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2006年度卒業式式辞 ― 〈顧客満足〉とは何か? (二枚の写真付き)[入学式・卒業式式辞]
(2007-03-16 21:27:49) by 芦田 宏直


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皆さん、卒業おめでとうございます。

今日はたくさんの来賓の方、保護者の方が皆さんの門出を祝して列席されています。

来賓の方々、保護者の方々、3月の年度末でお忙しい中、列席頂いてありがとうございます。学生、教職員を代表して感謝の意を表したいと思います。

私が皆さんの前に立つのは、2回目。1回目は入学式式辞。2回目が今日。卒業式式辞は最期の講義です。最期だと思って覚悟して聞いてください。

4月から社会人になるみなさんが必ず言われるようになる言葉があります。

「お客様を大切にしよう」という言葉です。

一見当たり前のように思える言葉ですが、本来の意味で理解するにはなかなか難しい言葉です。

みなさんは、卒業する今日まで〈学生〉でした。だからみなさんの価値の基準は、「正しいか、間違っているか」だったと思います。

学生にとっては、基本的には試験判定が優劣を決めますから、答えが正しい、間違っているということがすべてだったわけです。

その上、皆さんのほとんどは、エンジニアの教育を受けてきました。「エンジニア」とは語源的にも物に関わり、物を作る人のことを言います。

みなさんは、いわゆる工学的な勉強をしてきたわけです。物を作ったり、物をなおしたりするのに、まちがったこと(正しくないこと)をしたら、思うようにことは運びません。

〈エンジニア〉はその意味で正しいことをする人を意味しています。間違ったことをしたら、車も走らない、家も建たない。ホームページも動きません。

その意味でもみなさんは正しい、正しくない、何が正しいのか、何が間違っているのかということを大切な価値観として、ここまで過ごしてきたわけです。

ところが、「お客様を大切にしよう」というのは、正しい、正しくないという問題ではありません。

正しいことをやっていても、お客様が認めないことがあります。そんなことはいくらでもあります。

車の整備をした。完璧になおした。でも、「調子が悪いんだよね」とお客様に言われる。技術的にはもうこれ以上直しようがない。先輩に見てもらっても、所長に見てもらっても、もはや直すところはない。でもお客様は「調子が悪い」と言いつづける。そんなことはいくらでもあります。

そんな時に「やるべきことはやりました」なんて言ったら身も蓋もありません。筋の通らない文句を言いつづけるお客様に「私は正しい」なんて言ったらもっと大事(おおごと)になります。

お客様との「関係」というのは、白黒をつける場所ではないのです。

学校の試験なら、答えが合っていれば=正しければ、それで◎と点数がついて終わりですが、仕事の現場では、正しいことが確認されてからが仕事になります。

正しいということをお客様にわかってもらわなくてはならない。

お客様が“わかる”ということを仕事の現場では、“正解”とは言わず、〈納得〉、〈満足〉というふうに言います。お客様に納得して頂く、満足して頂くということです。

「顧客満足(Customer Satisfaction)」という言葉をみなさんはどこかで聞いたことがあると思いますが、それは、試験で〈解答〉を得るよりははるかに難しい課題です。

この言葉が使われはじめたのは、30年前。日本が高度成長を果たして消費社会が成熟しはじめた頃です。「お客様を大切にしよう」「顧客満足」というのは今では当たり前の言葉のように聞こえますが、実はつい最近の歴史的な言葉なのです。


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