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【増補改訂版】今日の大学教育の衰退について ― あるいは、学力論、動機論、試験論、そして教育の組織性についてver15.0[これからの大学]
(2022-10-18 22:51:24) by 芦田 宏直


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※国立大学(旧帝大)の退学率は、東京大学0.5%、名古屋大学1.2%、東北大学1.5%、北海道大学1.5%、九州大学 1.9%、大阪大学2.1%。私立大学では、慶應大学2.6%、早稲田大学2.8%、上智大学2.9%、法政大学3.2%、明治大学3.3%と続く。なお、私立大学の平均は11.0%、国公立大学の平均は2.9%である。低偏差値大学の退学率が20%を「優に」超える実態は『大学の実力2019』(讀賣新聞)を参照して頂きたい(いずれも『大学の実力2019』讀賣新聞)。

なぜ入学時の教育格差を相対化する力を、現代の大学は持てないのか。その要因の大きなものは、大学内での単位認定?システム?が全国ほとんどの大学で杜撰だからだ。

杜撰になる理由は、二つある。

一つ目は、1980年代中後半の中曽根臨教審答申を受けて1990年代以降始まった大学〈大綱化〉〈新学力観〉施策によって「多様な評価」「観点別評価」が前面化し、単位認定上の履修判定全体における期末試験評価の比重がかなり下がったということ。ひどい大学になると期末試験比重が30%しかない大学もある。残りの70%は、実質的には「関心・意欲・態度」評価になっている。これが修得評価(試験主義)と分離された履修評価(出席主義)の実態である。これをマーチン・トロウは、日本的な大学の「請負sponsored」主義と呼んだ(「高等教育の構造変動」in『高学歴社会の大学』※)。
※トロウがこの論文を書いたのは1973年だから、まだ日本の大学の進学率が20%前後の時代だが、その段階でも講座徒弟型の「請負sponsored」主義は色濃く存在しており、大学全入時代の今日では形を変えて非試験主義的な「請負sponsored」主義が残っている。教員は相変わらずゼミ・演習授業にしか興味を持っていない。

〈標準性〉なしの「多様な」AO入試を行う全入大学では、入学後の期末試験もまた〈標準性〉なしの「多様な評価」を行って落とさない(●●●●●)学内体制を敷いている。入口で落とさないのなら、入学後も落とさないのは当たり前のことでしょうと言うかのように。

たとえば、「線形代数」という数学科目の「達成度評価」が、「試験30%、小テスト30%、レポート15%、その他25%」となっている工業大学がある(文科省に、大学改革における先進事例シラバスとして評価の高い大学なのだが)。この場合、期末「試験」は、満点を取っても30%(30点)の評価しかない。逆に0点でも30%(30点)の打撃しか受けない。期末「試験」0点でも、他の要素(他の「観点」)で70点取れる可能性は残るため、合格できる場合があることになる。

そのシラバスの「達成すべき行動目標」を読んでみると以下の5項目が挙げられている。
? ベクトルを理解し、その演算を計算し応用することができる。
? 行列の意味を理解し、行列を用いて計算することができる。
? 連立1次方程式を「掃き出し法」を用いて解くことができる。
? 1次変換を理解し、それを行列で表現することができる。
? 毎回の授業に出席し、授業内容の理解に努め、演習や宿題をやり遂げることができる。

?〜?まではなにも小テストやレポート評価を入れなくても、期末試験で普通に計算問題を出題すれば済む「行動目標」指標にすぎない (そもそも数学で「行動」目標とは、いったいなんのことだ。「できる」表現と「行動」とは何の関係もない)。?のわけのわからない「行動目標」がいわゆる〈意欲〉評価の眼目である。「試験30%」以外の「小テスト30%、レポート15%、その他25%」(そもそも「その他」とは何か)の70%分はすべてこの?の「行動目標」に関わっている。工業大学の「数学」でさえもこんな評価をやっているのだから、他の文系の講義科目はもっとひどい現状にあると言ってよい。全国の大学で20年以上前からこんなことが起こっている。

二つ目の理由は、もっと深刻かもしれない。

たとえ、「多様な評価」「観点別評価」を排除し、90年代以前のような期末試験一元主義を取ったにしても、その試験の難易度や採点基準が曖昧なままにとどまると、「多様な評価」や「観点別評価」が期末試験自体に内在化(●●●)されるだけで、杜撰さの実質は何も変わらないということだ。


この期末試験自体に内在化してしまった試験の杜撰さは、
?出題箇所の事前開示
?採点基準の事前・事後調整
この二点にある。

? 出題箇所の事前開示については(特に偏差値の低い小規模大学に多いケース)

1. 初回の授業から頻繁に「ここから試験に出る」「この個所は試験に出る」といったよう指示を何度も行う。
2. 試験直前の授業回などで、試験内容を圧縮したアンチョコプリントなどを学生に開示する。
3. 試験直前の授業回などで、出題内容を強く想起、暗示させるようなダイジェスト版授業を実施する。
4. 模擬試験のようなものを行い、同じか類似の問題を出すと暗示(あるいは明示)しつつ授業を行う。
5. 特に合格しそうにない学生だけを集めて試験主義的な補習(前記4項を総動員したような補習)を行う。

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