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今日は術後治療で大失敗をして滅入ってしまった。
手術後私の鼻の穴には「綿球」(そう看護婦さんたちは呼んでいるが、要するに丸く丸めた直径1センチくらいの綿の固まり)が入っているが、術後直後はまるまる1個が左右の鼻の中に入り、さらに三つ横にまとめた綿球が鼻の出入り口のところ強い粘着力のあるテープで貼り付けられるというものものしいものだった。これはあきらかに出血対策。これくらいしないと血が止まらない状態だった。手術後丸一日がこの状態。
その後は、綿球一個ずつが左右の鼻に入っている状態。毎日の診察時(午前中にある)に外して中を消毒することをくり返す(ネブライザー=吸入器を使うときにも外すが)。週も明けて月曜日にもなれば、血はほとんど止まり、日曜日にはすでに綿球も一個ずつというよりもはさみで切って半個ずつになっていた。月曜日の診察の後、たしかに先生に「芦田さんきれいに直ってきていますね」とは言われながらも「(綿球を)外さないでくださいよ」とも言われていたのだが、「(血も止まってきているのに)なぜですか」と聞くのを忘れたのが悪かった。
病室にもどってきて看護婦に(「外してもいいよね」と)聞いたら、「いいですよ。血は止まっていますよね」と聞かれたから「止まっていますよ」と答えて、一件落着。久しぶりに気持ちよく一晩眠れた。
ところが、今日の朝の診察時に今日の担当医師(術後の医師は毎回変わる)に「芦田さん、綿球付けていましたか」とドキンとする質問。「看護婦に聞いたら、外してもいいと言われまして」なんて言い逃れるしかない。
その医師は「どういうつもりで言ったんだろう。担当医との間で何かあったのかな」なんて真剣に悩みはじめた。ああ、また大学(大学人の人間関係)かあ、と私の方が恐縮した。
「綿球は血を止めているだけではないのですね」と私が気を利かして聞いてみた。
「そうなんですよ。手術後のこの段階では内部を乾かしてはいけなんですよ。手術をしてポリープを大量に切り出したと言っても元々そんなに広い場所ではないですから、術後キズで膨張している粘膜同士がふれあったまま乾燥してそこにかさぶたのようなものができてしまうとまた塞がる可能性が出てくる。しめったまま(くっつかないまま)ゆっくり時間をかけて修復した方が手術の効果が高くなるわけです。そのためにも乾かさない方がいい、空気を通さない方がいい」
そう言えば、数年前どこかで“湿潤療法”というのを聞いたことがある。最近の切り傷は昔のようにかさぶたができたら、そこで治療終わり、というのではないらしい。かさぶたは実は治療の失敗の跡であって、出血キズはキレイに拭き取ってバンドエイドと共に血を固まらせて治療終了というのは誤りらしい。出血した直後の血を止めたら、後は膿が出てくる状態の湿潤性を保持することが大切で、その膿の湿り気がばい菌と生体が戦っている戦場であって、この状態(生体の自己免疫性)をできるだけ長く維持することが傷跡が後々残らない最大の療法らしい。最近は、湿潤バンドエイド(綿の部分がしめっているバンドエイド)のようなものが売られている、というのを聞いたことがある(買って使ったことはないが)。
なんで、こんなことを知っているくせに、その自分が綿を取ってしまったのか? 鼻の穴こそ、湿潤療法の最先端の場所であることは明らかだ。たぶん、私は素人としてはこの医師の言うことを一番理解できている。
「芦田さん、一晩で、ほらこんなにかさぶたができてしまっていますよ」と3、4センチの長さの薄いかさぶたがピンセットのようなもので取り出された。
「大きいものはもう一度取り去って、皮膚をリセットしましょう。今度は綿球を取らないようにしてください」
「わかりました」とは言ったが、最初から理由を言っといてくれよ、とも思った。
その後(夕方)、主治医の松脇先生が夕方来られて、退院と退院後の治療の打ち合わせ。やはり綿球の話になって、「そうなんですよ。この手術は湿度の高い梅雨の時期にやるのが一番いいんですよ。今だと空気が乾いていて、粘膜が乾きやすい。きれいに治らないんですよ」。
「ということは、退院後も綿球は詰めておいた方がいい、マスクもした方がいいのかな」
「そうですね。環境が許せば、その方が手術の効果ははるかに高いですよね。粘膜面も綺麗に治りますよね」
「わかりました。徹底して綿球を詰め続けます。もともと詰まっていた鼻なのですから、今さら、呼吸しづらい、なんてことはないし(笑)」
「明日、退院後の生活など、そのあたりを打ち合わせましょう」とそこで別れたが、一時間ほどしてまた松脇先生、病室に登場。
見舞いの人間がそのとき二人来ていたが、病室の入り口まで呼び出されて「芦田さん、ちょっと」。
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