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【増補改訂版】今日の大学教育の衰退について ― あるいは、学力論、動機論、試験論、そして教育の組織性についてver15.0[これからの大学]
(2022-10-18 22:51:24) by 芦田 宏直


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※箇条書きの冒頭が「・」で始まるパワポはパワポの箇条書きプレゼンの最悪な部分を象徴した表記と思っていい。まずは順不同を意味するほどに構成的に思い付きの箇条書きですよ、と自己吐露しているようなものという点で。さらには参照指示性に劣る。教員が授業中どの箇条書きをみてもらいたいかを指示する場合、「三つ目の・を見て」という相対指示になってしまうという意味で。授業中の参照指示性を配慮するという大学教員は残念ながらほとんどいないが(だから「・」教員は多くなる)、授業中には、教科書、資料、教材、パワポ、板書など様々なメディアが存在しており、それらについて「○○の何を見て」と指示しても、学生のすべてがその箇所を(指示されたと同時に)共有することはほとんどない。見ようとしないのではなくて、見ようとしている内に時間が経ってしまい、教員のトークはもはや別の箇所に飛んでいるというのが実態だ。念入りに作り込まれた教材もその時の(●●●●)参照指示性が弱いと有効に機能することはない。そもそもその参照指示をする教員自体が、その時これを指示する(●●●●●●●●●●)というところまで計画を組むことなどほとんど神業に近い。質問対応(における参照指示)ならそもそも予想もできない。その意味で、一つの資料や教材に連番を付けたり、その資料内や教材内の頁番号は必須としてそのページ内の通し行番号を付ける(「通し行番号」を打つ機能はMS-Wordの基本機能として存在している)、また図版などにも連番を付けるなどの工夫が必要となる。この種の工夫が足りないのは、?語り?パワポ授業が蔓延しているからだ。学生は内容的にも指示の共有という点でも置き去りにされている。

この種の、参照性さえ配慮しないパワポ授業の何が問題なのか。箇条書きのそれぞれは、それ「について」語るトークの始点を意味しているだけのことであって、その内実は、時間と共に消え去るトークの方にあるからだ。消え去るトークの方に授業内容の実体があるのだとしたら、これを理解することは至難の業である。一つ一つの箇条書きの一行についての理解にとどまらず、その一行と次の行との行間の意味も、もちろんトークに消え去っている。またいくつかの箇条書きをまとめた一枚のスライドと?次の?スライドとの間の意味もトークに消え去っている。ひどい授業になると一枚目のスライドで盛り上がりすぎたトークが次のスライドの内容にまで及び、次のスライドを開いたら、「もうこの話は終わったから」と言って三枚目のスライドになる場合も多い。要するに、「スライド」という単位が授業(教育)にはそぐわないのだ。

学生は行間、スライド間の意味をすべて、消え去るトークを媒介にしてしか理解できない状態に追い込まれている。これではよほどのノート取りの名手でない限り、授業内容を理解できない。その上、ノート取りは優等生でも難しい知的作業になる。学力のない学生ほどノートを丁寧に(色分けしながら)?映像?として写し取ろうとするが、できる学生ほどポイントしかノートには取らない。この知的な経済原則をわきまえている学生はほんの一握りの上位学生にとどまる。後の学生は、帰宅してパワポを見ても、取り損ないのノートをみても「なにもわからない」ことになる。

学会などのパワポ発表を見ても、何百インチもの大スクリーンに、大きなグラフや図表などが映し出されて、発表者はひたすらそのグラフや図表「についての」意味や解釈を語り続けているわけだが、その語り自体は巨大なスクリーンであってもどこにも記されていない。質問は、その?語り?を含めたグラフや図表の意味についてのものだが、?語り?のどの点についての質問かも、場合によっては話者自体が覚えていなかったりもするため噛み合わない場合も多い。研究者同士であってもそうなのだから、授業での教員と学生とのやりとりはもっと噛み合わない。?語り?はクリッピング(マーク)できないため、質問も抽象的になってしまう。また箇条書きの「・」の抽象性のために、否定的な意味で書いていることが肯定的な意味で学生に理解(誤解)される場合も多い。

?パワポ授業の現象学 (2)―箇条書きの反対語としての「narrative形式」

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