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大学の授業改革はなぜ進まないのか ― 大学における期末試験不正について[教育]
(2021-11-29 18:18:55) by 芦田 宏直


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●大学教育(学校教育)のレベルを担保するのは、〈試験〉

1. 今日の大学の序列化は、入学時の偏差値(入学試験のレベルとその解答のレベル)で決まっており、残念ながら、在学四年間の教育力がその入口の偏差値を相対化するところにまでには至っていない。文字通り、東京大学の入学試験は「とても難しい」という評価に伴って(その入学試験を解ける大学生の?基礎学力?の高さによって)大学の教育評価の大半が決まっている。

2. その要因は、大学内期末試験(毎期の履修判定試験)が全国ほとんどの大学で杜撰だからだ。

3. 杜撰になる理由は、大学は〈学校教育〉最後の学校になり、上位接続がないため在学期間の教育の第三者評価(客観的な評価)が〈就職〉という、学校教育体系とは異質な評価で曖昧にされているからだ。

4. その分、大学の教育目標も形式的には立てられるが、それよりも入学時の学力(偏差値)の方がはるかに第三者的で当てになるため、企業の就職担当も卒業時においてさえ〈地頭〉とか〈性格〉とか ― 両者ともコンピテンシー能力の一部 ― を重視することになる。これは大学教育への根本的な不信と諦念から来ている。

5. 不信と諦念から来ているにもかかわらず、この不信と諦念に悪乗りして「アクティブ・ラーニング」とか「コミュニケーション」能力育成とかハイパーメリトクラシー能力育成 ― 教育目標が明確に定めづらい○○力という〈力(りょく)〉能力育成 ― に走るアホな大学も多々ある。不信と諦念はますます拡大するばかりだ。

6. さて、高校までの中等教育でも、授業を行う者(教員)と、試験を作り、採点を行ったりする者とは同一の場合も多いが、偏差値中位以上の高校では、不断に外部模擬試験も行われているために、期末試験の難易度の妥当性や学力測定を標準化する環境がそれなりに整っている。

7. また長い苛烈な受験競争の中で培われた有益で豊富な〈参考書〉や〈教材〉類が揃っており、予復習の環境も整っている。つまり大学受験を目標にしながら、高校の授業自体を生徒や保護者が評価できる環境が存在している。

8. しかし大学の授業は、教育目標はもちろんのこと、授業中の教科書、資料、教材評価という観点からも、学生が、教員の授業を評価できる環境は皆無に近い。事実上、日本の学校教育で一番信用できるのは高校歴(+まともな予備校)の学力(=大学受験時の能力)までで、入学後四年間の大学教育の実体を示すものは何もない(せいぜいオール英語の授業をやり、TOEICのスコアを競う程度のもの。しかしそれも資格教育だから、本来の大学教育ではない)。

そうなるのは、形骸化した試験を繰り返し、〈試験〉不在の教育をやっているのが一番の原因。それは、自分のやっている仕事に泥を塗っているようなもの。なぜなら教員は科目担当者として自分の名前の下(もと)に単位を認定しているからだ。共同研究の論文執筆において指導教授(first author)ともめる研究者もいるくせに、科目の単位認定のときには自分の名前を気にしない〈研究者〉がいるというのはいかがなものか。〈研究〉か〈教育〉か以前の問題だと言える。

9. 〈試験〉を杜撰に行うなら、シラバス(コマシラバス)を詳細化するのも、履修判定指標を詳細化するのも、小テストをコマ単位で行うのも、まったく無意味。そもそも自分で授業をやって、自分で試験や採点をやるのなら、目標の詳細化(シラバスの充実)やそれに対応する試験の詳細化(履修判定指標の充実)をやっても意味がないのだから。だから、ほとんどの教員はシラバスにも履修判定にも小テストにもまったく関心がない。「面倒くさい」と思っているだけだ。

10. しかし〈試験〉こそが学生の成長の可視化の根源にあるのだから、コマシラバスや履修判定指標を詳細化するくらいなら、〈試験〉の遂行と内容を客観的に(第三者的に)詳細化した方がいいに決まっている。今のままでは、試験自体としては難しい立派な試験に全員合格させても誰も信じない。「できない学生が本当にいるんですよ」と訴える教員に限って、標準偏差5.0、不合格者0名の試験をやり続けている。

そのような深刻な事態がどのようにして生じているのか、その原因はどこにあるのか。


●試験の出問調整と採点調整について

【出題箇所の事前開示】

1. 初回の授業から頻繁に「ここから試験に出る」「この個所は試験に出る」といったよう指示を何度も行う。
2. 試験直前の授業回などで、試験内容を圧縮したアンチョコプリントなどを学生に開示する。
3. 試験直前の授業回などで、出題内容を強く想起、暗示させるようなダイジェスト版授業を実施する。
4. 模擬試験のようなものを行い、同じか類似の問題を出すと暗示(あるいは明示)しつつ授業を行う。


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