その後(http://www.ashida.info/jboard/read.cgi?num=183)のエンジンメンテナンス科の授業。
K先生とH先生のパワーポイントは格段に進歩した。K先生のパワーポイントは、単に画像が張られているだけではなく、そこに解説文字までが記入されている。そのうえ、実物(マスタシリンダ)が持ち込まれ、大きさの実感も手に取るようにわかる。よく実物以上のものはないと思いこんでいる教員がいるが、こうやって、画像、文字、実物と三つのメディアを教室で見るとそれぞれの長所・短所がよくわかる。画像や図像(絵)では〈仕組み(構造)〉がわかる。特に分解しづらい部品(や分解に時間のかかる部品)などの場合はそうだ。それに解説文字が加われば、その構造の〈機能〉や〈目的〉がわかる。ただし、画像と文字の最大の欠陥は、特には大きさがわからないということだ。寸法が入ったとしても、それをイメージ(実感)にすることはむずかしい。〈構造〉と〈機能〉がわかれば、最後に〈大きさ(や形の実体=質感)〉をつかませる、これで〈理解〉は100%になる。
K先生の授業のいいところは、できうるかぎり、英語の意味を添えてカタカナ部品の説明をしようとしているところだ。プッシュロッド(押し棒)、インレットポート(inlet:吸入、port:口)などが授業シートに盛り込まれており、「タンデムマスタシリンダ」などの説明の時も、「tandemというのは2頭(以上)の縦並びの馬車なんて意味があるんですよ」と説明していた。「2系統ブレーキの一方が破損等しても(一方の馬が疲労で動けなくなっても)、残りの系統のブレーキ(=もう一方の馬の動力)だけは確保できるようにピストンを2個直列に配列した構造」を有しているものを「タンデム」(タンデムマスタシリンダ)と言う。「タ・ン・デ・ム」と教えるよりははるかに印象に残る説明だ。カタカナ部品の名称を〈音〉で覚えさせようとせず、〈意味〉で理解させようとしている。
自動車系の授業はもともとカタカナ名称(自動車部品の)が多い。英語を6年以上もやってきた学生にカタカナで意味もわからずに教えるというのは学生をばかにしている。それに英語で教えた方がはるかに〈理解〉は進む。〈意味〉がわかるからだ。意味もわからずにカタカナを列挙されると、それは単に物理的な音の連続にとどまり、〈理解〉ではなく、単なる〈記憶〉の課題に堕してしまう。面白くない授業だ。
英語ができない学生に、音で記憶させるというのは、単なる“しごき”に過ぎない。英語で教えた方がはるかに負担は低い。そうしないで、「日本語の常識も知らない学生に英語で教えるなんて、とんでもない」と言う教員は、単に自分もまたカタカナで覚えてきた、英語を知らない教員にすぎない。そんな状態を放置するから整備業界(自動車整備業界)のレベルも上がらないのだ。現にメーカーの配布する整備マニュアルは誰にでもわかるように工夫されている。要するに「整備工」というのは、労働社会学の用語で言えば、「マニュアル職」に過ぎず、〈意味〉を理解して働く職業扱い(=専門職扱い)されていない。だからこそ、カタカナがあふれた「マニュアル」や「教科書」になってしまうのである。そんなものにわが東京工科専門学校の自動車整備科は倣ってはいけない。
K先生の授業はその点で決意と工夫がある。自動車系の教員は、場合によってはクルマよりも英語に詳しくなければならない。英語の苦手な教員はすぐに「自動車用語辞典」などを引いて、そのままそこに書いてある英語用語を記載したりしているが、それではダメ。それは英語の苦手な教員のすること。まともな教員であれば、普通の英和辞書(「ジーニアス英和辞典」が抜群にいい)をひいて、“普通の”英語の意味を把握した上で説明を試みるものだ(したがって、机上に「自動車用語辞典」だけを置いて普通の英和辞書のない教員は減点だ)。たしかに「タンデムマスタシリンダ」は縦列に(=直列に)馬が並んだような構造をしている。専門用語辞典(「自動車用語辞典」)では、その意味がすでにテクニカルターム化(=硬直化)しており、日常的な意味が摩滅してしまって、理解に資する記述が少ない。特に自動車系の専門用語辞典にはろくなものがない。「マニュアル職」扱いされてきた“上級職”が書いている場合が多いからだ。
そもそも専門分野の教員で「専門用語辞典」を引くこと自体が素人の証拠。それは「教育」のことを知りたいから、「教育」という文字が背表紙に出ている本を捜して読む素人の本の読み方に似ている。そんなところに「教育」について大切なことなど書かれているわけがない。言葉の世界を馬鹿にしてはいけない。