだ。もうひとつの特徴は、空調管理。床下と居室との温度差を利用した自然通気システムの構造が魅力的だ(http://www.abc-housing.co.jp/202_oka/model_house/national/sunnest_n/20.htm)。たぶん「旭化成」よりは10万円以上坪単価が高いだろうが、これはこれで充分候補に入る。

 鉄骨造ではあるが外壁の自由度の高い家を建てられる「パナホーム」、これが私の「パナホーム」のまとめ。ただし「パナホーム」はWEBサイトがサイテー。地域サイトに分断されていて、統一的なサイトにアクセスできない。家電もそうだが、松下系はWEBサイトがすべてダサイ。

 だんだん、戸建て住宅にのめり込んできて、調子に乗って、もう一件。「住友林業」(http://www.sfc.co.jp/)に入った。伊藤陽一さん(杉並営業所担当)。この会社の特徴は、在来工法の軸組構造。同じ仕様の木造住宅を作るのなら、「ウチの会社が一番安く建てることができます」と自信を持って言われた。「そうだよね。名前(住友林業)からして山を自分で持っていそうだしね」と私も答えておいた。たとえば、「三井ハウスも在来工法だけど、それより安く作れるの?」とだめ押しのように聞くと「大丈夫ですよ」とのこと。あとは設計力だ。

 「あなたがたの設計の基本方針は何?」と聞くと、「顧客本位です。色々なお客様がおられます。お客様(ユーザー)の要望にどれだけ応えられるかが私どもの一番大切にしているところです」と言う。私はこういった答えにおおいに不満だった。「素人の要望に応えてどうするの? 素人は、こうしたい、と言ったときに、そうすることによって犠牲になるものが何かわからずに言うことが多い。だから言うとおりにするとかえって不便になることも多い。さらに、こうしたい、ということがいくつもあったときには、まじめに考え出すと矛盾した仕様になることも多い(たとえば、「シックで明るい感じ」の部屋にして下さいというような)。いちいち聞いていると最悪の設計になることの方が多い。だから、住宅における顧客本位というのは、最悪の思想だと思う」と言ったのだが、まだ伊藤さんは私が言うことがわからない様子。

 そこで、そのリビングルームが板間(ウッディフロア)だったので、それを例にして話を続けた。「このウッディフロアでも、私は最悪だと思う。今日も3件くらいここの展示場の住宅を見ましたが、すべてリビングルームはウッディフロア。暮らしやすさを考えれば、絨毯の方がいいに決まっている。

 ウッディフロアは、声が響く。大声で電話していたりしたら、とても他の人はその部屋に同居できない。足腰にも悪い。ゴミは目立つから毎日掃除をしていなければならない(ほこりが丸見え)。スリッパをはかなければならない。赤ちゃんがいたらその堅さのために(頭を打ち付けたりして)危ない。コストが高く付く。そもそも床暖房=ウッディフロアという仕様も床が板のために寒いということから来たのであって、その意味でもコストが高く付いている。まともな絨毯なら、床暖房などしなくても良い。要するに百害あって一利なしの板間。

 アトピー症対策という考えも今は古い。最近では絨毯の繊維の技術も上がってきて、ほこりの立たない抗菌仕様の優れた絨毯がいくらでも出てきている。最近の都内の高級マンションも絨毯仕様が復活してきている。板間=高級仕様というのはそれ自体が貧乏性なのであって、そもそも生活のし易さ自体から外れた(田舎の不動産屋の)仕様なのである。

 住宅というのは、〈人間の暮らし〉に関わっているのだから、流行(や要求)を追う以前に、設計の思想がまず問われている。顧客が板間を要求したからと言って、板間仕様をそのまま提案する住宅メーカーの気が知れない」と私の第二弾。「そうですね。流行がありますからね」と伊藤さん。

 まだわかっていないようだったから、再度続けた。「たとえば、このエアコンの位置(と言いながら、私は自分が座っているソファーの頭上にあるエアコンの吹き出し口を指で指した)。さっきから気になっているのですが、エアコンの温風がずーっと私の頭に吹き付けている。こんな不快なソファー(とエアコン)の位置はない。

 こういったことは、『顧客の要望』という思想からは処理できない。何が言いたいのかというと、顧客が要望することは、家全体の設計からするとほんの一部であって、どうすべきかという〈判断(選択)〉が迫られる場所(箇所)は無限にあるわけです。

 言い換えれば、顧客の思い通りのリビングルームができても、エアコンの吹き出し口が自分がいつも座るソファーの上にあれば、一挙に不快なリビングになります。しかしエアコンの位置に見識のない顧客はいくらでもいるわけです。住宅ができあがって引き渡しが終わって、生活し始めるとエアコンからの風が頭や顔に当たるということがはじめてわかる。でも設計図をみると、(特に顧客が指示したわけでもないのに)たしかに間違いなくその位置にエアコンが付くことになっている。だから誰にも苦情が言えない。

 こんなことは家を建てた人なら誰にもあります。リビングルームのみならず、寝室のエアコンの位置などはもっと致命的なものです。こういったことは、顧客の要望本位という思想からは解決しません。顧客の無意識(暮らしの無意識)をどう設計力の中に取り込んでいくかが住宅メーカーの力量です。だから、いい家が建つかどうかは、あくまでも住宅の専門家としての設計力の問題です。重要なことは、人が建物の中に〈住む〉ということがどういうことかについての専門的な見識、洞察、思想なのです。だからあなたも顧客本位という紋切り型の話などせずに、会社として経験と見識に基づいた設計を提案してもらいたい」と私の第三弾。「わかりました」と伊藤さん。たぶん「ヘンなお客さん」とでも思われたのだろうけれども、どっちにしても「伊藤さんが設計するわけでもないのだから」と思い直して、「よろしくお願いします」と言ってその場を後にした。もう、5:00過ぎだった。

 在来工法の木造住宅なら、値段で何処にも負けない(本当かしら?)、というのが「住友林業」の特徴、というのが私のまとめ。ただし営業担当は結構たよりない(偶然か?)。

 追伸。伊藤さん論。この営業担当は、私が名刺をわざわざ最初に渡しているにもかかわらず、最後の段階で、来訪者カード(来訪者用紙)を書かせようとした。これは失礼だ。今日の業者で、私にこんなものを書かせたのはここだけ。飛び込みの「パナホーム」でさえこんな要求はしなかった。伊藤さん、マニュアル通りに動きすぎです。「顧客本位」ということを言うのなら、こういうときにこそ、お客さんを見て判断すべきです。追加マニュアル(1):自ら名刺を差し出したお客様に来訪者カード(来訪者用紙)を書かせないこと。

 今日のまとめ。家のグレードで言えば、三井ハウス→パナホーム→住友林業(パナホームと住友林業はたぶん同格。でも営業担当はパナホームの勝ち)→旭化成。コストで言うと、その逆。だからこんな段階では答えが出せない。

 明日は、三井ホームとミサワホームに予約を入れてある。楽しみだ。

 今回の住宅計画は、こうやって各社を回って、2月の上旬に各社を現地に集めて説明会を開き、その2週間後各社にプレゼンをしていただいて絞り込み、その段階で詳細な計画(仕様、価格)を立て直し、業者決定。コンペ方式をとろうとしている。現在予定しているのは、メーカー系を5〜6社。個人設計事務所を2社程度。数は多いほどいいが、一定数を超え始めると意味がない。それに評価に時間がかかる。各社に対していいかげんな評価をするのも失礼だから、きちとんと説明のできる評価をするためにはこれくらいの数が限界だ。コンペのマナーは、選択しなかった業者に対する説明責任がすべてだ。今回の住宅は敷地面積が30坪もない小さなものなので、余計にこのマナーは必要になる。

 さて、こういった計画を立てる場合、顧客は何をしたいのか、どんな家を建てたいのか、あまり(先走って)言わない方がいい。何人で住む。居住者の年齢。荷物の量。これくらいで充分。あまり細かく注文を付けると、各メーカーの設計力がどれくらいのものなのかがわからなくなる。自由に一次プランを描かせて、そのプランに要求を重ねていくという作り方がいちばんいい。

しかし、今週(20日〜24日)も朝8:00〜夜の10:00すぎまでテラハウスにとどまり毎日のように死ぬような忙しさだったが、土日には自分が建てるわけでもない住宅展示場見学。今年は年初から飛ばしすぎのような気がする。健康に幸あれ。


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