●リクルートカレッジマネジメント「社会人市場をいかに取り込むか」連載? 「e-ラーニング」の意味(2)
社会人教育と学生教育の一番大きな違いの一つは、学生教育は体系的だが、社会人教育は必ずしも体系的とは限らないということである。その意味は、社会人は主には仕事上の経験の必要から学ぶべき課題をあらかじめわかっている、ということである。したがって、場合によっては、その学習は、極めて部分的、断片的であったりもする(それゆえにこそ重要だというように)。一言で言えば、学生教育は受容的だが、社会人教育は目的的なのである。
だとすると、社会人教育を供給する側の課題ははっきりしている。まず、何が学べるかを明示すること。何が学べるかだけではなく、どの程度に学べるか(内容のレベル)、どういった方法で学ぶのか(学び方)、どれくらいの日程・時間で学べるのか(スケジュール)、そういったことが、学生教育よりははるかに正確に提示されていなければならない。
社会人教育が安定して広がらない最大の課題は、たとえシラバス(講座概要)が詳細化して提示されていても、実際に受講してみると無駄が多かった、難しすぎた、易しすぎたということはいくらでもある。テラハウスの場合も、それを避けるために一コマ単位(昼間の講座は一コマ90分、夜間の講座は一コマ2時間40分)で講義概要を作り、一コマ単位で講座選択(講座契約)ができるように細分化したカリキュラム体制を敷いてきた。しかし、それでさえも、まだ無駄な時間があるというのが実情だ。
目標が細分化された90分の講座(テラハウス昼間講座の一コマ分の授業時間)でさえも必要な知識と技術は「15分間だった」。まして2時間40分の講座(テラハウス夜間講座の一コマ分の授業時間)であれば、もっと無駄な(必要でない)内容は増えることになる。社会人学習が目的的、というのは、一講座の中にではなく、その中の一コマの時間の中にさえも無駄があるということを意味している。
そういった無駄は、しかも実際に講座を契約して実際に受講しなければ分からない無駄だ。「シラバス(講義概要)」からでは絶対に分からない。「シラバス(講義概要)」通りの講座を実際に正確に実行している場合でさえも生じる無駄なのである。
こういった無駄への不安感が、社会人教育市場が安定的に広がらない要因の一つをなしている。受講料も損する、時間も損する。社会人講座を受けた人の大半が、この失望感を持っている。
逆に目的的に学ぶ、というのは相当難しいことだということである。シラバスの厳密さや詳細度とは別のことだからだ。経験と目標のある社会人では、たとえエクセルの講座であれ、会計学の講座であれ、100人いれば、100の目的があると思った方がよい。
〈教室講座〉では、細分化は一コマ止まりだ。これ以上に細分化はできない。一方、〈フリータイムレッスン〉では、教材(コンテンツ)があらかじめメディア化(CD−ROM化、DVD化、サーバー化など)されているため、受講者が自分の学習目的に適う箇所を見出しやすい。しかしその分学習が個人的になり、教育の本来的な効果(教育の共同性:前回のカレッジマネジメント当該記事を参照のこと)が薄い。
要するに、〈教室講座〉では、メディア化されたコンテンツに伴う検索機能が働かないのだ。受講生同志の口コミだけが頼りというのが実情。これでは、教室講座にどんなに教育力があっても、あてにならない。それ自体が受講後の評価に過ぎないからだ。
この問題を解決するためには、教室講座自体をメディアに載せるしかない。メディア化の最大の利点は、「いつでも」、「どこでも」学べるということにあるのではなく、学びの必要な箇所が時間を超えて(時間に制限されることなく)見いだせることにある。テラハウスでは昨年の秋から、まず昼間講座の全300講座(300講座×90分)を、生きた授業のままビデオ収録した(講座のライブビデオ化)。
こうすると、「早送り」「巻き戻し」で、必要な箇所だけを集中的に学ぶことができる。知っているところは「早送り」、初めて学ぶところは「巻き戻し」。これらを繰り返すことによって、講座の(受講者にとっての)意味を確定することができる。これは、場合によっては教室講座受講のシミュレーションを行っていることにもなる。どんな受講カウンセリングよりも、“親身”で“正直”なカウンセリングである。これは、必要な講座だと思えば、実際に受講すればいい。ビデオ程度で済ませられる内容だと思えば、それで済ませればいい。いずれにしても教室受講の手前で“判断”が可能になったのである。
しかしビデオ化は、圧縮、短縮された形であれ、これもまた実際にテープを回さなければならないという意味では、教室授業に似ている。一度は、すべてに目を通さなければならないという意味では、やはり面倒な作業が伴う。結局、講座検索は、このやり方では,人間が人間的に行っていることになる。シラバス(講義概要)を読んでいる以上に詳細な仕方でではあるにしても。