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NHK『思い出のメロディー』 ― ベッツィ&エマの『白い色は恋人の色』はサイコーだった。[TV・芸能・スポーツ]
(2006-08-12 23:58:34) by 芦田 宏直


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今日のNHK『思い出のメロディー』(http://www1.plala.or.jp/nakaatsu/06omo.htm)は良かった。番組が良かったというよりは ― 番組として良かったのは秋吉久美子の若い頃の写真が冒頭写ったときだけだった(よくもまあ、あんなかわいい、美しい自分の写真を前にして今の本人が出てこられるものだ) ― 、ベッツィ&クリスの『白い色は恋人の色』(昭和44年)http://www.fukuchan.ac/music/j-folk2/shiroiirowa.html がすばらしかった。

※ちなみに、その時の映像がYouTubeにありました。こちら(http://www.youtube.com/watch?v=GruCSmqNcjU)

この歌は、私が高校1年、15歳のときの歌でその当時は大して好きでもなかったが、今日は、ベッツィが娘と一緒にハワイから実際に駆けつけ、しかもその娘のエマと一緒に『白い色は恋人の色』を歌うという。美しいお嬢さんだ。クリスは現在ハワイで先生をしていて、歌うことからは一切身を引いているらしい。なーんだ、残念、と思っていた。

ところが、実際二人が並んで歌い始めるとあの天使のような歌声がよみがえってきた。娘さんが若さにキラキラしている。お母さんになったベッツィは優しく娘を包むように歌う。時々並んだ娘の方に目をやり気遣うように歌う。娘も、大丈夫よお母さん、とでも言うかのように母親に目を遣る。一世代を超えたボーカルが天使のようなハーモニーと共に帰ってきた。当時と遜色のない、それ以上のハーモニーだ。

37年前のベッツィ&クリスの『白い色は恋人の色』は、まるでこのベッツィ&エマの遠い未来のハーモニーのためにあるかのようだった。長い長い時間をかけなければ熟成しない歌がここにある。このハーモニーは時間のハーモニーだった。

ベッツィ(&エマ)は、新たに、ハワイのフラダンスのジェスチャーを組み込んで、歌にとけ込ませていた。こんなふうにこの歌は歌えるんだ、と私は感心しきりだった。ギターで弾き語りのように歌うベッツィ&クリスの当時から考えれば、思いもつかない優しいフラダンス。

特に「ふるさとのあの人の、あの人の足もとに咲く白百合の」の手のひらを上にしてつまみ上げるように指先をすぼめて一気に上に向かって広げるそぶり(たぶん白百合が咲く様子を意味している)は、手話のような精度に満ちたジェスチャーだった。「恋人」は胸に両手を重ねるように当てる、「想い出」は右手をこめかみあたりに持っていくのだろうか。フラダンスがにわかに好きになった一瞬だった。

たぶん今回の来日のために親子で一生懸命練習してきたのだろう。ボクシングの亀田親子でもない、ゴルフの横峯親子でもないさわやかな親子がここにいた。

亀田親子も横峯親子も私は嫌いではないが、ベッツィ&クリスの祖国を離れた孤独な青春がこのような仕方で回帰する家族のハーモニーは、本来、家族(やふるさと)は遠くで見守るものだという愛情の本質を言い当てている。愛情とは〈時間〉だ。それは、亀田親子、横峯親子の親子愛にいちばん欠けているものだ。

歌詞の二番になって「夕焼けの赤い色は、想い出の色」とベッツィが歌い、続いて「涙でゆれていた、想い出の色」とエマが独唱するところは圧巻で、単なる伴唱かと思っていたら、エマが独り立ちするかのように歌い上げた(エマの日本語はお母さんの日本語に勝るとも劣らぬくらいに美しかった)。歌詞の二番に入る前に、お互いチラッと見合い、いよいよ歌うのよ、とベッツィがエマに小さく手をさしのべたのが印象的だった。

私は、大丈夫か、大丈夫かと心配していたが(このNHK『想い出のメロディー』はいつもはらはらさせる)、エマはそんなことを打ち消すかのように見事に歌い上げた。ここではもう私は、なぜか涙、涙で、大泣き。なぜ泣けてきたのかわからないが、とにかく泣けて泣けて、一緒に小声で歌っていた声が出なくなっていた。私はたぶん遠い愛情の美しさに泣いていたのだ。

ベッツィ&クリスが、まだ“外人”もそんなにたくさんいない昭和44年の日本で『白い色は恋人の色』を歌ったのは、たぶんこのエマの年頃。日本は「たいへんきれいな国」だと今日、ベッツィが日本語で言っていたが、娘も「それを感じてくれていると思います」と言って歌い始めた。

40年近くを経て、母への異国の拍手を受け止める娘のステージの印象はどうだったのだろうか。こんなことは滅多に体験できることではない。感慨ひとしおなのは、ベッツィその人だっただろうが、私も負けず劣らず泣かせていただきました。もう3時間以上経っているが、今も胸が熱い。

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