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【増補改訂版】今日の大学教育の衰退について ― あるいは、学力論、動機論、試験論、そして教育の組織性についてver15.0[これからの大学]
(2022-10-18 22:51:24) by 芦田 宏直


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言わば?お客さま苦情相談室?のような体裁によって教員個人(メンター=担任)が学生個人個人に対応することになる。この場合、優秀な(●●●)相談員の本質は、苦情や不満や不安を?上(学科長、学部長、学長など)にあげない?ことである。商品の欠陥についてクレームがあったとしても、相談員は商品(●●)を作り直すことはできない、また?お客さまの声?を企画・生産側に上げたとしても、今現在の目の前のクレームに対応できるわけでもない。相談員はそのクレームをそこで抑えなくてはならない。その意味で現場の対応で処理することができるのが優秀な(●●●)相談員の評価指標となる。

たとえば、「授業がわからない」「授業がむずかしい」と、メンター教員が学生から苦情を受けても、「しっかり聴いていればわかるから」「今はわからないかもしれないけど後でわかるようになるから」「あの先生の授業は難しいんだよ、だから気にすることはない」「まずは授業を休まないように」「もし不安なら僕が教えて上げるから遠慮なく研究室に来て」などなどの指導(●●)が続く。したがってメンター指導は、学生に我慢を強いる指導である。苦情の発生源である「わからない」授業は全く手付かずに終わるからだ。挙げ句の果てに「わからなくても大丈夫、試験なんて気にしなくていいよ」と教員自らが言い始める。これがメンター指導の末路だ。

メンターの丁寧な指導(●●)を受けても、ふたたびその学生は「わからない」授業に一人で戻っていく。?できる?学生なら「この教員のこの授業に期待してはいけない」という優等生的な?良識?が働くが ― できる学生の方が教員評価、授業評価は甘い場合も多いが ― 「わからない」学生は日夜苦渋が続くため、我慢が続かない。我慢すれば大卒という〈学歴〉だけは残ると言っても、高大学歴の学生と出口のところで戦える自信はほとんど何もないのだから、大学に我慢してまでとどまる意味はなくなる。だから大学偏差値と退学率は相関(逆相関)するのである。

低偏差値の大学の学生はクラブ活動をやめるようにして、そして人間関係、友人関係などを理由にして退学する。「この大学とはミスマッチ」だったと。「わからない」授業(=教員)が変わる、改善されるなどと学生は思っていないからだ。できる学生なら、教員の出来をみて、自分の態度を変えることができるが、?できない?学生はその種の態度変更ができない。全部自分の所為にして、自分を追い込むばかりだ。「何を言っても言うことを聞かない学生がいる」という教員の認識は、この?内閉?の結果に過ぎない。学生の心が閉じる前に授業が閉じているのである。授業を改善するきっかけはこの指導からは何も生まれない。

メンター主義が授業改善の契機にならない理由は、したがって二つある。一つは、メンター教員は授業評価や授業指導のラインではないということ(そもそも同僚の授業にケチを付けるわけにもいかない)。二つ目には、苦情があってもなくても、試験調整(●●)によってほとんどの学生が期末試験には合格するため、「(授業がわからないことなど)気にしないでいい」という含意でもって指導に当たるからだ。つまり「わからない」授業がただちに大量不合格者を意味しないため(そのことがわかっているのは学生ではなく、慢性的に試験調整しているメンター教員だけなのだが)、「わからない」という学生の悲鳴を知的に(●●●)理解するチャネルが教員には存在しない。学生を慰めること、学生に勇気を与えることばかりに集中する。

しかもメンター主義的なヒューマンな指導(慰めること、勇気を与えること)にも実際は成功していない。というのもヒューマンな指導には相性(教員−学生の関係を超えた相性)がつきものだからだ。大学教員の採用の際、ヒューマンな指導に期待して教員を採用することなどしない。そんなことを言い出したら街のNPOのお兄さんやお姉さんの方がはるかに指導の?専門性?は高い。それは、「大学教員はヒューマンな指導が不得意だから」という理由からではない。ヒューマンな相性など、人それぞれだからだ。仮に「元気な」先生や「面倒見がいい」先生が成果を出す場合が多いにしても、何人もいるメンター教員の「成果」を合算すれば、成功数と失敗数の差し引きはプラマイゼロの成果(●●)にしかならない。「うまくいくときはうまくいく、うまくいかないときはうまくいかない」ということを毎年くり返しているのが、メンター指導の実態なのである。

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