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「観点別評価」と「生涯学習」と中曽根臨教審、あるいは〈主体的な学び〉について(『シラバス論』321〜331頁)[これからの大学]
(2020-03-15 02:03:48) by 芦田 宏直


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※「知識」データベースと教育との関係は、本書「シラバス論」註37、およびその本文の前後の議論を参照のこと

●まとめに代えて ― 「たった一日の、一点刻みで人生を決める」紙試験こそが、階層間移動を可能にしている

さて、ツイッターのような異なる階層間の異文化交流が日常的に可能になり得たのは、文字の知性化に加えて、短い時間の出来事の短い表出が前提となっています。そもそも〈人物〉とは、長い時間によって形成されるものだからです。形成される時間が長ければ長いほど、それはクラス(民族、国民、階級・階層、家族、名門企業など)を形成し、階層的なそれらの平均値としてのビヘイビアが問われることになり、主体(個人の現在を含めたこれからの努力)よりも環境優位(過去優位)な体制ができあがります。〈人物〉とか〈人格〉とか〈個人〉などの評価は、平均値評価としての環境評価、過去の実績評価とほとんど同じ事なのです。

そして、短い時間の評価の象徴が、「たった一日の受験で人生が決まる」「一点刻みの知識点数差で人生が決まる」日本的な受験体制でした。竹内洋が言うように、日本の「一日受験」選抜は「過去の達成の御破算主義」「敗者復活装置」であって、中等教育までの学校間格差を増幅する不平等は日本では(アメリカほどには)存在していなかったし、「一点差」は差異の単位としては最小単位の相対差 ― 上にも一点差、下にも一点差 ― であって、クラス差にはならない。一点差主義は、クラスで括らない、純粋な個人主義としての反平均点主義であって、大学間格差がクラス差(階層差)を形成していたとしても、最小単位の相対差でもって形成されたクラス差であることによって、階層差別性を相対的に軽薄なものにしていたわけです。

反面接試験としての紙試験、つまり「知識」試験と「一日受験」「一点刻み選抜」は、社会的な階層間移動の原理を形成するものです。点数紙試験改革のみならず、何回も学力試験を行い、選抜試験点数のゾーンを設定し(かつての、国立大学の一期校、二期校というゾーン化のように)、記述試験を強化するという今回の入試改革は、むしろ長い時間の平均値による環境優位な選別(オイコス選抜)、階層主義的な人物評価を強化するだけなのです。

経済格差問題は、学校教育にとっては家庭格差問題であり、家庭の子供保護機能が働かない状態で〈知識〉受容・指導の強度を弱めてしまうと ― 「学力の三要素」という仕方で ― 、家庭格差(階層格差)を再生産してしまうということに、今回の入試改革は無知なままです。低中位生徒・学生にこそ、彼らの〈学ぶ主体〉に依存せず〈知識〉受容・指導圧力をかける施策が重要であるにもかかわらず、事態はその逆へ進み、ますます貧困層(家庭貧困層)がシャッフルされないままに放置されるわけです。

2008年末の「学士課程の構築に向けて」答申では、「多様性と標準性の調和」「学際(インターディシプリン)的な教育活動について、関連する学問の知識体系(ディシプリン)に関する基礎教育が必ずしも十分になされていない」と多様性・総合性路線 ― 遠山文科大臣以降の「特色」化」「特色GP」「現代GP」などのほとんどの採択事案にみられた力(りょく)能力取組、つまりコミュニケーション能力(りょく)開発、創造力(りょく)開発、思考力(りょく)・判断力(りょく)・協働力(りょく)開発など対する取組に反省のきっかけが生まれました。これらの力(りょく)能力取組では、文科省も自覚しているとおり「標準性」や「学問の知識体系(ディシプリン)に関する基礎教育」がほとんど棚上にされ続けたのです。

しかしその反省も民主党政権によって雲散霧消し、安倍政権によってふたたび臨教審路線に先祖帰りしました。最新の文科省答申である「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」(2018年)では、「多様性と柔軟性の確保」となり、〈標準性〉はすっかり消えてしまいました。知識の軽薄化路線は、やみそうもありません。30年以上家庭階層格差が放置され続けているわけです。(了)→大学カテゴリーランキング

※初出「大学入試改革の時代錯誤について」in「教育と医学」No.733(2014年)、慶應大学出版会

(『シラバス論 ― 大学の時代と時間、あるいは〈知識〉の死と再生について』321〜331頁より)
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