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198 | 9/25(木) 00:09:04 |
校長の仕事 Part10 ― 〈粗利〉と〈純利〉 | 芦田宏直 | 0 | 20352 |
先週(の授業評価のメモから)、建築工学科の高瀬先生の授業を覗いていたら、「粗利」と「純利」の話をしていた。「粗利」は、顧客との契約額(売上額)から現場でかかる経費(人件費も含めて)のすべてを差し引いたもの、「純利」はその売り上げを上げるのにかかった経費のすべて(「本社」のコストなど)を勘案した利益という言い方で説明しようとしていた。面白い話をしているな、と思いながら聞いていたが、これ以上突っ込んだ話を高瀬先生はしなかった(大いに不満が残った)。よほどその場で質問してやろうかな、と思ったが我慢した。以前授業中に突っ込んで先生を怒らせてしまい、次の週から来なくなった先生がいたから(http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=151)、今回は我慢した。後で高瀬先生に聞いたら、「経常利益」、「営業利益」、「キャッシュフロー」などの話は「先週話しておきましたから、今日はあまり触れませんでした」とのこと。 私なら〈粗利〉と〈純利〉をどう説明するだろう。〈粗利〉は顧客が見つかってからの利益。〈純利〉は顧客を見つけるまでの費用を粗利から差し引いたもの、と言うかもしれない(厳密には間違っているがそこから説明を始めると思う)。高瀬先生が「本社」を意識して「現場」という言葉を多用していたから、特にそう思った。彼はライオンズマンションを設計していた人だから、特に「本社」という意識は強烈だったのかもしれない。「現場」には、広報や営業コストの意識が存在していない。だから粗利を稼げ、という本社の要求が場合によっては鬱陶しいものになる。1円でも儲かっていればいいじゃないか、というように。でも広報や営業コストを差し引くと赤字になったり、粗利がかなりあるように見えても赤字である場合もいくらでもある。(粗利は)赤字でもいいからなんて(“本社”に)言われたら、もっとわけのわからない高度な“経済学(経営学)”が必要になってくる。 「現場」では、〈技術(工賃)〉と〈資材(資材費)〉とそれを活かす〈労力(人件費)〉があれば、それがコストのすべてだと考えてしまう(わが学生たちもそうだ)。しかし優れた技術を持っていても自立した企業体にはならない企業はいくらでもある。それが下請け企業と言われたり、中小企業と言われたりもしている。そのもっとも大きな要素の一つが、顧客を捜すことのコスト(広報や営業のコスト、あるいはブランドコスト)に関わっている。このコストを中小企業では担えない。 今日の社会が「消費社会」と言われるゆえんは、“現場”の技術や専門性とそれを受容する消費者との関係が直接的な結びつきを失ったことにある。顧客が見えないからこそ、〈消費市場〉は拡大したのである。「良いものは売れる」ということが言えなくなったからこそ「マーケット」は存在するようになったのである。 もっとも、こういった〈消費社会〉はインターネットというメディアによってさらに高次に消費化しつつある。生産者と消費者が直接に結びつくという新たなマーケットの可能性である(ともっともそうに言う「マーケター」がいる)。しかしこの直接性はますますの競争の激化を招来するだけのことだ。〈粗利〉と〈純利〉の差異は、このインターネット社会でも埋まることはない。むしろ中小企業であっても広告なしには存在し得ない時代になりつつあるということであって、すべての個人が〈粗利〉と〈純利〉の差異に引き裂かれる時代になりつつあるということである。 いずれにしても、わが学生たちは社会に出るとすぐに「見積書」を書かなくてはならなくなる。粗利の利益率(粗利の利益が純利に転換する指標)は、何によって決まるのか。これは、その学生の会社の経営“全体”に関わっている。コストを全体的に考えさせること、これをわからせることは、専門学校の生命線だ。考えようによっては、設計ができる、図面がかけること以上に実践性のある課題だ。大学の経済学や経営学には、厳密な“定義”にまみれて、この観点が欠けているのである。逆に、ここを説明できない専門学校は専門学校ではない。すべての技術や専門性にコスト(粗利と純利の差異)が存在している。これが職業教育の生命線だ。 ※ちなみに、『広辞苑』第五版には、以下のようなくだらない解説が載っている(こんな説明で何が“わかる”というのだろう)。私はいつも思うのだが、一つの解説に、それ自体説明されねばならないいくつもの専門用語を並べる「定義」はすべてウソだ、ということだ。それは真の専門家が行う解説ではない。ただのオタクの解説に過ぎない。 「粗利」:企業会計上の利益概念の一。商品・製品の売上高から売上原価を差し引くことによって計算される。企業の製造・販売活動の直接的な業績尺度となる。粗あら利益。粗利。マージン。 「純利」:会計上の利益概念の一。一会計期間の総収益から総費用を差し引くことによって計算される。経常利益に特別損益を加減したもの。純益。(いずれも[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]より) |
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