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「観点別評価」と「生涯学習」と中曽根臨教審、あるいは〈主体的な学び〉について(『シラバス論』321〜331頁)[これからの大学]
(2020-03-15 02:03:48) by 芦田 宏直


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最近、文科省は〈学習指導要領〉を改定し、「知識を使う」力を養う必要を、新指導要領に盛り込むそうです(2017年2月14日改定案発表)。知識「を使う」という言葉は、知識「を(単に)持っている」だけの状態に対比して使われています。

しかし、知識試験としての紙試験(ペーパーテスト)を「解く」ことと「知識を使う」こととを区別するのは難しい。点数が高い生徒や学生は「知識を使う」術(すべ)を心得ている。今時の全入時代の大学入試であっても暗記で解ける大学紙試験(ペーパーテスト)など存在していないのです。

たとえ、100歩譲って、それは「解ける」問題(テスト)、「解答が既に存在している」問題(テスト)に過ぎない、肝要なことは「解けない」問題(テスト)に取り組む態度を養成することなのだと言っても、解けない問題の解答の採点基準は、四択問題や記述式問題でさえなかなかまともに作れない現在の試験作成能力では、公平性や客観性に欠けるに違いない。「観点別評価」の裁量評価と同じように受験生に迷惑をかけるばかりだ。センター入試は、客観的で公平な四択問題において〈考える力〉を測ることに沿って年々進化してきたわけですから。

そもそも知識を持たないとできることがほとんどなくなるという点で、「技術の進歩」というのは、技能が知性化される事態とほとんど同義です。もちろんインターフェイスの進化によって、知らないと操作できない技術はどんどん縮小していくでしょうが、それは操作の知であって、知ることそのものではない。知性の普遍性というのは、〈才能〉とか〈経験〉とか〈勘〉(あるいは〈手先の器用〉)とかがなければできなかったことが、?勉強?すればできないことはなにもないという確信、つまり〈自由〉の意識と関わっています。その確信が福澤諭吉をして、『学問のすゝめ』(明治五年)を書かせたわけです。

〈美容〉や〈調理〉の分野では留学生は卒業後日本では就職ができない。その理由は、それらの分野は、わざわざ(知的に)勉強する分野ではなく、〈技能〉、つまり見よう見まねの経験主義的な技術分野であって、特に留学してまで〈学ぶ〉分野ではないと日本政府(法務省入国管理局)は判断しているからです。徒弟制の色濃く残る分野だと言い換えてもよい。実際にそれらの分野がそうであるかどうかは、ここでは詳しくは触れませんが、技能から技術への転換には、〈科学〉が介在しています。〈技能〉の可視化としての科学と言ってもいい。あるいは〈技能〉が数学や計算の対象になったということです。

今日、職業教育の高度化(=職業教育の一条校化)が声高に叫ばれるのも、従来の専門学校の職業教育が技能主義にとどまり、技能が科学主義的に再編された専門性=技術にまで高まる気配がないからです。その技能主義の傾向の強い専門学校職業教育の分野の中でも特に美容や調理の分野は技能色が濃いと判断されているわけです。専門職大学ができたということは、「高度な」職業教育の必要性からのことですが、「高度な」の実体はインターシップが長期間にわたってあるかどうかではなくて、これまで「経験を積まなければ」見えてこなかった職業コンピテンシーのようなものをどう体系化するかに関わっています。

●AI教育の限界と知識主義

コンピュータやAIの技術が進んでいるこの時代にあって、〈知識〉の集積や暗記は、コンピュータに任せて、「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」、そしてまた「道徳」や「創造性」などをこそ、学校教育の課題としなければならないと文科省は盛んに言い続けてきましたが、AIは、むしろそれらのものを〈知識〉に集約できるからこそ、そこまで進化したのです。それは〈知識〉の勝利 ―  厳密に言えば、知識の勝利の一つのあり方 ―  であって、〈AI〉vs〈人間〉、〈知識〉vs〈人間〉の問題なのではない。敢えて言えば、〈知識〉への集約性こそが、人間力なのです。

映画『オデッセイ』に出てくる植物学者のマットデイモンは、火星であっても一人で二年近く生き続けました。植物学者としての知識の強度(専門性やストック)が彼に、?生きる勇気?を与えたのであって、その逆ではなかったわけです。火星のような、そもそも努力や熱意や主体性、あるいは勇気だけでは生きていけない世界にこそ、知識は有用なものとなる。つまり、火星はそれ自体で「知的に」存在しているわけです。そして「知識社会」と呼ばれる今日の社会は、火星と同じほどに知的に変貌を遂げつつあるわけです。つまり、マルクスが唯一の自然として残した「(最近誕生したばかりの)オーストラリアの珊瑚島」までもが今では人工的に再組成されています。

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