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123 3/8(土)
22:59:59
 予備校営業が突然家にやって来た ― リビングの家族の顛末  メール転送 芦田宏直  3035 

 
今日(3月7日金曜日)も一日が10分くらいの忙しい一日だった(10分というのは誇張でも何でもない)。朝6:30に朝食を取ったまま、一日中食事もせず、22:20くらいにテラハウスを出た。その間、会議が三つ。レポートが一つ。テラハウスICAの広告原稿が三つ。NIKKEI NET取材記事の校正が一件。麗澤大学教授一行が2時間の商談。武蔵大学教授一行の2時間の契約話が一件。オリコとの電子決済の契約話に一時間。コンビニ決済の業者との商談が一件1時間。テラハウスの来期カリキュラムとテラハウスパンフレット作成の打ち合わせ。あっという間に22:00。もうこの時間になると目が見えなくなり始める。ところがこれだけ目がくぼんでパンダみたいになっているのに、それに食事も昼夜抜いているのに、お腹だけはくぼまない、痩せない。どういうことだ。

帰り道、運悪く、都心は22:00を過ぎると道路工事が始まり、かえって道路渋滞がひどくなる。もう運転する気も起こらない。「初台」インターから首都高で帰ることにした。スピードを出さないといつ眠ってもおかしくはない。タイム計測。私は「高井戸」インターで降りるが、新記録。少し混んでいたが、初台→高井戸、2分。目が覚めたが、余計に疲れてしまった。

やっと辿り着いたと思ったら(10:50)、来客中。息子と家内が対応している。「誰?」と家内に聞いたら、予備校の「営業の方」らしい。山崎さんという人。

個人指導中心の予備校らしい。全国で30校以上ある予備校らしい。組織の母胎は都内にたくさんの専門学校を有している学校法人。私もよく知っている。さっそく、息子の隣に座って,話を聞くことにした。

「太郎君のお父さんですか? お会いしたかったです」と挨拶された。

私はこういった営業と営業の電話(要するに予備校評価)には、必ず二つの質問をすることにしている。一つは「東大に現役で何人入れたの?」(息子を東大に入れるかどうかは別にして)、もう一つは「先生はどんな人がいるの?」である。私が「東大」にこだわるのは、東大の数学や歴史の試験は暗記や知識だけでは全く歯が立たない問題が出るからだ。よくもまあこんな問題がとけるね、といった“考えさせる”問題が出る。だから、そんな東大問題に“対策”を立てられる教員は、そういない。それにしては、「東大」の卒業生には大した奴がいない。一説に寄れば、そんな優秀な問題を解いた学生たちも、難しいけれど平板な公務員試験(官僚になるための上級公務員試験)の準備でふたたびダメになるかららしい。

ところで「東大」現役入学は「何人?」

「156人です」。

「全国で?」

「そうです」。

「息子が通うことになる新宿校、代々木校からは何人入ったの?」

「それはわかりません」

「それじゃ、そこに、いい先生がいるかどうかわからないじゃないの」

「そうですけど、自信はあります」

「何で、そう言えるの?」

「実際、たくさんの学生を東大に入れているからです」

「でもあなたが教えた訳じゃないでしょ」

「そうですけど」

「誰(どんな先生)が教えた生徒が東大に入ったのか、というデータはあるの?」

「ありません」

「それじゃ、どうやって、信じろというのよ」

「合格するかどうかは、先生ではなくて、生徒のやる気です」

「違うよ。やる気を起こさせるのが先生の仕事だよ。やる気がある学生を教えるくらいのことは、誰でもできるよ」

「でも私は、カウンセラーとしてたくさんの生徒を合格させてきました」

「それは違うよ。『やる気』という科目が東大の試験科目にあるのなら、話は別だけど、実際の点数は国語の点数であったり、数学の点数であったりするのだから、教員の実力が問題のすべてなんだよ。大学受験くらいの内容になってくると、教員の専門的知識の有無が『やる気』の原点であって、カウンセリングで救える合格なんて、大した合格じゃないよ。うちの息子の戸山高校の教員なんて、まともな教員がひとりもいない。予備校の先生の方がずっと奥の深い知識を(ただ暗記しろなんていわずに)教えてくれる。それが『やる気』のすべてだと思うよ。あなたがカウンセラーとしていくら優秀でも、実際にその生徒が戻っていく(あなたの学校の)数学の先生がくだらない学習指導を行ったら、その生徒は絶対に受からないでしょ。だから先生なんだよ、結局は。だからどんな先生がいるのか、その情報を頂戴よ」

「それは今ありません。でも先生が気に入らなければ、交代させれますよ」

「そんなに分厚い資料集を持ってきておいて、なんで教員データが一つもないのよ。交代、交代のあげく、最後まで気に入らなければどうするのよ」

「そんなことは絶対ありません。自信があります」

「『そんなことは絶対ありません』とあなたが思うその情報を私にも頂戴よ。そうじゃないと、私を信じてください、と言っているだけのことだよ」

「たとえば、どんな情報が必要ですか?」

「どの教員が東大に、あるいは早稲田に何人入れたのか、とか、教員の定着率、たとえば、あなたの会社に何年間くらいいる講師が多いのか。それと平均年齢。常勤率、非常勤率なんかどうですか?」

「わかりませんね」

「それじゃ、あなたは何に『自信』を持っているの? どうやって、『自信』を持ったの?」

「現にたくさんの合格生を出しているからです」

「それは単に結果であって、その背後には、たくさんの落伍者もいるわけでしょ。私の息子が、そのどちら(合格か不合格か)にはいるか(合格か不合格か)は結果や実績だけではわからない。実績は大切だと言うけれど、どうやって、実績を出したのかを説明してくれないとあなたの学校に息子を入れる決定はできないよ。実績というのは、半分ウソなんですよ。だって、悪い実績もあるのだから。でも悪い実績は決して言わないでしょ。占い師が当たった実績しか言わないのと同じ。それについて私はあなたに責めている訳じゃないよ。営業ってそういうものだから。だからいい実績の話だけでいいから、どうやって、その実績を出せたのかを知りたいんだよ」

「じゃあ、何をお知りになりたいのですか」

「だから、先生はどんな人がいるの? どの先生がどんな実績を出していて、その先生はこちらで自由に選ぶことができるの? そもそも先生は何人くらいいるの?」

「100人くらいです。自由に指名もできます」

「100人もいるのか。自由に指名できるのだったら、指名率というのがあるでしょ。そのランキングデータがあるでしょ」

「わかりません」

「あるに決まっているじゃない。だって、その人たちの講師料はどうやって決めているの? 指名率が多分、決定的でしょ。その指名率の高い教員に教えてもらえるの?」

「大丈夫です」

「大丈夫って言ったって、その人は、センターで管理されていて、都内の各学校に派遣されているのだから、こちらが受講したいときには引っ張りだこで、ほとんど受講できないでしょ。10回に1回くらいじゃないの、実際にいい教員に指導してもらえるのは」

「そういうこともあります。でも他にもいい教員がいますから。それに私が息子さんの学習に万全のご相談にのりますから」

「ダメだよ。なんとなく、あなたの学校の仕組みがわかってきました。結局、『個別指導』『個人指導』と言ったって、100人くらい(常勤、非常勤含めて)講師を登録プールしておいて、“注文”があれば、そのとき空いている(時間の取れる)講師をあてがう。講師の質の不安定な分(場合によっては毎回講師が違ってしまい不安定な分)は、あなたのような“カウンセラー(学習指導員)”がその不備を補う、そういう“システム”があなたの学校でしょ。そんな学校ダメだよ。それじゃ、誰が、合格させたのか、わからない。何をあてにして、あなたの学校へ入れればよいのかわからないじゃないの」

「私を信じて下さい」

「でも、あなたが教える訳じゃないんだから。それに私の息子は、あなたに“相談”することはないよ。勉強で教えてほしいことはいくらでもあるけど」

「そうですかね」(と言いながら、静かになる)

「そうだよ。あなたの学校、よくないよ。結局、教員の内容的な実力じゃなくて、ヒューマンマネージメントのようなもので成り立っている。都内のパソコンスクールや英会話スクールによくあるパターンだよ。穴の空いているバケツ(指導力のない教員)の水漏れをあなたのような(ヒューマンな)“相談員”が補いながら、退学率をカバーするんだから、多分、あなたの学校は、いい教員がいないんだよ。そもそも、いい教員が個別指導なんてするわけないじゃない。いい教員だったら、コストも高いのだから、一度にたくさんの生徒を教えなければ経営的には割が合わない。『個別指導』『個人指導』します、と言うキャッチは、『いい教員はいません』と言っているのと同じだよ」

「 … 」

「あなた、何歳?」

「31歳です」

「こんな仕事していて面白い?」

「いや、楽しいですよ。自分の担当した高校生が目指す大学に入って、感謝されたりすると、この仕事をして良かったと思います」

「そうかね。もっといい学校、いい先生のいる学校を営業しないと」

「そんなこと無いです」

「なんで」

「僕、実は母子家庭で育ったんです」

「あっ、そう。お父さんは生き別れ? 死別?」

「生き別れです。僕が二歳の時に離婚しました。僕は捨てられたんです」

「何言ってんの? 両親が離婚しただけのことじゃない」

「違います。お父さんは兄を選んで、僕はお母さんの方に残ったんです」

「あっ、そう」(思わず、絶句した)

「だから僕はお父さんに捨てられたんですよ」

「お父さんとは連絡があるの?」

「ありません。母の両親には時々連絡があるみたいですが、僕には教えてくれません。兄は結婚して子供ができたみたいです」

「お父さんには会いたい?」(このあたりから、私の家内がとなりで泣き始めた)

「いやー(本当に困った顔をして)。怖いですね。会いたいし、会いたくないし。会っても何を話していいのかわからないし」

「それは会いたいってことだよ。そうだよね。自分のお父さんに会いたくない子供なん
ていないよね」(このあたりまで来ると、さっきまでの予備校選択のトークの場からリビングの雰囲気が一転)

「そうですかね」

「お母さんはあなたを育てるのに大変だったでしょ」

「今でも働いています。僕も広島大学を目指していたんですけれど、2浪しても入れず、結局、日本福祉大学に行って奨学生になり、学費もアルバイトで稼ぎました」

「大学出たあとは、どこに就職したの?」

「今の会社です」

「何でそうしたの」

「教育に関心があったからです。夢は広島に今の学校を作って(広島には支店がないんですよ)、お母さんのところに戻りたい。実は、ごく最近結婚したんですよ。福祉大学の友達だった人なんですけど。それが、東京都大島出身で、お母さんは東京に僕を捕られたと思って淋しがってると思います」といいながら、彼女との結婚式の写真をおもむろに取り出して、私に見せてくれた。元気そうな奥様で、楽しそうな二人が式場の前で映っている。どんな顔をして見たらよいのか私が恥ずかしいくらいだった。間がもたないから隣にいた息子や家内にもすぐさま回した。

「よかったね」と恥ずかしそうに私。

「僕、高校生と話していて、真っ先に思うのが、この子のお父さんはどんな人なのかな、ということなんです。お父さんとどんな話をしているんだろうと、思うんですよ」

「お父さんがいないから、余計そう思うんでしょ」

「そうですかね」

「そうだよ。だから、あなたがお父さんになったつもりで話しているんだよ。そうやって、あなたは、自分のお父さんを自分で思い出そうとしているんだよ。カウンセリングの度に、あなたはお父さんのいなかった自分の生い立ちを必死で補おうとしているんだよ」

「そうですかね」

「そうだよ。それがあなたのカウンセリングが、同じように淋しい(家庭があっても、お父さんがいても家族の会話のない)高校生に訴える何かがあるんだよ」(もう、となりの家内は泣きっぱなし。息子は予想もしない展開にとても興味津々)

「そうですかね」

「そうだよ。あなたが、この仕事をしている意味がわかったよ。いい仕事を選んでよかったね」

「そうですか」

「あなたは、進学相談や進学指導をしているんじゃなくて、都市の孤独な生徒たちの話し相手になっているんだよ。それがあなたの存在している意味だよ」

「だから、あなた私のところに最初に電話してきたときから、『お父さんも一緒に私の話を聞いてほしんですけれど』と言っていたのね。私はやめておいて方がいいよ、と言っていたんだけど」(と家内が泣きながら、笑いながら言う)。

「若い子と話していると、そのお父さんと話したくなるんですよ」

「そうだね。もう遅いよ」(もう時間は11:50分)

「電車がなくなるから、早くしたほうがいい。また機会があればいつでも来てください」

「今日はためになりました」

「そう言ってくれれば、いいけど。私も今日は特に疲れていてね」

「申し訳ありませんでした。芦田さん、なぜか私の父のようにも思えたりして」

「俺、駅まで送ってくるよ」(と息子がなぜか言う。「えぇ」と家内が静かにびっくり。いつも無愛想な息子がそんなことを言うものだから)

後で息子に聞いたら、「勉強になったよ。受験頑張ってね」とまじめな顔をして話していたらしい。京王線蘆花公園駅から分倍河原方面最終にかろうじて間に合った(彼の家は川崎の多摩区)。もう深夜12:30近くだった。

山崎さんは今頃、奥さんに、昨日の我が家のリビングでの出来事を話してるのだろうか。奥さんは、昨日の夜は「夜勤で家にいない」と言っていた。大島出身の奥さんも福祉施設で働いているらしい。たぶん、自分のお父さんと話したようになって(僭越だが)、話し続けているのかもしれない。そう思うと胸が熱くなる。山崎さんに、一つだけ大切なことを言うのを忘れた。「お父さんがあなたを選ばず、お兄さんを選んだのは、ただあなたがまだ二歳の幼少で、男の手で育てるのにはとてもかなわない年齢だったことだけのことだ。だからお父さんは決してあなたを選ばなかったわけじゃない、捨てた訳じゃない」と。もう一つ、今にして思ったことがあった。結婚式場で幸せそうに映っている二人の写真をとっさに恥ずかしそうに見せてくれたのも、お父さんへの報告のように見せてくれたのか、ということだ。

なんとも不思議な一日だった。都市の一日には色んなことが起こる。どこまでが仕事でどこまでがプライベートかわからない。本当に「芦田の毎日」だ。


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